関東インカレポイントは、関東学連幹部のゴリ押しシステム。

箱根駅伝は長く「15校出場」を守ってきた。伝統の証でもあったはずだが、第79回大会(2003)に突如、出場チームが「15」から「20」に拡大(1チームは関東学生連盟)。加えて、予選会7位以下のチームには「関東インカレポイント」(関東インカレの総合順位・エントリー数をタイムに換算したもの)を加味して、順位が決まるようになった。このあたりから箱根駅伝で〝謎の力〟を感じるようになる。というのも出場枠が増えることについては、ほとんどの加盟校が「賛成」していたが、関東インカレポイントに関しては、「反対」が多数いたからだ。純粋な〝多数決〟で決まったわけではく、箱根駅伝を主催する関東学連の幹部がゴリ押しで通したようなシステムだった。

予選会の関東インカレポイントは第90回大会で撤廃されたが、かわりに導入されたのが、「関東インカレ成績枠」だ。関東インカレ5年間の総合得点の累計が最も多い大学(1校)に与えられるもので、今回(第 95 回大会)はその枠で日大が出場する。ご存知ない方のために説明すると、関東インカレは毎年5月に開催される大学対抗によるトラック&フィールドの大会だ。長距離種目だけでなく、100mや110mハードル、4×400mリレー、走り高跳び、ハンマー投げ、十種競技など男子は全23種目が行われる。過去5年間における日大の合計得点は701.5点。そのうち、長距離種目(5000m、1万m、ハーフマラソン、3000m障害)の得点は82点だった(そのすべてはケニア人留学生による得点だ)。日大は前回の予選会を次点の11位で落選しており、今回の措置がなければ、通過できていたかはわからない。言い方は良くないが、日大は長距離種目以外の力を使って、正月の晴れ舞台に立つことになる。

関東陸連がなぜこのようなシステムを導入するのか。謎に感じているファンは少なくないだろう。そこには、「駅伝偏重は良くない。トラック&フィールド全体の強化をしていこう」という強い気持ちがある。その〝思い〟は共感できる部分があるが、このやり方は褒められるものではない。「関東インカレポイント」と「関東インカレ成績枠」は似たような性質を持っており、かつて関東インカレポイントのあおりを受けたのが拓大だ。予選会の上位10名の合計タイムでは通過圏内につけていながら、関東インカレポイントで逆転を許して、3回も本戦出場を逃している。3回目のときは、わずか1秒差での落選だった。しかも、最後のイスに滑り込んだ大学には、レースの合計タイムで3分49秒も上回っていた。筆者は結果が発表された直後に、「なぜですか? おかしいじゃないですか」と泣き崩れた部員がいたことをハッキリと覚えている。

この出来事は、「スポーツは誰もが平等のはず」だと思っていた大学生アスリートに暗い影を落としたのではないだろうか。箱根駅伝は長距離ランナーが憧れる舞台で、陸上競技は速いものが勝者になる。選手たちの気持ちを考えると、「関東インカレポイント」や「関東インカレ成績枠」がいかに愚かなものであるかがわかるだろう。今回の日大は全日本大学駅伝でも11位に入っており、ケニア人留学生のパトリック・ワンブィ(4年)という〝大砲〟もいる。うまくレースを運ぶことができれば、シード権を争う実力はあるが、長距離の強化が不十分なチームが出場権を得た場合、1区から最下位を独走ということにも考えられる。そうなると、「関東インカレ成績枠」は間違いなく、非難の対象になるだろう。特別枠で出場した大学、次点で出場を逃した大学、大会主催者。そのすべてがアンハッピーな気持ちになるはずだ。

関東学連の幹部は、「インカレ常連校が箱根に出てこないと、その大学の陸上部自体がダメになる」という危機感を持っているようだが、それは個人的な問題だ。陸上競技はリレーや駅伝があるものの、基本的には個人競技になる。ほとんどの大学がブロック単位で動いており、すべての部員が一緒にトレーニングを行うことはまずない。野球部、サッカー部、バスケ部が一緒に練習しないのと一緒だ。サッカー部やバスケ部の活躍で、野球部が「甲子園」に出場することになったら大変な騒ぎになるだろう。

「関東学生連合」の是非。

そして近年は予選会で落選した大学の選手で結成される「関東学生連合」(以下、学生連合)の是非も問われている。初めて結成された第79回大会(当時は関東学連選抜)は、物凄いチームができるのでは? と囁かれていたが、実際はそれほどでもなかった。初年度は16位相当。「日本学連選抜」として参戦した第80回記念大会は6位相当まで上がったものの、以後、18位相当、19位相当と低迷した。オープン参加だったチームは第82回大会から公式参戦となり、青学大・原晋監督が指揮を執った第84回大会(2008年)で4位に大躍進する。しかし、その後は、9位、16位、18位、17位、13位という結果。第91回大会からは再び、オープン参加(個人記録は有効)となり、19位相当、11位相当、20位相当、21位相当と下位を走ることが多くなった。

学生連合は、「実際の箱根駅伝を経験して、それを大学に持ち帰り、チームの財産にしてほしい」という意図があり、現在は「本戦出場経験がない選手」が対象だ。今回は予選会上位10人の合計タイムは4位通過相当。5000m13分台、1万m28分台がおらず、厳しいレースが予想される。4年連続で同チームに選ばれている東大・近藤秀一(4年)が注目されているが、実力的に目玉選手というわけではない。明治学大・鈴木陸(4年)と上智大・外山正一郎(4年)が出走すれば、 それぞれ大学として初の箱根駅伝出場になる。該当する大学関係者はうれしいニュースでも、その他のファンには刺さらない。

個人的には学生連合は「必要ない」と感じている。その理由は単純で、駅伝はチームスポーツだからだ。仲間とタスキをつなげるからこそ、それが大きなエネルギーになる。学生連合は廃止して、その分、参加校を増やした方が絶対に喜ばれる。ただ、チームとして箱根に出場するのが絶望的な大学の選手にとっては、学生連合の存在意義は大きい。〝公務員ランナー〟として大活躍している川内優輝(学習院大→埼玉県庁)は関東学連選抜(当時)で2度の箱根出場を経験(83回大会は6区6位/85回大会は6区3位)。このとき、他大学の選手との交流が始まり、その後の競技に生きているという。川内だけは、「選抜チームの存続」を強く訴えてきた。

今後、学生連合はどうなっていくのか。記念大会だけなのか、毎年組むのか。箱根駅伝を目指すランナーたちの夢を奪うのは良くない。急遽、なくすのだけはやめていただきたいと思う。箱根駅伝は利益に群がる大人たちのものではない。箱根駅伝は誰のための大会なのか。一度、じっくりと考えるときが来ている。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。