「収益の増加、財務基盤の強化が結果につながっている」と証言するのは、リバプールのアンディ・ヒューズCOO(最高執行責任者)だ。実は英BBCによると、CL決勝に進出した両クラブは今年、サッカークラブにおける税引後の純利益で世界最高額を更新している。まず2月にリバプールが2017ー18年シーズンの決算報告を行い、純利益として1億600万ポンド(約148億円)を計上し、過去最高を更新。すると、トッテナムは4月に同純利益が、リバプールを上回る1億1300万ポンド(約158億円)に達したことを発表したのだ。

この莫大な利益はチームに好影響を与えている。リバプールは、この収益を効果的に使用。ユルゲン・クロップ監督体制となった2015年以降だけでトレーニング施設への設備投資に5000万ポンド(約70億円)を投じ、ユースやジュニアユースなどの下部組織への投資も積極的に進めてチーム力の底上げを図っている。

もちろん、安定した財務基盤があれば「ここぞ」での補強も可能になる。ローマからエジプト代表FWサラー、サウサンプトンからオランダ代表DFファンダイク、ライプチヒからギニア代表MFナビ・ケイタを獲得。トッテナムも然りで、ブラジル代表MFルーカス・モウラをパリ・サンジェルマンから補強するなど昨季は移籍市場で3200万ポンド(約45億円)を費やした。健全なクラブ経営が、好循環を生んでいる。

では、なぜプレミア勢は健全経営が成り立っているのか。重要な要素が、プレミアリーグの各クラブは株式会社として運営されており、市場に株式が公開されているところにある。外国人投資家が買収しやすい環境にあり、リバプールも投資家として財を成したジョン・ヘンリー氏が率い、松坂大輔投手(現中日)が在籍したこと米大リーグ・レッドソックスを傘下に収めるフェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)が2010年秋に買収。前オーナーがつくった2億ポンド(約280億円)の借金を完済し、クラブを再生した。トッテナムも、世界的投資会社タビストック・グループを率いるジョー・ルイス氏が株式を保有。同氏は英国の長者番付でトップ10に入る人物で、こちらも財務基盤が安定しているクラブといえる。

他にもマンチェスター・ユナイテッドを米実業家のグレーザー一家、チェルシーをロシアの富豪ロマン・アブラモビッチ氏が買収したのは有名だ。英紙ミラーが今年2月に発表した世界のサッカークラブを保有するオーナーの資産ランキングでは、トップ10のうちプレミア勢が半分の5人(別表参照)を占めたほど。そうした投資家が「競技性」を優先していた欧州サッカー界に「ビジネス」を持ち込んだ影響が、 収益の拡大に大きく寄与している。

【参考】英紙ミラーの「世界のサッカークラブのオーナー資産ランキングTOP10」

「スポーツビジネス」における黒字経営の基本ともされる運営会社とスタジアムの一体経営がプレミアでは常識になっていることも、重要なポイントだ。プレミアではスタジアムを原則としてクラブが私有する形となっており、スタジアムの環境づくり、広告収入、グッズ収入の拡大に力を入れることで収益増を実現。観客の動員率は平均90%以上を誇る。

例えば、リバプールは本拠地アンフィールドの拡張に積極的で、2014年から16年にかけてメインスタンドを8500席増設。120万ポンド(約1億7000万円)の収入増と明確な効果が上がった。それを受けて2018年、さらに6000席以上の増設計画を発表。英紙デイリー・メールによると今年9月までに6万人の収容を誇るスタジアムになる予定だ。

トッテナムも118年間ホームとしていたホワイト・ハート・レーンから本拠地を今年3月に10億ポンド(約1400億円)を費やして開業したトッテナム・ホットスパー・スタジアムに移した。収容人数は最大6万2062人。米プロフットボール(NFL)と10年間のパートナー契約を結び、同スタジアムでは毎年の公式戦を開催することも決まっている。ピッチとスタンドの距離は最短で4・9メートルほど。観戦環境と収益性の向上に主眼が置かれた、まさに「スポーツエンターテインメントビジネス」を具現化する次世代の競技場となっている。

また、破格の放映権料収入もプレミアの特徴だ。プレミアは現在、世界200以上の国と地域で放映されており、1シーズンの視聴者は30億人にも上るといわれる。国際監査法人デロイトのリポートによると、年間の放映権料は3200億円。Jリーグがスポーツ配信大手DAZNと10年総額2100億円の放映権契約を結び、新聞などで大きく報じられたのは記憶に新しいが、まさに桁違い。その一因にはライブベッティングが認められているという英国の事情もあり、これも好調なクラブ経営につながっている。

もちろん、リバプールのユルゲン・クロップ監督、トッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督という稀代の戦略家を指揮官に据え、フロントと連携してチームの強化を進めている点も、両クラブの強さの要因にあるのは間違いない。トッテナムは昨年1月にルーカス・モウラを獲得して以降補強を行っておらず、リバプールもマイケル・エドワーズ・スポーツダイレクター(SD)のもとで戦略的なチーム強化を行っている。収入増をむやみやたらなスター選手の補強に費やさず、健全経営を進めながら「ここぞ」のタイミングを見極める。ファーガソン氏(マンチェスター・ユナイテッド元監督)のような往年の全権監督とは一線を画し、経営と強化の両輪をまわすシステムを構築しているところにも、現在のプレミア勢の隆盛の根源があるといえそうだ。

「今、世界最高のリーグはどこなのか。チャンピオンズリーグ決勝が、それを証明する“ケーキの上のサクランボ”(=最後の一押し)になるだろう」と、トッテナムのポチェッティーノ監督は胸を張る。マドリードでのCLファイナルは、サッカー界のトレンドを知る意味でも注目の戦いとなった。


VictorySportsNews編集部