このニュースを見て、一部のアマチュア野球界に残るさまざまな風習、しきたりを思い浮かべた。下級生が上級生に話しかけることは許されず、返事は「はい」か「いいえ」だけ。誰かがミスをすれば(監督や上級生の機嫌を損なえば)連帯責任でペナルティを課せられたものだ。私が立教大学野球部に在籍した1980年代後半、高校野球でも大学野球でも、企業で働きながら野球に打ち込む社会人野球でも、暴力がすぐ近くにあった。

野球界に残る暴力

 一日の練習が終われば、監督の訓話があり、上級生が下級生を集めて(集合)、説教を行い、問題(ルール違反)が発生した場合には、何かしらのペナルティ(暴力や罰走、丸刈り、外出禁止)が与えられた。強豪校であればあるほど、監督が厳しければ厳しいほど、選手たちが感じるストレスが大きければ大きいほど、部内の緊張の度は高まり、ペナルティは厳しいものになる。野球に暴力はつきもので、そういった厳しさに耐えてこそ、根性がつくと考える指導者もいた。監督から課せられる猛特訓、先輩からのしごきを乗り越えることで勝利はつかめるのだと多くの人が考えていた。

 30年以上が経ち、そんな風習を「よし」とする学校はないが、それでも暴力を根絶できないでいる。10月に、甲子園出場経験のある監督の暴言、部長の部内暴力などのため、指導者が謹慎処分を受けた。11月にも、部内いじめが発覚した高校など5校が対外試合禁止などの処分の発表がされた。日本学生野球協会は毎月のように、部内いじめや暴力的な指導を行った指導者に対する処分を行っているにもかかわらず、野球の近くにはまだ暴力が残っていると言わざるを得ない。

 昭和から平成の野球界では、練習の準備やグラウンドの整備はもちろん、下級生に身の回りの世話までさせる野球部はいくらでもあった。自宅からの通いであれば気が休まる時間もとれるが、寮生活での逃げ場がない。上級生が反抗できない下級生にストレスをぶつけることも日常茶飯事だった。

 集団を統制するにはルールが必要だ。人が入れ替わるたびに厳しくなったり、ゆるくなったりするものだが、一度決められたことを覆すのは難しい。伝統校、強豪と言われるところは特にその傾向が強い。

容易ではない体質の改善

 私は今年3月、『野球と暴力』(イースト・プレス)という書籍で、野球界に残る暴力について書いた。さまざまな関係者を取材してわかったことは、暴力を肯定する者が少ないにもかかわらず、効果を信じる者がいまだに多数いることだ。現在、プロ野球で活躍する20代の選手はこう言った。

「高校時代、ひとつ上の人たちは先輩たちから厳しい指導を受けていましたが、僕たちには優しくしてくれました。だから、後輩たちにも同じように接したんですが、そうすると大事なところでチームが緩むんです。試合中も緊張感がなくて、甲子園には行けませんでした」

 暴力による厳しさと勝利との関係は定かではない。しかし、「厳しい上下関係がないと勝てない」という思い込みが選手にも指導者にもいまだにあるようだ。

 野球界に暴力に残っているのには、いくつかの原因がある。

・監督の存在が大きすぎる(権限も責任も)
・指導者と選手がフラットにコミュニケーションをとるのが難しい
・選手の受け身の姿勢が変わらない
・甲子園があまりにも大きな存在になっている

 歴史のある野球部で、その体質を変えることは容易ではない。発言権を持たない選手はどれだけ理不尽なことがあっても飲み込みながら、耐えるしかない。ここを通過しない限り、試合(甲子園)に出ることはできないからだ。

 これは、宝塚音楽学校と共通するところだろう。宝塚歌劇の舞台に立てるのは、宝塚音楽学校の卒業生だけだ。

 日本野球の歴史をたどると、これまで多くの野球選手が、暴力的な指導によって成長し、多くの栄光をつかんできたことがわかる。生きるか死ぬかという切迫した場面で、「根性のある」選手が勝利を手繰り寄せた例はいくらでもある。宝塚音楽学校の記事でも、「連帯責任を叩き込まれ、お互いを気遣うことを覚えた経験は確かに舞台で生きている」いう卒業生のコメントが紹介されている。

 暴力的な指導によって日本の野球が発展した部分は否めない。もしかしたら、それが人間形成に役立った例もあるかもしれない。だが、それは過去のことだ。これからも同じやり方を続けていくわけにはいかない。
指導する立場にある人は、暴力を完全に捨てることを徹底してほしい。恐怖で人は育たない。もし暴力を助長する風習が残っているならば、それを廃止することが大切だ。もちろん、暴力とは行為だけではなく、言葉も含まれることを忘れてはいけない。

元永知宏

著者プロフィール 元永知宏

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年の時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。出版社勤務を経て、スポーツライターに。 著書に『期待はずれのドラフト1位』『敗北を力に!』『レギュラーになれないきみへ』(岩波ジュニア新書)、『殴られて野球はうまくなる!?』(講談社+α文庫)、『荒木大輔のいた1980年の甲子園』『近鉄魂とはなんだったのか?』(集英社)、『補欠の力』(ぴあ)などがある。 愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(愛媛新聞社)の編集長をつとめている。