キッカケは“別”のイベントから

——ラリーさん、今回は球団の企画ユニフォームの担当の方との対談ということで。あらためてよろしくお願いします。
大岩Larry正志(以降、ラリー) よろしくお願いします! いまもなお、一緒に仕事をさせてもらっている東北楽天ゴールデンイーグルスの渡辺太郎さんです。
渡辺太郎(以降、渡辺) 今日はよろしくお願いします。
——早速ではありますが、おふたりの出会いのキッカケはなんだったのでしょうか?
渡辺 実は最初はユニフォームのデザインに関係のない仕事からだったんです。2008年に、ゴールデンエッグスナイターというのがありまして……
ラリー そうなんです。最初は声の仕事※1 だったんですよね(笑)
※1 大岩ラリーさんはボイスアクターとしても活動。アニメ「ザ・ワールド・オブ・ゴールデンエッグス」は代表作のひとつ。
渡辺 はい(笑)。私が当時、チケット関係の部署におりまして、いろいろお話を聞かせてただいていたんです。他球団の企画ユニフォームを作っていたことも知っていましたし、いつか仕事をしたいなと思っていました。

——実際に、ユニフォームを作ることになったのは?
渡辺 2012年のことですね。ゴールデンエッグスナイターを2年連続でやらせてもらい、いつかまた仕事をしようとお話しさせてもらっていて、ちょうど私がチケットの部署から営業企画へと異動になったんです。
ラリー そのときに、あらためてお声がけしてもらったんですよね。
渡辺 はい。他球団さまの話になりますけれど、当時はちょうど“鷹の祭典”などのイベントが広く認知されるようになっておりまして、ユニフォームをプレゼントする企画をどの球団もやり始めた時期だったんですね。ただ、それを真似して普通にやっても仕方がないという思いと、どうせやるなら格好良く作ってファンに喜んでいただきたいという思いがありまして、「ユニフォームはしっかり作ったほうがよいので、やらせてください!」って上司にお願いしました。
——それで担当になられたわけですね?
渡辺 そうです。当時はユニフォームを作るっていうと、契約しているメーカーさまに複数のデザイン案を出していただき、その中から選ぶといったプロセスでして、コンセプトとかイベントの連動性はあまりなかったんです。最初に担当したユニフォームは、ストライプで作るというのは決まっていましたが、じゃあいざ作るといっても簡単には作れないんですよ。やるのであればユニフォームのことをわかっている方にお願いしたくて。最初に担当になるって手を上げた時から「ようやくラリーさんと仕事ができる」という感じで考えていました。
ラリー ありがたい話しですね。それで、ひさびさにやりとりをさせていただいて、作らせてもらったのがイーグル・スターという企画ユニフォームです。ここの連載でも書かせてもらいましたが、ただストライプといっても、線の細さや、線と線の間隔でガラッと雰囲気が変わるんです。だから、いろいろなパターンを用意して、進めていきました。
渡辺 色味もいくつか出していていただいて、進めましたね。合わせて、作るにあたってはやっぱり、コンセプトが必要で。ストライプにすることは決まっていましたけど、どんな思いを込めて作ろうかという話しも一緒にさせていただきました。このユニフォームを作らせていただいたのは2012年。イーグルス、東北の方々にとっては、あの震災の翌年という年でしたから、しっかりとした思いを込めたいと考えていました。
ラリー そういう話しを聞き、決まったのが星に願いをというコンセプトだったんです。イベントを象徴するようなロゴも作りたくて、いろいろ考えた結果、星をモチーフにしたロゴとコンセプトが合致しました。おかげさまで、いまだに好きだと言ってもらえることの多いユニフォームになりました。

満を持して作った2作目、不評からの大逆転
渡辺 ただ、お願いしておいてあれなんですけど、このイーグル・スターについては、元々デザインのコンセプトがストライプだという風に決まっていましたし、胸のロゴについても通常のホームユニフォームと同じだったんです。当時はまだ、そこを変えるのはハードルが高くて。次の作品は一からやりたいなという風には思っていました。
ラリー そうしたら、まだイーグル・スターの最中だったよね?早速次の年のイベントの話しを持ってきてくれて。
渡辺 イーグル・スターで手応えがありましたので、翌年も継続することができたのですが、もっと“色”を打ち出すような企画にしようということになりました。チームカラー以外の採用などデザイン範囲も増えたので、よしっ! と思って、相談させていただきました。
ラリー 一からの製作ということになり、胸のロゴもやらせてもらいました。コンセプトについても会話を進め、“東北”に合うイメージってなんだろうかって、これもいくつか案を出したんです。結果、“ときわ色”という深い緑に決まるんですが、いまだから言えますが、他の色もいくつか候補に挙がっていて、そっちの色でもデザインを作っていたんですよね。
渡辺 ラリーさんにはお手間をかけて申し訳ないなと思いつつ、複数のパターンで用意をしてもらって、最終的には選手達にも相談した結果、ときわ色を採用することになりました。
ラリー 発表された当時はまあ不評で……(苦笑)。選手たちが着て、プレーすれば絶対にかっこいいってわかっていたんですけど、やっぱり実際に着用してプレーされるまではなかなか伝わらなくて。
渡辺 でも、社内の評判はめちゃくちゃよかったんですよ。だから、そういうご意見もあるのはわかっていましたけど、自信はあったんです。それで実際、着用日になって、グラウンドでみたらやっぱり格好よくて。しかも、着用した日にサヨナラ勝ちしたりと、めちゃくちゃ縁起の良いユニフォームになったんです。
ラリー すごく嬉しかったです。その年、チームが優勝して、その着用日の勝利が大事なポイントだったというのもあってニュースとかでもたくさん取り上げてもらったんですよね。そのシーズンが終わってからは評価が逆転して、すごく良いユニフォームだと言ってもらえるようになっていました。絶対大丈夫! と信じていたのが報われましたし、正直ちょっとホッとしました(苦笑)
渡辺 私もです(笑)。そして翌年、さらには今年から新たに着用することになった黒基調のユニフォームについてまで、お付き合いさせていただいています。

——ラリーさんといえば、連載でも触れましたが、ユニフォームの刺繍部分へのこだわりもありますよね?そのあたりはどうだったんですか?
ラリー いくつか選手の負担にならないような工夫はしていますが、基本的には刺繍を提案しています。
渡辺 私としても、ラリーさんがおっしゃられるとおり、ユニフォームは昇華プリントではなく、刺繍の方が絶対にかっこいいと思っています。ただ選手のパフォーマンスには絶対に影響を与えてはいけませんので、メーカーさまにもご協力をいただいて、軽い素材や仕様で実現しています。見栄えにもつながってファンのみなさまにも支持していただけているのかなと思います。
ラリー 本当、力強い担当で助かっています(笑)
(続く)
編集協力:ベースボール・タイムズ
■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。
また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。http://www.oneman-show.com