「強くて面白くて明るい、『大都会』にあるヤクルト」というイメージは、この男がクリスタルキングを熱唱したことによって私の中に形作られた(毎年、春季キャンプで『プロ野球珍プレー・好プレー大賞』に向けて、アフロのカツラをつけムッシュ吉崎のモノマネをして『大都会』を歌うのが十八番だった)。しかも、1993年、95年、97年、2001年と、平成時代のヤクルト4度の日本一の胴上げ投手はすべてこの男という「ミスター胴上げ投手」。本田圭佑、田中将大、斎藤佑樹が平成後期の「持ってる男」だとすると、平成前期~中期のそれは高津臣吾だろう。その高津が、監督になる。ヤクルトの監督に投手出身者が就任するのは、1987~89年に指揮を執った関根潤三以来31年ぶりという経緯も含め、昨年最下位に転落した要因である「防御率4.78」「失点739」(ともにリーグ最下位)の「治療」を託された彼に期待してしまうのである。

「自分はヤクルトの投手の序列の中で、15番目だ」。高津新監督は自身がルーキーだった頃、そのように自分が置かれているポジションのことを常に考えていたという※1。なんとか這い上がるために、一つずつ上の序列に上がっていこう、と。この高津監督のマインドは、一軍半&二軍クラスの若手選手にはしっかり継承されているだろう。ご存知の通り、高津新監督は昨年まで3年間ヤクルトの二軍監督を務めていたのだから。

さて、この「15番目」という数字が持つ意味を考えてみたい。現在、プロ野球の一軍の出場選手登録数は29名、そのうち1試合でベンチ入りできるのは最大25名まで。投手と野手の一軍選手登録者数の割り振りは、通例では投手が11~13名、野手が15~17名程度と言われている。つまり、一軍投手枠の「11~13名」に割って入るであろうor割って入るべき若手、新戦力=一軍半(15番目近辺)の選手の台頭が、今年のヤクルトが「守り勝てるか」どうかの鍵なのだ。だって、昨年までと同じ投手陣のメンバー、序列でシーズンを戦っても、「防御率4.78」「失点739」からの劇的改善は望めないだろうから。過去実績などから、春季キャンプ中の2月中旬時点での投手陣の序列を明らかにし、15番目近辺の選手をあぶり出してみたい。怪我や不調の可能性なども考慮し、キャンプ一軍メンバーのみを羅列した。

著者による一軍投手枠予想

今年の外国人枠の使い方は野手がメジャーでの実績を引っさげたエスコバー一人ということもあり、「野手1人、投手3人」の布陣が濃厚だ。一軍登録の投手を仮に13名とすると、一軍確定の7名に対し、あと6枠しかない。残り先発4枠、リリーフ2枠の争いだ。新外国人のイノーア、クックはオープン戦の結果次第だが、助っ人として獲得している以上、開幕ローテには入るだろう。順当にいくと、昨年4勝ときっかけをつかんだ高橋奎二も飛躍の年でローテ入りか。高津新監督も「練習を見ていても、俺が絶対ヤクルトのエースになってやる!という気概を感じる」と、著書でも高評価している※1。先発は開幕ローテが6人でスタートするとしてあと1枠、リリーフは残り2枠。

今後の対外試合、オープン戦での結果を追っていく上でも、今年のチームの浮沈の鍵を握ると言っても過言ではない、「15番目近辺の男」を整理してみたい。

スアレス…昨年、4月末の巨人戦で来日初登板初勝利を飾るも、5月に上半身のコンディション不良を訴え離脱。結果、シーズン1勝に終わった。ただし、17回2/3を投げて失点3の防御率1.53と安定感は光るものがあり、また最速152キロを記録するなど球威も充分。万全なら。

高梨裕稔…昨年、秋吉亮とのトレードで日本ハムから移籍も5勝と消化不良に終わった。球威は充分かつ貴重なフォークボーラーだが、防御率6.23が示す通り、昨年は打たれ始めると止まらなかった。球威を生かし、また集中力を維持すべく、1イニング限定でのセットアッパーもアリか。

吉田大喜…大学日本代表でセットアッパーとしても活躍した期待のドラ2ルーキー。同じ日体大出の先輩、西武・松本航やロッテ・東妻が1年目から活躍しており、ルーキーの開幕ローテ入りなるか?という視点でも注目して見ていきたい。

