1968年に月2回刊行の「少年ジャンプ」として創刊し、翌69年から週刊化され「週刊少年ジャンプ」へと改名。1994年発売の1995年3・4号では、発行部数653万部という今後破られることが(まず)ない金字塔を打ち立てたジャンプ。

“友情・努力・勝利”を編集方針の大原則に掲げている少年漫画誌において、それらすべてを具現化しやすいスポーツ漫画は、1968年の創刊から一度もなくなることがなかった、まさに王道であり、定番ジャンルだった。

創刊号に掲載された貝塚ひろしの野球漫画『父の魂』から始まり、50年を超える歴史の中では、数多くの大ヒットスポーツ漫画が誕生。読売ジャイアンツがV9(1965~1973年)を飾った70年代には『侍ジャイアンツ』(1971~1974年)、『アストロ球団』(1972~1976年)、『プレイボール』(1973~1978年)などの野球漫画が子供たちに夢を与えた。80年代に入ると、日本中のサッカー少年が夢中になった『キャプテン翼』(1981~1988年)、90年代にはバスケ小僧にとどまらず社会現象を巻き起こした『SLAM DUNK』(1990~1996年)が生まれた。近年では、『テニスの王子様』(1999~2008年)、『黒子のバスケ』(2009~2014年)など、2.5次元舞台化されて人気俳優らを生み出した作品も登場。その他にも『リングにかけろ』(1977~1981年)、『みどりのマキバオー』(1994~1998年)などもジャンプが生み出したスポーツ漫画の名作だ。

これらの漫画がヒットしたあとには、いわゆるサッカーブーム、バスケブームなどが付随したことからも、ジャンプのスポーツ漫画が、当時の少年たちの憧れを築いていたのは言うまでもない。かくいう1970年生まれの拙者も“キャプ翼”に感化され、中学生からサッカーを始めた口。大空翼のオーバーヘッドシュートを真似て、何度も腰と背中を痛打したのは懐かしい思い出だ。

【参考】週刊少年ジャンプにおけるスポーツ漫画 ※VICTORY編集部調べ

個人的な思い出はさておき、こうして名作の数々を並べてみると、これまでのジャンプにとってスポーツ漫画がいかに重要なピースだったのかがよくわかる。がしかし、今のジャンプを支えている代表作の『ONE PIECE』(1997年~連載中)、『Dr.STONE』(2017年~連載中)、『呪術廻戦』(2018年~連載中)は、順番に海賊、科学者、呪術師が主人公。さらに、先ごろ人気絶頂の中で完結した『鬼滅の刃』(2016~2020年)は剣士が、年末に映画の公開が予定される『約束のネバーランド』(2016~2020年)にいたっては食用児がメインキャストを務めていた。

そんなキャラクターの濃い多種多様な漫画が人気を争う中で、ラグビー漫画『ビーストチルドレン』(2019~2020年)の終了後、スポーツ漫画最後の砦として孤軍奮闘していたのが『ハイキュー!!』だった。2011年に読切版が掲載されたのち、2012年12号から連載をスタートさせたバレーボール漫画の主役は、“小さな巨人”を目指す天真爛漫な日向翔陽(ひなたしょうよう)と、“コート上の王様”と呼ばれた暗い影を持つ影山飛雄(かげやまとびお)の2人。のちにVリーガー、そして日本代表になるだけに、バレーボールはもちろん上手いが、それ以外はいたって普通の男子高校生が主人公だった。彼ら2人を中心に高校バレーボール部の仲間やライバルたちが繰り広げる“熱い青春&積み重ねた成長”のストーリーは、アニメ&舞台化もされ、シリーズの累計発行部数は3800万部超を記録。ジャンプ史上でも屈指の人気を誇ったが、その物語が第402話で完結したことで、創刊から綿々と続いたジャンプのスポーツ漫画の連続掲載にピリオドが打たれることになった。

昨年発表された、子どものなりたい職業を調べた某アンケートにおいて、ここ10年間続けて不動の男子1位だったプロサッカー選手に代わり、YouTuberが1位になったという。かつては子どもの夢といえばプロ野球選手がお決まりで、当時のジャンプには野球漫画が数多く掲載されていた。アンケートの数字が表すように、子どもの憧れる対象がスポーツ選手だけではなくなった今、人気少年誌の連載という限られた枠の中で、スポーツ漫画がラインナップからその姿を消すのは、至極当然のことなのかもしれない。

佐藤健が主演を務めた映画「世界から猫が消えたなら」では、最後に猫は消えず、主人公は幸せな人生をまっとうしたが、ジャンプからスポーツ漫画が消えたなら、僕らはこれからの人生を笑って幸せに過ごすことができるのだろうか?「スポーツ漫画というだけで大体読む」派なだけに、個人的には、不安でしょうがない。


越智龍二

1970年、愛媛県生まれ。なぜか編集プロダクションへ就職したことで文字を書き始める。情報誌を中心にあらゆるジャンルの文字を書いて25年を超えた。会ったら緊張で喋れない自分が目に浮かぶが、原監督にインタビューするのが夢。