まず男子ツアーだが、石川遼が7月の「日本プロゴルフ選手権大会」で約3年ぶりの復活優勝を果たした。8月の「長嶋茂雄INVITATIONALセガサミーカップ」でも出場2大会連続優勝を成し遂げ、完全復活を印象づけた。

正直なところ、今の男子ツアーが大きな話題になるのは石川遼が勝ったときだけである。彼よりも若い世代の今平周吾、堀川未来夢、浅地洋佑、星野陸也、比嘉一貴といった選手たちも結果を出しているが、なかなか話題にならないのが現状だ。

ただ、男子ゴルフ自体の人気が低迷しているわけではないことをはっきりと証明したのが、10月の「ZOZOチャンピオンシップ」だった。PGAツアー日本開催となった同大会は、天候不良に見舞われて2日目が中止、3日目が無観客試合と臨時の対応を余儀なくされたものの、初日18536人、4日目22678人もの大ギャラリーを集めた。

タイガー・ウッズが初日から首位タイ発進を果たし、日本のエースである松山英樹が追いかける試合展開の面白さもあったが、世界最高峰の力と技のぶつかり合いを日本国内で観戦できたことが多くのゴルフファンを魅了した。

この大会に出場した日本人選手は9人。松山英樹が通算16アンダー2位。小平智が通算2アンダー37位タイ。大槻智春が通算イーブンパー46位タイ。星野陸也と石川遼が通算1オーバー51位タイ。香妻陣一朗が通算2オーバー57位タイ。今平周吾が通算3オーバー59位タイ。浅地洋佑が通算4オーバー63位タイ。堀川未来夢が通算9オーバー72位タイだった。

PGAツアーで5勝を挙げている松山英樹以外の選手は力の違いを見せつけられた格好になったが、これに刺激を受けて切磋琢磨し、世界で戦える実力を身につけてほしいところだ。
松山が日本のエースとして、結果を見せてくれた事は、多くのファンも感じるものが多かったのではないか。

結局、今の時代はゴルフに限らずあらゆるスポーツの世界で、日本だけで通用しても世界で通用しなければ魅力を感じなくなっているということなのだろう。

それを象徴する出来事が、8月の「AIG全英女子オープン」で渋野日向子が日本人女子選手として42年ぶりに成し遂げた海外メジャー制覇という快挙だった。彼女は5月の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」でツアー初優勝を挙げ、7月の「資生堂 アネッサ レディスオープン」で2勝目を挙げており、今季の若手成長株の一人ではあったが、この時点ではまだツアーの主役ではなかった。

ところが海外メジャー制覇を達成した途端、一躍ツアーの主役になった。メディアは彼女の一挙手一投足を追いかけ、連日のように彼女の話題で盛り上がった。

それまで国内ツアーからのスポット参戦では、海外メジャー制覇は難しいという見立てが一般的であった。そのため、宮里藍は2006年から米女子ツアーに参戦。上田桃子、大山志保、宮里美香、野村敏京、有村智恵、上原彩子、横峯さくら、畑岡奈紗といった選手たちも米女子ツアーに挑戦したが、海外メジャーには手が届かなかった。

ところが、国内ツアーを主戦場にしていた渋野日向子が海外メジャー初出場初優勝を果たしたことで、ツアー自体が世界に通用することを証明する形になった。

実際、今の日本人女子選手は世界ランキングのポジションも高い。世界ランキング4位の畑岡奈紗を筆頭に、渋野日向子が15位、鈴木愛が19位、稲見萌寧が59位、上田桃子が61位、比嘉真美子が62位、河本結が65位、勝みなみが68位、小祝さくらが71位、成田美寿々が76位、岡山絵里が81位、穴井詩が88位、原英莉花が97位。100位以内に13人が入っている(11月11日現在)。

一方、日本人男子選手で世界ランキング100位以内に入っているのは、松山英樹(20位)と今平周吾(45位)の2人だけ(11月10日現在)。ツアーの人気に偏りが出るのも当然かもしれない。

ただ、女子ツアーも決して順風満帆というわけではない。男子ツアーが「ZOZOチャンピオンシップ」で大いに盛り上がっていた同週、笠りつ子が大会関係者に暴言を吐いたことで厳重注意を受けた。

昨年は男子ツアーの片山晋呉がプロアマ招待客に不適切な態度を取ったとして厳重注意を受けたが、女子ツアーは男子ツアーに比べてプロアマ対応やギャラリーサービスが優れていると評判だった。今後は気を引き締める必要があるだろう。

ゴルフファンにとって、男子ツアーも女子ツアーも盛り上がるのが理想的ではあるが、いずれのツアーも木曜から日曜にかけての4日間(女子ツアーの3日間競技は金曜から日曜)の同時刻に開催されているため、ギャラリー数やテレビ視聴率でどうしても優劣がつく傾向がある。

過去を振り返ってみても、2002年までは男子ツアーが優勢であったが、2003年9月の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメント」で宮里藍がアマチュア優勝を達成したことで、女子ツアー人気が一気に高まった。

その後、2006年に宮里藍が米女子ツアーに参戦し、2007年5月の「マンシングウェアオープンKSBカップ」で石川遼がアマチュア優勝を達成すると、今度は男子ツアーが人気を盛り返した。

2009年に石川遼が史上最年少賞金王に輝き、2011年4月の「マスターズ」で松山英樹が日本人初のローアマチュアを獲得した後、11月の「三井住友VISA太平洋マスターズ」でアマチュア優勝。2013年にプロ転向して年間4勝を挙げ、賞金王を獲得したころまでは男女ツアーとも盛り上がりを見せていた。

だが、2014年に松山英樹がPGAツアーに主戦場を移すと、男子ツアーは人気が低迷した。ここ数年、女子ツアー人気に押されっぱなしだったが、「ZOZOチャンピオンシップ」の盛り上がりをきっかけに、人気回復の糸口をつかみたいところだ。

女子ツアーは黄金世代を中心に若手選手が次々と台頭し、人気は盤石かと思われていたが、笠りつ子の暴言騒動を機に逆風が吹き始めている。今の選手たちは2002年以前の女子ツアーの人気がなかった時代を知らない。その時代を知る大人たちが、スポンサーやギャラリーに対する感謝の気持ちをあらためて植えつける必要があるだろう。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。