女子メジャーの直近10年の優勝者を国籍別に見ると、韓国人選手が11人で20勝と突出している。この11人をさらに細かく見ていくと、メジャー7勝の朴仁妃をはじめ、現在は日本を主戦場にしている申ジエと、キム・インキョンの3人が1988年生まれである。

【参考】女子5大メジャーの直近10年の優勝者

彼女たちの世代がなぜメジャーでこれほど活躍しているかというと、小学生のときに朴セリのメジャー制覇を見て、強い憧れを抱いたからだ。

韓国は1997年、アジア通貨危機で深刻なダメージを受けた。国際通貨基金(IMF)による救済で最悪の事態は免れたが、国全体が暗いムードに沈んでいた。そんなムードを吹き飛ばしたのが、1998年に「全米女子プロゴルフ選手権」と「全米女子オープン」を制覇した朴セリだった。

朴セリはこの年、メジャー2勝を含む年間4勝を挙げた。その姿を見て、韓国でゴルフを始める少女たちが急増した。1988年生まれの子どもが9~10歳のときの出来事だ。

この世代がツアーで活躍するようになると、韓国では「朴セリ・キッズ」と呼ぶようになった。「朴セリ・キッズ」の活躍は海外だけでなく、日本ツアーで21勝を挙げているイ ボミ(1988年8月21日生まれ)や6勝を挙げているキム ハヌル(1988年12月17日生まれ)も同世代なのである。

【参考】直近10年の女子メジャーで優勝した韓国人選手の生年月日

これを日本に当てはめると、2008年にリーマン・ショックが起こり、世界規模の金融危機が発生した。日本経済も大幅に景気が後退していった。そんなムードを吹き飛ばしたのが、2009年に「エビアンマスターズ」で米ツアー初勝利を挙げた宮里藍だった。

宮里は翌2010年、米ツアーで年間5勝を挙げ、世界ランキング1位まで上り詰めた。その姿を1998年4月2日~1999年4月1日生まれの黄金世代は小学生のときに見ていたことになる。

【参考】女子5大メジャーの直近10年の優勝者

宮里は2003年9月の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメント」でアマチュア優勝を達成して脚光を浴びたが、このとき4~5歳だった黄金世代はほとんど記憶にないはずだ。黄金世代が憧れる宮里は米ツアーでキラキラと輝いていた。それを目指して努力を積んできたからこそ、世界の舞台でも堂々と戦うことができるのだろう。

朴セリに憧れてゴルフを始めた1988年生まれの韓国人選手たちがメジャーの舞台で活躍を始めたのが2008年。朴仁妃が19歳11カ月で「全米女子オープン」制覇を果たし、申ジエが20歳3カ月で「全英リコー女子オープン」で勝利した。朴セリのメジャー初制覇から、ちょうど10年後だ。

渋野が20歳8カ月で「AIG全英女子オープン」制覇を果たしたのが、宮里の米ツアー初優勝からちょうど10年後というのは、決して偶然ではないだろう。

そして、渋野の快挙に刺激を受けた黄金世代の選手たちが、これから続々とメジャーの舞台で活躍を始めてもおかしくない状況は、すでに整っている。

「AIG全英女子オープン」の勝利によって渋野の世界ランキングが46位から14位にジャンプアップしたことは、報道によって知っている方が多いだろうが、黄金世代が今、世界ランキング100位以内に何人いるかご存じだろうか。

畑岡奈紗が10位。渋野が14位。河本結が54位。勝みなみが62位。小祝さくらが72位。原英莉花が88位。新垣比菜が96位。世界トップ100の中に、すでに7人が入っているのだ(8月5日現在)。

渋野よりも世界ランキング上位の畑岡は、すでに米ツアーで3勝を挙げている。「来年は自分もメジャー制覇」という思いは誰よりも強いだろう。

河本、勝、小祝、原、新垣の国内組も、「渋野ができるなら、自分たちにもできるはずだ」という思いが芽生えたはずだ。

また、海外メジャーに勝つと世界ランキングが一気に上がることがわかったのも、彼女たちにとって新たなモチベーションになるはずだ。なぜかと言えば、この世界ランキングが東京オリンピックの出場権に直結するからだ。

東京オリンピックの出場資格をあらためて確認しておくと、①女子は2020年6月30日時点のオリンピックゴルフランキング上位15位までの選手で、各国最大4名まで。②16位以下については、1カ国2名(15位以内の有資格者も含む)を上限とする。③5大陸(アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニア)ごとに、一人も出場資格を有するアスリートがいない場合は、男女ともに最低1つの出場枠が保証される。④大会開催国から一人も出場資格を有するアスリートがいない場合は、男女とも1つの出場枠が保証される。※ただし、上記③、④の出場枠が適用されても、男女各出場人数の60名は変わらない。

少しわかりにくいところもあるので補足説明をすると、オリンピックゴルフランキングというのは世界ランキングに準じている。つまり、世界ランキング15位までに入ると出場できる可能性が高まる。

ただし、各国最大4名までという上限があるので、8月5日時点の世界ランキングで15位以内に6人の選手がいる韓国は、そのうち4人しか出られないことになる。したがって、渋野は世界ランキング14位だが、オリンピックゴルフランキングでは12位に位置している。畑岡は10位に位置しており、現状のまま確定すれば2人が出場することになる。

だが、畑岡と渋野以外の選手が世界ランキング15位以内に入ると、出場枠が3名あるいは4名に広がる可能性がある。

渋野がメジャー勝利で46位から14位にジャンプアップしたことを考えると、2019年のうちに世界ランキング50位以内の水準につけていれば、2020年6月30日時点よりも前に開催される「ANAインスピレーション」、「全米女子オープン」、「KPMG女子PGA選手権」で勝利することによって、世界ランキング15位以内に食い込むことも十分に可能ということになる。

これが黄金世代の大きなモチベーションとなって、渋野に続く快挙を達成してくれることを期待したい。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。