さて、試合に出場するからには、選手たちはもちろん優勝を目指して戦いを繰り広げるわけだが、ゴルフというスポーツは100人以上の選手が出場して優勝できるのはただ1人というシビアな競技である。今の時期は日照時間が短いので出場選手が少なくなるが、それでも100人近い選手の中で優勝者は1人だ。

したがって、選手たちは優勝を目指してベストを尽くしながら、優勝できなくても上位でフィニッシュできるように頑張るというのが現実的な戦い方になる。そういった視点で見ると、プロゴルファーはトーナメントで何位に入れば及第点で、何位に入れば合格点なのだろうか。

予選通過

及第点に関して言えば、分かりやすいのが今年の渋野日向子である。国内開幕戦となった6月の「アース・モンダミンカップ」で、決勝ラウンド進出に1打及ばず予選落ちを喫し、海外遠征を経て4カ月ぶりに国内ツアー復帰した「樋口久子 三菱電機レディス」でも予選落ちしたことで、「せめて予選だけは通過してくれ」という悲痛な叫びが日本中のゴルフファンから聞こえてきた。

予選落ちすると、3日間競技でも4日間競技でも2日間しかプレーできない。ファンがプレーを見る機会も少なくなる。渋野にとって、国内復帰2戦目の「TOTOジャパンクラシック」が予選落ちなしの試合だったのはツイていたかもしれない。予選があれば、実績のある選手も実績のない選手も、まずは予選を通過し、そこから最終日に優勝が狙える位置まで順位を押し上げていくという戦い方が求められるのだ。

ゴルフというスポーツは、予選さえ通過すれば何が起こるか分からない。2001年5月の男子トーナメント「ダイヤモンドカップ」では、2日目終了時点でカットラインギリギリだった伊沢利光が、3日目に8アンダー64をマークして首位と2打差に浮上し、最終日に逆転優勝したこともある。人気選手はトーナメントの優勝者が決まる決勝ラウンドを戦うべきなのである。

タイガー・ウッズがスーパースターと呼ばれるゆえんは、PGAツアーで最多タイの82勝を挙げている勝利数の多さに加え、1998年2月の「ビュイック招待」から2005年5月の「ワコビア選手権」まで142試合連続で予選通過という抜群の安定感を誇ったからだ。

賞金額

その上で何位に入れば合格点かというのは、選手の実績や試合の規模によっても変わってくる。今年の国内ゴルフツアーは当初男子25試合、女子37試合がラインナップされていたが、賞金総額は試合によって大きく異なる。

男子で言えば、最も多いのは賞金総額2億円で、最も少ないのは賞金総額5000万円。女子で言えば、最も多いのは賞金総額2億4000万円、最も少ないのは賞金総額6000万円。いずれも4倍の開きがある。

また、男子ツアーと女子ツアーでは賞金の分配率が異なる。男子の優勝賞金は賞金総額の20パーセントなので、賞金総額2億円であれば優勝賞金4000万円、賞金総額5000万円であれば優勝賞金1000万円。女子の優勝賞金は賞金総額の18パーセントなので、賞金総額2億4000万円であれば優勝賞金4320万円、賞金総額6000万円であれば優勝賞金1080万円になる。

そのため、実績のある選手は賞金の高い試合に照準を合わせてスケジュールを組み、その試合に向けてコンディションを仕上げてくる。一方、実績のない選手は賞金の少ない試合のほうが選手層は薄くなるので、その試合で上位を狙うという戦略も成り立つ。

ただ、そういった話を選手たちとしていると、試合が始まる前までは賞金のことも気にしているが、試合が始まってからは順位のほうが気になるようだ。トーナメントのテレビ中継を見ていると、「このパットが決まれば賞金がいくら変わる」みたいなことを解説者が口にするケースがあるが、そんなことを気にしていたらパットを打つ際に手が動かなくなるという。

一般的に、実績のある選手のほうが賞金額よりもトップ10フィニッシュの回数にこだわる。優勝経験がある選手は、優勝するためには自分の調子がいいだけでなく、試合展開や運にも恵まれる必要があることを知っているため、トップ10フィニッシュを続けることで優勝のチャンスが増えると考えているようだ。

一方、実績のない選手は順位よりも賞金額にこだわる。賞金シードを獲得したことがない選手は、年間獲得賞金によって賞金ランキングの順位が決まるので、前年の賞金シードのボーダーラインと見比べながら、あといくらで賞金シードが確定するかもしれないといったことを考えてしまうのである。ただ、賞金シードを意識し過ぎた結果、、シードを獲得しても初優勝には手が届かないままシードから陥落していく選手をこれまでにたくさん見てきた。

そういったことを総合的に判断すると、プロゴルファーはまず及第点である予選通過をクリアし、その後は優勝を目指しながらもトップ10フィニッシュであれば合格点と考えるのが、どの選手にも共通する指針になるかもしれない。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。