長谷川宙輝…ソフトバンクでも育成契約ながら期待されていた最速150キロ超左腕。今年からヤクルトに加入。東京都出身で、「友達もヤクルトは近いから見に行くと言ってくれたり、興味を持ってくれているので、より一層頑張りたい」と決意新た。ツイッターのプロフィールを見る限り、日向坂46のファンである模様。

坂本光士郎…リリーフは慢性的なサウスポー不足のため、何とか割って入って欲しいところ。往年のヤクルト黄金時代のブルペンを支えた加藤博人や山本樹のように、球威で押せる左腕になってほしい。

寺島成輝…大阪・履正社のエースとして甲子園を沸かせたかつてのドラ1も、今年で4年目。未勝利とプロの壁にぶつかっており、本人も「後がない」と背水の陣。今キャンプのシート打撃では好投し、高津新監督も「今まで根気強くコツコツやって、少しずつ成長してきた」。期待の大型左腕、ぜひ先発で見たい。

一方、打線はバレンティンが抜けた穴を憂う声も多いが、「つなぎの打線」を意識すればいい。昨年まではレフト(バレンティン)への単打の多くが二塁打になっていた守備面を考えると、充分おつりが来る。もしどうしてもバレンティンに変わる大砲を求めるなら、今年2年目の中山翔太がいる。ルーキーイヤーに打率.289、本塁打5は可能性を感じさせたし、性格が「上田剛史好み」な点もバレンティンに共通する(中山もバレンティンもしばし上田のインスタに登場)。あと数年間、オフに「TEAM青木宣親」の自主トレで鍛え上げれば、身体つきも本塁打数もバレンティンを凌ぐかもしれない。

上記のように、投手陣の整備が進み、打線も安泰だとなると、あとは投打が噛み合うように投手と野手の信頼関係を再構築するだけである。(キャッチャー・中村or嶋、ショート・エスコバー、センター・塩見でセンターラインも強化された。サードは廣岡、ファーストは村上で)

投打がガッチリ噛み合っていた90年代のヤクルト常勝時代。その常勝前夜のエピソードを、一つ紹介して締めたいと思う。

故・野村克也監督就任2年目の91年(就任1年目の90年は5位)、宮崎・西都での春季キャンプ中のこと。野村監督は夜のミーティングで講義をするかたわら、コーチやベテラン選手を一人一人壇上に上がらせ、「今のヤクルトには何が必要だと思うか」ということについて、みんなの前で喋らせた。そのとき、杉浦亨、角富士夫、八重樫幸雄、尾花高夫などに続き壇上に上がった、広沢克己(現:広澤克美。91年に打点王に輝くなど当時の主砲)は、こう言ったという。「ピッチャーも一生懸命投げてるんだと思うけど、簡単にホームランを打たれてしまう。そうすると、野手としては、何してるんだという気持ちになってしまう。(中略)でも、それじゃいけないんじゃないか。ピッチャーが打たれようが、バッターが打てなかろうが、勝利を目指し、みんなで頑張らなくちゃいけないって、俺は考えを改めたんだ」※2。

このときの広沢は、勝ちに飢えていた(結果、このエピソードの翌年92年に優勝)。

今のヤクルトで広沢のような言葉を言えるのは、「もっと打ちたい」&「もっと勝ちたい」想いがヤクルトで最も強く、今季から高津新監督直々の指名で主将に就任した青木宣親しかいない。いや、今季のキャンプ中のミーティングで既に彼は、「ピッチャーが打たれようが、バッターが打てなかろうが、勝利を目指し、みんなで優勝を勝ち取りましょう」と、主将就任の所信表明演説を終えていると思うのである。


<出典>
※1…『二軍監督の仕事 育てるためなら負けてもいい』高津臣吾(著)、光文社新書(刊)
※2…『ブンブン丸の「野村野球」伝道ーわが球歴40年史ー』池山隆寛(著)、小学館文庫(刊)


熊谷洋平

新卒でスポーツ新聞社(大阪配属)に入社し、編集センターにて阪神タイガース関連の記事を中心に紙面レイアウト制作に従事。 その後、雑誌の世界に転じ、編集プロダクションを経て、現在出版社勤務。幼稚園年長の頃から東京ヤクルトスワローズ一筋。幼少期から選手名鑑を穴があくほど読み、ほぼすべての選手のキャリアを空で言えるのが特技。Twitter@yoheihei170