スペインの2強が獲得を目指し、ジーコも認める才能

ヴィニシウス・ジュニオール。現在17歳のブラジル人FW。フラメンゴの至宝であるだけでなく、プロ2年目の今年はその活躍により、実力はもちろん、人気も全国区で急上昇中だ。

昨年5月、レアル・マドリーが、当時まだ16歳だった彼との契約を発表したニュースは、世界中に報道された。しかも、バルセロナとの争奪戦の末の獲得で、報道によると、移籍金は4500万ユーロ(約56億円)、ブラジルサッカーでもネイマールに続く史上2番目の高額となった。

そして今、レアル・マドリーからは、今年7月12日の彼の誕生日、つまりFIFAによる国際移籍の条件を満たす、18歳になる日を心待ちにされている。

国際的には「新ネイマール」の呼び声が高い。

比べる必要はないのだが、そのプレースタイルには共通点がある。身体能力が高く、スピードと瞬発力が特徴。ドリブルとフェイントで相手を抜き、1対1では相手に止められない技術を持つ。視野が広く、ピッチのどこにでも現れる。左サイドでのウイング的な役割が得意だが、右サイドでも、中央でもプレーできる。178センチの身長とあいまって、スペイン紙「AS」が「ネイマールの現代版、かつ、フィジカル的には彼よりも強い」と評したほどだ。

よりゴールへの意識が高いネイマールに対し、素晴らしいスピードでかき回した後、自らシュートを打っても良い場面で、パスを出してしまう時があるのは、経験の違いか。

90分を通して存在感を示すネイマールに対し、ヴィニシウスにはスタメン出場すると、燃料切れしてしまうことがあるため、まだ途中出場でゴールを決めたり、流れを変えたりするパターンが多いのも、これからの課題だ。

21歳でバルセロナへ行ったネイマールに関してすら、ブラジルメディアはそれまで「早くヨーロッパで経験を積むべき」「彼ならすぐにもメッシやクリスチアーノ・ロナウドと並ぶ」「いや、彼のサッカーはヨーロッパでは通用しない」と、本人をうんざりさせるほど、議論し続けたものだ。

ヴィニシウスの場合は16歳という年齢もあり、フラメンゴサポーターですら「レアル・マドリーも思い切った賭けをするものだ」と驚いたが、ネイマールのサントス時代と同じように、早熟で、しかもグングン成長を遂げていく様子に、やはり、ネイマールに続くビッグネームとなることを夢見るブラジル人が急増中だ。

フラメンゴの英雄であるジーコは、古巣から彼のような逸材が出てきたことを喜び、一躍脚光を浴び始めた彼に、周囲がプレッシャーをかけ過ぎないようにと、メディアを通して配慮を求めるほどだ。

先日も「素晴らしい選手だが、同じ年齢の頃のネイマールほどの決定力は、まだない。ネイマールはこの年齢で、全試合をスタメン出場していたが、ヴィニシウスはまだ後半の交代出場が多いんだ。選手というのは、試合でプレーすればするほど、より多くのコンディションが得られるものだからね。」と、さらなる成長への期待を、冷静かつ温かく語っていた。

ゴールパフォーマンスでさえ物議を醸すことに

©Getty Images

リオデジャネイロ州サンゴンサーロ市に生まれたヴィニシウスは、6歳から、地元にあるフラメンゴ系列のサッカースクールに通い始め、10歳でフラメンゴの下部組織に入団した、生粋のフラメンゴ育ち。

貧しい家庭に生まれ、謙虚でひたむきにサッカー取り組む少年は、13歳でクラブのU−15チームの主力として活躍し始めただけでなく、U−15ブラジル代表にも招集された。

その後も常に、実際より上の年齢のカテゴリーでプレーした彼が、一躍世界の注目を集めることになったのが、昨年1月のコパ・サンパウロ・ジュニオール。ブラジルではプロへの登竜門とみなされるU−19の大会に、16歳で出場し、初戦で2ゴールを決めたのをはじめ、大会を通して活躍。大会ベストイレブンに選ばれたのだ。

