日本代表を支えながら結果にコミットしたかったはずのクラブは、その日本代表を統括する日本ラグビー協会(日本協会)の一部の人間に惑わされてきた。

「Awoooon!」
 
サンウルブズの試合では、ファンが狼の遠吠えをまねる独自の応援スタイルが定着。非日常的な空間を醸してきた。

クラブを運営する一般社団法人のジャパンエスアール(JSR)は、顧客満足度を高めるべく策を練ってきた。スポーツ中継チャンネルとの繋がりを活かして人気プロ野球球団とのコラボグッズを作ったり、海外でのアウェーゲーム時に国内残留選手をゲストに立ててパブリックビューイングを開いたり、公式SNSでまめに情報を発信したり。

怪我人の続出や日本代表の意向で契約選手数がふくれ上がり、海外での運営費が想定を上回り、リーグ統括団体のサンザーから放映権収入を与えられず、少なくとも2018年時点では国内スポンサーとの直接取引が叶わなかった。それでも、収支表には現れぬ無形の価値を作り出していた。

森重隆・日本協会会長は、リーグ除外発表を受けて「サンウルブズの応援って、すごいじゃないですか。早稲田大学、明治大学といった学校を抜きにラグビーを応援するファンをなくすというのは、何か寂しい」とし、トップリーグでヤマハなどを率いてきた清宮克幸・同副会長も頷く。

「サンウルブズは、弱かった、赤字だったとか、そういう言い方を僕はしたくない。新しい価値を作ったのは事実」

今年6月29日就任の両氏に認められたサンウルブズだったが、その前の幹部たちにはやや雑に扱われた。

名誉会長だった森喜朗が不明瞭な理由でサンウルブズへ嫌悪感を示していたのは、周知の事実。田代芳孝・JSRの初代CEOは2015年6月、それまで務めていた日本協会理事を本人の意思に反して辞任。スーパーラグビー参戦へ尽力した当時の矢部達三専務理事(後に副会長)も、2016年3月31日限りで日本協会を離れた。今年6月まで続いた岡村正会長体制下では、当時の坂本典幸専務理事、河野一郎副会長らのもと国際交渉が進む。

2023年のワールドカップ開催地を決める投票では、サンザー加盟の南アフリカが立候補しているなか持っている投票権を全てフランスにプレゼント。この決断に「(国際交渉で)マイナスはあると思います」と坂本が認めたのは、本人が辞める約1か月前のことだった。

この空気感がもたらしたものが、今年3月22日の悲劇だった。サンザーはこの日、サンウルブズの2020年限りでのスーパーラグビー除籍を発表した。

専務理事だった坂本は、サンザーから高額の参加費を追加で求められたのが離脱の理由だったと説明。しかし、その追加徴収を求められた時期については双方の主張が食い違う。日本協会およびジャパンエスアール側は「数週間前」だったとする一方、サンザー側は2018年の夏ごろだったと説明。サンウルブズの創設に関わった日本協会の幹部経験者は、こう指摘する。

「日本協会がジャパンエスアールの財務保障をすると言えば、サンザーの態度は違ったはず」
 
コーチ経験者の1人が「協会内にサンウルブズをよく思っていない方がいたのは知っている」と勘づく状況下、現場は必死にあがいてきた。

試合に出た選手が、外国人とのコンタクトへ慣れていったのは大きな収穫だ。さらに2017年以降は、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いる日本代表と選手、戦術、コーチ陣などを共有。ただしここからは、その日本代表の意向および日本特有の事情に翻弄された。

国内リーグとの兼ね合いで他クラブより準備期間が短いうえ、二毛作をおこなう日本人選手には順次休暇を与えなければならない。その認識が一般化していた2、3季目は、時期ごとのメンバーの入れ替えは避けられなくなった。ジョセフが代表とサンウルブズの指揮官を兼ねた3季目は戦力を充実させて3勝したものの、ある日本人選手はこう漏らす。

「個人的な感触ですが、メンバー入れ替わりが少なければ(3季目は)あと3勝できたと思います」

4年目は、日本代表でジョセフの右腕を務めるトニー・ブラウンがヘッドコーチとなりながら、序盤戦と終盤戦ではスコット・ハンセンヘッドコーチ代行が指揮。ブラウンがサンウルブズを離れたのは、ジョセフとの連携強化やワールドカップへ向けた準備だと説明される。「そう理解しています。でなければ、どこの世界に開幕時にヘッドコーチのいない状況を認めますか」とは、JSRの現場の声だ。

日本代表の主軸候補の多くは、ジョセフの意向でウルフパックというグループを作ってスーパーラグビーの2軍格と対戦。一方でサンウルブズでは、主軸候補の外国人選手が相次ぎ負傷した。プレー面では、スクラムの形式が日本代表とサンウルブズとで違うのが今季の特徴であり問題点であった。

もちろんこの4年間の価値を本当に総括できるのは、自国ワールドカップの結果が出てから。サンウルブズのミッションには、自国ワールドカップでの日本代表の成功があるからだ。ちなみに、2018年には後の日本代表副強化委員長でもある藤井雄一郎ゼネラルマネージャーがジョセフと選手の間に入るなど、サンウルブズが日本代表勢同士の関係性を強めたのも確かだ。

ジャパンエスアールの渡瀬裕司現CEOは今回、森新会長のもと日本協会理事に就任している。清宮や藤井とともに代表強化にも携わりそう。森新会長からは、サンウルブズが再びスーパーラグビーに加われるよう「バックアップする」と発破をかけられている。現状のラストシーズン以降は、時のヘッドコーチや代表首脳に依存し過ぎないよう強化プランを練りたいようだ。

サンウルブズのスーパーラグビー除外決定時に日本協会が期待していたのは、ネーションズ選手権(欧州6カ国対抗勢、南半球4か国対抗勢、日本、フィジーの代表による戦い)の創設だった。しかしこれは、すでに不成立が決まっている。日本ラグビー界が逆風を浴びるなか、渡瀬CEOはオーストラリアクラブとの協働など新たな生き残りへの道も模索中。サンウルブズファンの心は、手放したくない。

向風見也

著者プロフィール 向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。