結果としてそうなったのならまだわかる。だが、日本バレーボール協会が発表したのは2019年度の予算である。つまり約3.9億円の赤字になるという予想であり、それを理事会が承認したのだという。しかも単年度だけの問題ではない。これまでも赤字予算を繰り返してきており、ワールドカップという最大のビジネスチャンスがある今年もまた赤字となるようだ。

「一般企業ならありえない。赤字にならないように必死になって努力するわけですし、結果的にそうなってしまったとしたら誰かが責任をとる。赤字の理由や、そこからリカバリーするために何ができるのか、その先の未来をどうつくるのかを徹底して議論します。赤字の理由を明確化し、対処方法を提示できるものがリーダーとして認められるのが社会通念だと思います。先日、日本ラグビー協会も赤字予算を発表していましたが、かつてのベイスターズもそうでした。スポーツ界には、さまざまな名目や他の意義を理由にして、さらには親会社や国や官庁などからミルクマネーが注がれたりする環境から、赤字でも仕方ないという風潮があるのではないでしょうか。
バレーボール協会もラグビー協会も同様に今年ワールドカップが開催され、その運営費用がかかるということを理由にあげていますが、そんなことは数年前からわかっていたこと。2019年に大きなお金がかかることは明らかなのですから、そのための準備をしておくことはできたように思います。本当の意味での経営のガバナンスがスポーツ界全体にはまだまだ効く環境がない。結果、誰も責任をとらない、とらなくてもいいという体制がこのようなずさんな経営体質をつくりあげている一つの原因なのでしょうね」

バレーボールの国際大会は、その多くが日本で開催されてきた。世界選手権(世界バレー)は過去6大会中4大会が日本開催。ワールドカップは12大会連続で日本開催だ。ゴールデンタイムで高視聴率を期待できるバレーボールは、莫大な放映権料を支払ってでも手に入れたいコンテンツ。これまで日本(のテレビ局)と主催者は相思相愛の関係だったのだ。しかし昨年開催された世界バレーはスポンサー集めに失敗し、約10億円の大赤字となった。プロ化が遅れ、オリンピックでの活躍もなく、人気選手もいない。日本のバレーボールは泥沼に足を突っ込みつつあるのだ。

「バレーボール界にとっては、すべてのスポーツに注目が集まっている今が最大にして最後の人気回復のチャンスかもしれません。バレーボールは部活でも人気がありますし、かつては実業団も盛り上がっていた。ママさんバレーという文化もものすごかった時代がある。誰もがグリーンのユニフォームの富士フイルムを観ていたような記憶だってどこかに残っている。今の40代、50代は、民放キー局で『ニッポン!チャチャチャ!」という応援を誰もが耳にした記憶があるでしょう。
マーケティングセオリー的には、そういった層をどう呼び戻すかという点を考えるべきです。潜在的マーケットはあるわけですから、要はそれをどう盛り上げていくか。うまくいく可能性は大きいと思いますが、現在のように赤字になってもいい、仕方ないという考え方以上に『バレーボールの未来を語る』人材が出てこない印象があります。」

そのために必要なのは、大胆な改革ができる若きリーダーの存在だと池田氏は語る。

「赤字を転機に、今年どう急浮上させるのか、今後のバレーボールの景色とビジョンを魅せ、そこに世の中を引きつけていくような話が一般社会にもわずかでいいから伝わってくるような、未来を語れる世界の人材。そういった人がリーダーとして軋轢をも気にせず、どんどん前に出てこないと、復活はなかなか難しいでしょうね。既存の組織を変えるためには、おもいきってひっぱるカリスマ型のリーダーが、社会やファンを味方にし、自分もぶっ潰される覚悟で、ぶっ潰しにいかないとどうにもならないほどに既成概念にとらわれた組織なのかもしれません。
先日川淵さんとの対談の際に川淵さんも、下の層からフツフツとしたものが湧き上がってこない、とバレーボールの世界のことを憂いておられました。私はリーダーの問題だとも思うと、リーダーとそこで働くボトム層、二層の問題の意見がぶつかって、なぜかバレーボールの話からスポーツ界の組織論にまでなってしまいましたが」

日本のスポーツ界は、ボトムアップ型。下からの意見を大切にして運営されてきた。でもそれでは組織を抜本的に変えることはできない。観戦の方法もテレビからネットへと移行するなど、スポーツマーケティングも大きく変わりつつある新しい時代に対応できる若いリーダーが必要です。絶対赤字にしないという覚悟で、抜本的な改革ができるリーダーを選び、トップダウン型で体質を変えていかなければ、このまま“元”人気スポーツということになってしまうだろう。

池田氏は言う。
「ベイスターズだって、7年前私が社長になったころは、多くの人が、どうにもならない組織だと思っていました。私が社長になると話すと、そんな組織のリーダーになってもどうにもならない、負け戦だよ、といろいろな方から言われました。しかし、自分がぶっ潰される覚悟、全部ぶっ潰す覚悟で、ビジョンと具体的アイデアをもって戦った結果、組織も大幅に変わりました。結果今のベイスターズがあることはみなさんご存知のとおりです。最初から、曖昧な世界を許容し、えらいひとがえらいひとに忖度して、結果、えらいひと同士がお互いの立場を守っているような、そんな似非の“協調性”にとらわれるようなリーダーでは、結局何にも変わらないことも、みなさん、社会全般で共通に感じている停滞感の根幹の時代なのではないでしょうか」

もちろんこういった話は、バレーボールやラグビーだけではない。すべてのスポーツの団体は、生き残るための経営努力をしない限り、明るい未来はないといっていいだろう。



[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部