「質」と「量」を同時に評価する指標

「質」を表す数字の代表は、打率や出塁率、防御率などだ。打率では、100打数30安打でも10打席3安打でも、どちらも3割という数字が算出される。打数や安打数そのものではなく、両者の関係から選手の打撃の質をつかもうとしている。
「量」を表すものとしては、本塁打や打点、奪三振などがある。これらは単純にそれぞれの事象が何回発生したかを記録して比較するものだ。そうした数字では、500打席で10本塁打した打者も、100打席で10本塁打した打者も、記録上は10本塁打となる。打席に占める割合では、かたや2%、かたや10%で開きがあるが、そうした働きの質は表さず、積み上がっていく結果、量だけを表す。

 統計に基づき野球を考えてきた人々が開発してきたセイバーメトリクスの指標には、この「質」と「量」の両方を組み合わせた数字をよく見かける。例えば投手であれば、「どれくらいの防御率(質)」で「どれくらいのイニング(量)マウンドに立ったか」と、ふたつの要素を掛け合わせて、その選手の記録した働きとしてとらえたりする。
 防御率3.30で200イニング投げた投手Aと、3.00で150イニング投げた投手Bがいたとする。どちらも規定投球回に達しているから、防御率のランキングではBが上位にくる。しかし投手Bが消化できなかった50イニングを、もっとレベルの低い投手がマウンドに上がって消化した場合は、チームとしては「BよりもAがいた方がよかった」ということにもなり得る。どちらが良いかの判断は簡単ではない。
 そうした場面で、比較を試みるために生み出されてきたのが、質(防御率)と量(イニング)両方を同時に評価する指標で、そのうちのひとつ「Runs Saved Above Average」 (RSAA)の算出式は以下のようなものになっている。

RSAA= (リーグ平均失点率-失点率)×投球イニング÷9

 リーグの平均的な失点率に対し、下回った状態で長いイニングを投げれば、数字は伸びていく。逆であればマイナスが膨らんでいく。質と量、両方が伴った投手を評価されるわけだ。

投手は高梨、野手は吉田正、山川、茂木が候補のパ・リーグ

 シーズンが深まり新人王争いも佳境に入っているが、質と量、両方を考慮したセイバーメトリクス指標は、そういったものを選ぶ際にも使い勝手がいい。パ・リーグの新人王資格のある投手をRSAAで見ていくと以下のような状況だ。
※数字は8月27日終了時点

 日本ハムの高梨は、防御率1点台という高い質で、新人投手のなかではかなり長い87イニングもの量を投げている。その結果RSAAも高く出て18.1。日本ハムは、高梨が投げた87イニングを、リーグの平均的な投手で代役を立てた場合、現状よりも18.1点多く失っていたと推定される。小さくない数字だろう。
 新人王資格を持つ投手のなかでは最も長い104イニングを投げ、7勝を挙げているロッテの二木のRSAAは-12.4。投球の質が平均よりも低い状態だと、長いイニングを投げれば投げるほど、マイナスは膨らんでしまう。もちろんそれでも、特にシーズン前半に高い得点力を見せたロッテのようなチームであれば、二木の働きも価値がある。ただ、もし他のチームに所属していても勝ち星を伸ばせたのは、二木よりも高梨のほうだろう。

 野手については、wRAA(Weighted Runs Above Average)という数字を使ってみた。これは打撃における出塁力、長打力から算出する「得点を挙げる上での総合的な貢献」をどれだけの量、積み重ねたかを表すものとなる。wRAAにおける「0」は、平均的な打者が同じ打席に立った場合の貢献を意味する。
※数字は8月27日終了時点

 オリックスの吉田正、西武の山川は、打席数は少ないが、打撃の質が高いため数字が伸びている。要するに「太く、短く」活躍している。
 一方、300打席以上に立っている楽天の茂木はほぼ平均。こちらは「細く、長く」頑張ってきたと言える。ここでいう平均はDHに入っているような外国人選手の成績も含めてのものであるから、ショートという難しいポジションを守りながら、マイナスを大きく膨らませていない点は評価していいだろう。

 RSAA、wRAAで見るなら、投手は高梨、打者は吉田正、山川、茂木あたりが新人王の候補といえる。ただ、この時点で30試合前後の出場の野手が、記者投票において票を集めるのは厳しそうではある。そう考えると、高梨と茂木のマッチレースというのが妥当なところか。パ・リーグでは野手の新人王が1998年以来出ていない。もし茂木が輝けば久々の受賞になるという点でも注目が集まるだろう。

セ・リーグは投手なら今永、野手は下水流、北條、高山

続いてセ・リーグも見ていこう。

 投手はDeNAの今永がずば抜けている。開幕当初の勢いを持続することはできなかったが、それでも平均よりも高い質を保った投球を100イニング以上続けた結果、RSAAは10.5。全対戦打席に占める奪三振の割合を示すK%は24.5%と極めて高く、守備のバックアップに依存することなく、自力でRSAAを高めていることがうかがえる。
 次点は広島の岡田だ。岡田は三振が奪えておらず、広島の高い守備力に支えられていた部分もあるのかもしれない。ただBB%(全対戦打席に占める四球の割合)は一定レベルに保っており、これが一軍の先発マウンドに立ちある程度の安定感を見せるに至った理由だろう。

 上位は広島の下水流、阪神の北條、高山といった選手の名前が並ぶ。開幕からよく出場してきた高山のインパクトは強いが、下水流は長打力、北條は四球奪取を含めた出塁力という質の部分で高山を上回り、wRAAがプラスになっている。記者投票では下水流の出場機会は少々物足りないと判断されそうなので、北條と高山のふたりが有力候補か。鳥谷敬がスタメンを外れて以降、出場機会を伸ばしている北條が高山を“まくる”展開はあるのだろうか。ここからが勝負になりそうだ。
 今永、北條、高山はCS出場権を争う2球団の選手だけに、3位争いの結果も、新人王が誰になるのかに大きく影響してくるのだろう。


山中潤