今回のオーストリア遠征でも好調は継続中だ。後半から出場した13日のパナマ戦では、前半に苦しんだチームを攻守においてギアアップさせ、1-0の勝利の原動力となった。スポーツデータ配信会社『Opta』の公式ツイッターによれば、パナマ戦では45分間のみの出場ながら、デュエル勝利数は日本チーム2位の10回。敵陣へのパスは17本で、成功15本、成功率は両チームを通じてトップの88・2パーセントだった。

 ボランチというポジションもさることながら、16年リオデジャネイロ五輪では主将を務めており、キャプテンシーの面でも“ポスト長谷部誠”との呼び声が高い遠藤。評価を急上昇させている進化の裏側を紐解く。

「最近はデュエルマスターと呼ばれるようになっていて」

 オンライン会見の画面越しに語る遠藤は、笑顔も交えた充実の表情を浮かべてそう言った。自身の言葉通り、今季からプレーするブンデス1部では、7節を終えた時点でデュエル勝利数がリーグ1位の116回を記録し、ドイツメディアから絶賛されている。

「開幕当初は気にしていなかったし、まさか僕が上位争いをするとは思っていませんでしたが、データを見るようになってからはそこで1位を取ることを目標にやるようになっています。シーズン終了時にも球際勝率1位でいられるようにしたいですね」

 ブンデス1部ではリーグ公式データとして「ツヴァイカンプフ(1対1の競り合い)」の数字がランキング化されている。もともとデュエルの強かった遠藤にとって、守備能力の数字による可視化がプレゼンスを高めるうえで追い風となったのは間違いない。

 もちろん、デュエルそのものの向上もある。

「まず、フィジカルベースは間違いなく上がっています。それと、海外の相手に対してもあまり駆け引きをせずにバチバチと当たっていくというのを特に意識をしています。駆け引きも重要だけど、基本的にはしっかり当たりに行って奪うことを大事にしています」

 では、当たりに行けるようになったのはなぜか。遠藤は頭脳とフィジカルを挙げる。

「しっかり当たるためには、良いポジショニングから良い守備をしていかないといけない。ボールホルダーや(ボールを持っていない)相手、そして、味方のポジションがどういうところにあるのか、常に頭を使いながら自分のポジションを置いています」

 フィジカル面はどうか。遠藤は「アプローチのスピードなどが良くなってきている」と言いつつ、「それに加えて、1対1でシンプルに負けないという気持ちのベースが向上していると思う」と分析した。

 一方、攻撃面に目を移すと、ここで遠藤が本格的に武器としつつあるのが、縦パスの技術だ。これまで日本代表でボランチを任される選手は、守備的なタイプである場合、どうしても攻撃面が弱点となっていた。遠藤には「もともと縦パスは持っていた」という自負もあるが、国際Aマッチで全幅の信頼を得るまでには至っていなかったはず。しかし、パナマ戦では一段上にいった印象を残した。

 その象徴が、60分に2列目の久保建英に当てたくさびだ。速さも軌道もタイミングも完璧な縦パス。日本は久保のラストパスを受けた南野拓実がペナルティーエリア内で倒されてPKを獲得。南野が決めて1-0の勝利につながった。

 試合後は賞賛の声が続出した。PK奪取につながった場面について久保が「自分がずっと受けたかった位置に素晴らしいボールが来た。一緒にやっていて遠藤選手には余裕があるなと感じた」と感嘆まじりに言えば、南野は「航君は相手のボールを奪ってつなぐ部分や、ビルドアップでも前を向いてボールをつけたりサイドを変えたりする部分で、頼もしいプレーをしてくれた」と振り返った。主将の吉田麻也は「(遠藤は)以前はボールが前にいかなかったことが多かったが、ベルギー、ドイツに行って非常にレベルアップしている」と変化について語った。

 ただ、このプレーについての遠藤自身の感想は「特に難しいことはしていない」というものだ。

「最近意識しているのは相手がどうプレッシャーをかけているのか、味方がどこにいるのか。日本代表や相手のシステムを考えたうえで、自分がどういうポジションをとって、どこで受ければ縦につけやすくなるのかということです」

 言葉の端々にも今まさに右肩上がりの成長軌道に乗っていることをうかがわせている遠藤。彼が「良い選手」から「違いを見せる選手」へと駆け上がることになる転機はどこにあったのだろうか。

ターニングポイント

 遠藤は現在までに湘南、浦和、シントトロイデン、シュツットガルトと計4チームに在籍し、J2、J1、ベルギーリーグ、ブンデス2部、ブンデス1部と、計5つのリーグを経験している。その中で「一番の肝だった」と言い、ターニングポイントとして挙げたのは、ロシアW杯後の18年7月にベルギー・シントトロイデンに移籍したことだった。

「Jリーグでは基本的には3バックの真ん中や右で出て、代表ではボランチをやっていて、その中で難しさを感じていました。ベルギーに行って中盤で使われるようになってからは、代表でもよりやりやすさを感じた。だからそこが分岐点だったと思います」

 湘南や浦和ではセンターバックとしてプレーしていた遠藤だが、若いころから「世界で戦うにはセンターバックとしては身長が足りない。ボランチで勝負したい」という構想を持っていた。

 その思いを加速させたのが18年ロシアW杯だ。当時、浦和に所属していた遠藤は、23人のメンバーに選ばれたものの出場機会を得ることなく大会を終えた。時を同じくして、W杯3大会で主将としてチームをまとめあげたボランチの長谷部誠が代表引退を表明。出場なしに終わった悔しさの中で遠藤は、「ボランチで勝負したい」という希望を交渉の場ではっきりと打ち出しながら、正式オファーを受けたただ1つのクラブであるシントトロイデンへの移籍を決めた。

 18年7月25日。ベルギーに向かう直前に取材に応じた遠藤は、目標とする選手像について、ロシアW杯で出色のプレーを連発してクロアチアを準優勝に導いたルカ・モドリッチ(レアルマドリード)の名を挙げ、このように語った。

「今、理想像として描いているのは守備も攻撃もできる選手です。モドリッチは攻撃が特徴だけど守備もうまい。逆に守備的な選手でも攻撃の能力も高いのが世界のスタンダード。すべてのクオリティーを上げていかないといけないと思っています」

 それから2年あまり。遠藤は今回のオーストリアでのオンライン会見でも当時抱いていた思いについて触れた。

「ロシアW杯後は長谷部さんのポジションに誰が入るのか、みんなが注目していたと思う。その中で僕も目標をはっきりと決めたが、個人的にはそれ以前からボランチでプレーしたいと思っていた。ロシア後にやっとそこでプレーできるようになったことが、今の自分にとって非常に大きかった」

 そんな遠藤は「ブンデス1部でやれているのは自信にはなっているけど、代表でもブンデスでもさらに存在感を高めていきたいと思っています」と言葉に力を込めている。

 日本時間18日早朝5時キックオフとなるオーストリア遠征の第2戦の相手は、W杯で7大会連続ベスト16の強豪メキシコ。日本代表にとってはもちろんのこと、理想の選手へ着実に歩みを進めている遠藤にとっても、自身の現在地を知るうえで絶好の相手である。


矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。