昨年7月にKリーグの城南FCからガンバ大阪に加入した移籍1年目は15試合(リーグ戦13試合)で3得点に止まったが、今季はチーム最多となる15得点(リーグ戦10得点)を挙げる活躍を見せていたストライカーの帰還は、苦戦が続くガンバにとっては待ち焦がれていた朗報だろう。ましてファン・ウィジョの株価は昨今高まるばかり。アジア大会では7試合で9得点を記録し、大会得点王に輝くとともに、韓国のアジア大会連覇の立役者となった。韓国メディアも「ファン・ウィジョ、アジア大会のスターに」(『聯合ニュース』)と、その活躍ぶりを大絶賛したほどだ。
韓国代表はこの夏、元ポルトガル代表監督のパウロ・ベントを新監督にとして招き、9月7日にコスタリカ代表、11日にはチリ代表との強化試合を行なっているが、ファン・ウィジョはその2試合にも出場。ゴールを決めなくとも、「ファン・ウィジョ、積極的なスペースへの侵入+チャンス創出、ベント号のアタッカーとして合格点」(『インターフットボール子』と評価されている。『トゥデイ・コリア』の見出しを借りれば、まさに「韓国は今、“ウィジョ・シンドローム”で沸いている」わけだ。

もっとも、数ヵ月前までは韓国に数いるストライカーのひとりに過ぎなかった。豊生(プンセン)中学・高校時代はもちろん、延世大学を中退してKリーグの城南FCでプロデビューしたあとも年代別代表に選出されてきたが、2014年アジア大会、2016年リオ五輪といった国際大会への出場はなし。2015年9月のロシア・ワールドカップ2次予選でA代表デビューを飾りその後も何度かAマッチに出場したが、ロシア行きも叶わなかった。韓国代表の最前線人材の序列としては、同世代のソン・フンミンはもちろん、キム・シヌク、チ・ドンウォン、ソク・ヒョンジュンらのあとに続いて語られる六番手・七番手扱いの選手だった。むしろJリーグ移籍後はその動向が韓国まで届かず、メディアで取り上げられることも少なかったほどだ。
そんなファン・ウィジョの名が取り沙汰されるようになったのは、アジア大会直前。チームを指揮したキム・ハクボム監督が、オーバーエイジのひとりとしてファン・ウィジョを選んだことで、 “渦中の人物”として槍玉に上げられた。数あるオーバーエイジ候補の中で、なぜ国際大会での実績がないファン・ウィジョなのか、と。ふたりが2014年から約2年間、Kリーグの城南FCで師弟関係にあったこともあって、“コネ選出”との疑惑が浮上したのだ。「コンディションがいいから(ファン・ウィジョを)選んだ」とキム・ハクボム監督が “コネ選出”疑惑をきっぱりと否定しても、アジア大会開幕前まで批判的な意見が絶えなかった。
特筆すべきは、そんな非難と雑音を数々をファン・ウィジョがゴールでかき消し黙られたことだ。アジア大会では初戦のバーレーン戦ではいきなりハットトリックを達成すると、その後もゴールを量産。準々決勝のウズベキスタン戦で2度目のハットトリックを達成するなど韓国の優勝に大きく貢献した。その存在感の大きさは、アジア大会で韓国代表のキャプテンを務めたソン・フンミンが、「ウィジョは得点感覚が本当にすごい。パスを渡せばゴールを決めてくれる」と大絶賛するほどでもあった。ちなみにふたりは高校時代、U-17韓国代表として2009年9月に来日し、『仙台カップ国際ユースサッカー大会』に出場した仲で、アジア大会で久々に息を合わせ結果も残したことで“幻想的なコンビ”“同級生Bromance(ブロマンス/BrotherとRomanceを合わせた造語、で男同士の友情を語るときに使う言葉)”とも言われるようになったほどだが、ファン・ウィジョの実力を高く評価するのは、ソン・フンミンだけではない。
例えばチェ・ヨンスだ。かつてJリーグのジェフ市原などで活躍し、FCソウルで監督としても成功を収めた元韓国代表ストライカーは、アジア大会の試合中継でこんなことを言っていた。「現役時代の自分を見ているようだ。いや、訂正する。私をはるかに凌ぐアタッカーだ。なぜ彼のような選手がロシア・ワールドカップに出場できなかったのか。ファン・ウィジョは韓国サッカーにとって素晴らしい発見だ」
チェ・ヨンスに遅れること2年後の2002年夏にJリーグにやって来て、03〜04年には横浜FマリノスのJリーグ連覇にも貢献したアン・ジョンファンも、自身が解説者を務める試合中継で言っていた。「ゴールの匂いを嗅ぎ分ける能力が私よりも優れている。ピッチの中にファン・ウィジョのためだけの空間があるようだ」
極めつけは、ファン・ソンホンの賛辞である。ファン・ソンホンはイ・フェテク(60年代)、チャ・ボングン(70年代)、チェ・スンホ(80年代)と続いてきた“本格派ストライカーの系譜”を継いできた韓国サッカー史に残るレジェンドで、1999年には韓国人Jリーガー初の得点王に輝いたスーパースターであるが、そのファン・ソンホンが「ファン・ウィジョは自分の全盛期と似ている」と絶賛しているのだ。「スペースを突く動き、ゴールを決められるポジションでの位置取りと対処力、そして受けたボールをゴールに繋げる能力も非常に優れている」と。このファン・ソンホンの賛辞もあって、韓国では“第2のファン・ソンホンホン”とも言われるようになったファン・ウィジョ。ファン・ウィジョ本人も、「2002年ワールドカップを機にサッカーを始めた僕がずっと憧れていたのがファン・ソンホン先輩だった。尊敬しており学ぶべきことも多いが、努力して追いつけるようにしたい」と語っているだけに、期待も大きい。ファン・ソンホンも言っている。「ファン・ウィジョには私を越える可能性を持った選手だ。自ら限界を設けずに、サッカー選手として頂点に立つ大きな目標をもって、地道に頑張ってほしい」
それに、その実力はいまだ発展途上中だ。キム・ハクボム監督によると、ファン・ウィジョが今も成長を続けているという。
「ファン・ウィジョは、城南FC時代よりもアップグレードした。日本で多くの経験と苦労もしたこともあって、プレーが成熟している。以前よりもシュートを打つ前の予備動作も良くなった。ターンも素早くなったし、ファーストタッチはシンプルで正確だ。シュートの精度も上がっている。今の彼ならどんな相手でも十分に活躍できるだろう」

アジア大会を機に一気に評価を高め、自信も深めたファン・ウィジョ。約1か月ぶりにJリーグのピッチに帰って来る韓国人ストライカーは果たして、低迷を続けるガンバ大阪の救世主になれるだろうか。
アジア大会では「韓国のヒーロー」(『イルガン・スポーツ』)になった。今度は「大阪のヒーロー」になる番だ。