さらに、その1カ月後に開幕したU−17南米選手権では、ブラジル代表として優勝に貢献、9試合で計7ゴールを決め、得点王と大会MVPも獲得した。

プロデビューは昨年5月。8月にプロ初ゴールを決めると、その1週間後には1試合で2ゴール。こうした活躍を通して、スペインをはじめとするヨーロッパのメディアが「新ネイマール」と紹介するようになったのだ。

先日、ヴィニシウスの注目度を物語るエピソードがあった。2月のフラメンゴ対ボタフォゴのクラシコで、彼が得点を決めた時のことだ。左サイドでパスを受け、短くドリブルでペナルティエリア手前まで持ち込み、ファーサイドのゴール隅に突き刺す、これぞヴィニシウスといえる、典型的な一発。

問題はその後だ。彼は歓喜の中、両手で目をこすって泣き虫ポーズをしたのだ。これは10年来、フラメンゴの選手がボタフォゴに勝った際に、相手をからかうためにやっては、物議を醸し出してきたポーズ。リオ4大クラブの宿敵でもあり、負けた方からすれば、これは腹立たしいパフォーマンスようだ。この時も、ボタフォゴの選手達が彼に詰め寄った。もみ合い寸前となり、ヴィニシウスは相手を挑発したという理由で、イエローカードをもらった。

メディアでは「挑発と言っても、相手に手を出したわけじゃない。ゴール後のパフォーマンスぐらい、好きにやらせたらいいのに。」「サッカーでは、相手を挑発したら警告を受けるんだ。やってはいけないことがあるのを、彼が知る機会になった。」と、サッカー解説者による議論が盛り上がった。

これを知ったネイマールが、自ら運営するソーシャルネットワーク上でヴィニシウスを擁護した。「サッカーってウザいよね。自分らが友達のチームに勝った時、それをからかっただけで、罰せられるんだから」。

サントス時代、ネイマールの目立った言動があるたびに、メディアも、街角のバールも、その話題で持ちきりになったのを思い出させる。それほど、ヴィニシウスは時の人なのだ。こうした思わぬ騒動があっても、普段はニコニコと人懐こい笑顔が、彼のトレードマーク。人柄の良さは有名だ。

レアル・マドリー側では当初、彼が18歳の誕生日を迎える今年7月に正式契約した後は、成長を待つために1年間、フラメンゴにレンタルとして残し、来年7月からスペインに呼ぶのが、基本路線だった。

ただ、今では今年7月の契約と共に、連れていきたいという方向に変わっているようだ。彼の急ピッチの成長により、できるだけ早く、ヨーロッパでの経験を積ませたいと意向になったこと。また、すでにブラジルでは試合中、対戦相手から最も警戒され、ディフェンダーに狙われる選手の1人になっている様子を見るにつけ、ケガをする前に呼び寄せ、体重と筋肉の増強でフィジカルコンディションを上げたいのもあるという。

ヴィニシウスは今や重要な戦力であるため、フラメンゴは「せめて年末まではここで」と交渉中とのこと。本人も、「フラメンゴで学ぶべきことがたくさんあるし、年末までプレーし、今年のリベルタドーレス杯とブラジル全国選手権優勝の夢を実現した後なら、もっと落ち着いて旅立てる」と、謙虚に語っている。いずれにしろ、世界へのお披露目は近い。

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藤原清美

スポーツジャーナリスト。2001年からリオデジャネイロに移住し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材。特に、ブラジルサッカーの代表チームや選手の取材を活動のベースとし、世界各国を飛び回る。選手達の信頼を得た密着スタイルがモットーで、日本とブラジル両国のメディアで発表。ワールドカップ5大会取材。ブラジルのスポーツジャーナリストに贈られる「ボーラ・ジ・オウロ賞」国際部門受賞。