3000億円以上といわれる莫大な資産を保有する前澤氏が「みんなで作り上げる参加型の野球球団にしたい。シーズンオフ後に球界へ提案するためのプランを作ります。皆さまの意見も参考にさせてください」とまで発言したのだ。いまだ赤字の球団もあるとされる日本のプロ野球に参戦する可能性はかなり大きいという声もあった。
だが、肝心のシーズンオフになってもこの話題の続報はほとんどなし。12月に入ると、またもTwitterにて断念の報告が行われた。
「複数の球団オーナー様や野球関係者様との面会を通し、球団保有の可能性を探ってきましたが、近々での球団保有はいったん断念することにしました」
「今回は努力と勉強不足でした。夢は夢として諦めず持ち続けたいと思います」
この状況に、ネット上では前澤氏を“オオカミ少年”と揶揄する声も上がっている。自らもかつてプロ野球界への新規参入を経験した横浜DeNAベイスターズ初代球団社長の池田純氏は、前澤氏のチャレンジスピリットを評価しながらも、今回の騒動をこのように語る。
「既得権益が確定している日本のプロ野球界に参戦するのは、決して簡単なことではありません。前澤さんが本気でなかったとは思いませんが、もっとやり方があったんじゃないかなというのが正直な感想です。彼の地元でスタジアムのネーミングライツも持っているということで千葉ロッテマリーンズの名前があがっていましたが、そもそも可能性はないと言われていた。情報収集がきちんとできていたのかどうか……。僕が彼の立場なら、日本だけでなく球団数が多いMLBも視野に入れて、リサーチやロビイングをしたでしょう。アメリカに現地事務所を作って、本気で球団買収をアピールしていけば、道が開けたように思います。そこまでやれば、日本球界にとっても放置できなくなるはず。クローズな世界の壁を破るためには、今までにないやりかたを考えるべき。そういった動きをしてくれると期待していたので、少し残念に思います」
一時は、“プロ野球離れ”も囁かれたが、観客動員が増加するなど人気が回復しているように見える日本のプロ野球界。だが選手の年俸だけで見ても、MLBとの差は歴然としている。このシーズンオフにも西武ライオンズのエース、菊池雄星投手がメジャー挑戦を表明。読売ジャイアンツの菅野智之投手や広島カープの菊池涼介内野手などもメジャーへの夢を公にしている。池田氏はそんなプロ野球界の現状に危機感を唱える。
「先日、岩隈久志投手が読売ジャイアンツへの入団を発表しましたが、1年契約で年俸は推定で5000万円と言われています。もちろん故障や年齢の問題はあると思いますが、2年前はメジャーで14億円もらっていたピッチャーです。実績のある選手に払う金額としてはいくらなんでも安すぎる。これでは夢がないと思いませんか。MLBの市場規模は日本のプロ野球の10倍。それが選手の年俸に直結している、残念な例だと思います。実は、メジャーは観客動員が減っているんです。それでも大きなビジネスになっているのは、世界中に放映権を売っているから。日本のもいつまでも古いビジネスモデルではなく、もっとグローバルにどういうビジネスをやっていくか、考えるべきタイミングに来ている。たとえば、中国、韓国、台湾を巻き込んで、アジアリーグを作るとか、それくらいの大胆な発想で変えていかないと未来は見えてこない。若い前澤さんなら、そういう面でもリーダー役になれると思っていたんですが……」
世界とのギャップを埋めるためには、スマートかつパワフルなリーダーの存在が不可欠だ。プロ野球界だけではなく、国全体に閉塞感が蔓延している今の日本をダイナミックに変えうる人材が待たれる。
[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>
取材協力:文化放送
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毎週木曜日レギュラー出演:池田純
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蔓延する閉塞感を打破するためにも ZOZOはメジャーの買収に挑戦すべきだった
2018年のプロ野球界の大きな話題のひとつとなった「ZOZO球団設立」。7月に前澤友作社長がTwitterで「プロ野球球団を持ちたいです。球団経営を通してファンや選手や地域の皆さまの笑顔を増やしたい」とつぶやくと、プロ野球ファン以外からも大きな注目を集め、千葉ロッテマリーンズの買収や新リーグ構想などもまことしやかに囁かれた。だが、その結末は……。新規参入が厳しいといわれる日本のプロ野球界。前澤氏が夢を叶える方法はなかったのだろうか?
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