体重を増やすメリット

まず、ピッチングという動作のメカニズムは、下半身で起こした力を運動連鎖・回旋系伸張反射によって体幹から末端(腕)に向かって伝達させて腕を加速させるという構造を持っています。
この時、中心部すなわち体幹部(考え方次第では下半身も含む)の質量を大きくすると、発揮されるエネルギーが大きくなり、結果として腕を振る速度を高めることに繋がり得ます。
体重を増やすメリットとしては、この点が上げられますが、単に体重を増やしたから球速が上がるというほど単純な話ではありません。

「体重が増える」という現象は「体格の変化」という現象も含んでいます。
そのため、デメリットになり得る可能性もあるのです。

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体重を増やすデメリット

体重を増やすデメリットは、体重が重くなると加速度、簡単にいうとスピード(身体のキレ)が落ちやすいということ。
重いものは加速しにくいですね。
力=質量×加速度とあるように、力は質量と加速度の掛け算です。

だから、体重が増えたとしても加速度が落ちれば、合計の力は増えない、減ってしまうこともあるのです。
また、重いものを動かすと疲れやすいのと同じで、体重が増えるとそれを操作することによる疲労は起こりやすくなります。
さらに注意したいのが腰回りが大きくなることによって回転半径が大きくなること。
回転半径は小さい方が加速がしやすく、大きいと加速までに時間がかかるようになります。
これはリリースポイントまでに十分に加速度を高められない要因となりえます。

体重を増やすのは条件付き

以上のことを考えると、体重を増やすことにはメリットとデメリットが明確にあり、メリットを最大化してデメリットを最小化するための条件を押さえておく必要があります。
体重を増やすことをパフォーマンスアップにつなげるために以下の条件を満たす必要があります。

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また、重いものを動かすと疲れやすいのと同様に、体重が増えるとそれを操作することによる疲労は起こりやすくなります。

これらを考慮せずに「体重を増やす」ということが目的化すると、体重は増えたけれどパフォーマンスは低下した、という結果を招いてしまうこともあります。

1)体幹の回旋速度を落とさない範囲での増量を
ピッチングにおいて腕を振る速度を高めるためには、下半身の筋力や重心移動による力を体幹を伝って効率よく腕につなげることが非常に重要です。
腰周り、お尻周りに筋肉がついてきても、その結果、体幹の回旋速度が落ちていないかのチェックは欠かさないでください。


2)出力のタイミング調整など身体操作を高める
上述したように、体重増は、体重だけでなく体格も変化します。
体格の変化は筋の比率や四肢・体幹の太さ(回転半径)の変化を含んでおり、各部位の質量とともに身体操作に影響を与えます。
体重が増えたけれど、身体操作の質は落ちた、その結果パフォーマンスが落ちた・怪我をしたということになってしまっては本末転倒です。

体重増をピッチングに活かすための運動

体重の増加をピッチングのパフォーマンスアップに活かすための方法はたくさんありますが、今回はその中でも柔軟性と連動性を高める方法を1つご紹介します。
コモドストレッチというストレッチです。
ストレッチですが、単に柔軟性を高めるだけではなく、全身の連動性を向上させて身体のキレを高める役割もある、プロ野球選手も重点的に行なっている重要ストレッチです。

©︎中野崇

うつ伏せに寝て、右足を写真のように大きく引き寄せます。
この時、右のカカトが浮かないように注意してください。

©︎中野崇

引き寄せた右足の膝の内側に右手を当てて、右肩が地面に近づくようにしながら上半身をねじります。胸が左に向くように捻っていきます。

©︎中野崇

そのまま右肘が完全に伸びるところまで持っていきます。
そこまでいったら深呼吸を3回行います。

反対側も行い、それを2セット。
これを1日に最低5回は繰り返してください。
(私の指導しているプロ野球選手には12回の実施が基準としています)


中野崇