――まずは自己紹介からお願いします。
Cygames メディア室マネージャー川上尚樹(以下:川上):『Shadowverse』などのゲームタイトルをリリースしているCygamesのメディア室に所属しています。eスポーツ関連のイベントや企画、動画配信など、ゲーム外の展開を担当しています。
NTT-WEST リバレント ふぇぐ選手(以下ふぇぐ):『Shadowverse』のプロリーグ「RAGE Shadowverse Pro League」でNTT-WEST リバレントで選手をしているふぇぐです。2018年よりプロゲーマーとして活躍しており、その年の年末に開催された「Shadowverse World Grand Prix 2018」で優勝し、賞金100万ドル(約1億1000万円)を獲得しました。
オデッセイ 平岩康佑アナウンサー(以下平岩):その1億1000万円の紹介のあとはやりづらいなぁ(笑)。eスポーツを中心としたキャスターをマネジメントするオデッセイの代表をしています。eスポーツ大会の実況やMCなどを務めています。2018年まで朝日放送テレビ(ABCテレビ)でアナウンサーをしていました。eスポーツの実況以外に、新作ゲームのPRなども行っています。また、オデッセイに所属するキャスター陣のマネジメントも行っています。
CyberZ RAGEプロデューサー大友真吾(以下大友):eスポーツ事業を運営しているCyberZに所属しており、eスポーツ事業の担当役員です。eスポーツイベントRAGEの興行をエイベックス・エンタテインメント、テレビ朝日と協業にて企画、開催しており、Cygamesを始め各メーカー/タイトルのイベントやリーグ戦などの運営を行っています。
――2020年はコロナ禍で軒並みライブエンターテインメントは窮地に追いやられました。その中でもeスポーツはオンラインへの対応がしやすく、その結果飛躍した部分もありましたが、それでも辛い面も多かったと思います。実際、2020年の活動はどうでしたでしょうか。
大友:eスポーツ大会は、コロナ禍でオンラインにせざるを得ない状況でした。オンラインでも大会ができなくはなかったですが、やはりオフラインでできていたことの多くができず、難しいことは多かったです。ただ、大会予選をオンラインにしたことで、会場に来られなかった人たちが参加できるようになったのは、思わぬ副産物でしたね。地方の方とかだと簡単に都内に来ることもままなりませんが、オンラインであれば気軽に参加できますので。
オンラインになったことで一番大変だったのは、なにか問題や不具合が起きたときの対応ですね。オフラインの場合、問題の状況も目の当たりにできますし、現場でいろいろな対応ができます。オンラインの場合、基本チャットやメッセージで状況を確認し、対応しなくてはなりません。どう対処するかも、参加者のオンラインリテラシーに依存することもあり、大会に慣れていない方やオンラインリテラシーがあまり高くない方には難しいことをお願いせざるを得ませんでした。初参加の方は、出番がくるまでの間は不安だったと思います。
平岩:私自身もそうですが、実況者全員に言えることとして、コロナ禍になって結果的には忙しい一年となりました。オデッセイに所属しているキャスターやタレント5人もスケジュールが埋まっていましたね。ただ、緊急事態宣言が発令された4月時点では、予定していたイベントや大会のほとんどが延期、中止になり、一気にスケジュールが真っ白になりました。とはいえ1か月も経たない内にオフラインからオンラインに切り替わっていきました。eスポーツは選手も家にいて大会が開催できるという、他にはない強みを感じました。
オフラインでは週末の開催がメインでしたが、低予算で気軽に参加できるオンラインになってからは平日夜の開催も増えました。コロナ禍になる以前から平日の仕事に関してどうやって活動するかを課題としていたので、奇しくもコロナによってそこがクリアされることになりました。オンラインでの環境も回を追うごとにブラッシュアップされていきました。これは必要に迫られた結果ですが、オンラインの大会、配信環境はこの1年で大きく向上したと思います。また、それは観戦する側にも言えると思います。
まだしばらくはこの状況が続くと思いますが、コロナ禍が明けた後、生で観たいと言う気持ちが爆発して、大盛り上がりになるのではと期待しています。
――大会がオンライン対応に切り替わるなか、オフラインのオンライン化だけでなく、これまで大会を開いていなかった選手やコミュニティが小さなオンライン大会を開くようになったこともコロナ禍による結果のひとつだと思います。そういった小さな大会などでも実況の仕事はされていたのでしょうか。
平岩:そうですね。大小にかかわらずできるところはやっていました。先ほども言いましたが平日に大会が開かれるようになり、平日に稼働できるというのはこちらとしてもプラスになることでした。
ふぇぐ:参加していたプロリーグが延期となり、開幕してもオンラインでの開催となりました。選手は現場に集まっていたので、それが家からの参加に切り替わりました。最初はスタジオに行かなくて良いって喜んでいたんですけど(笑)、いざ始まってみるとメンタル面の調整の難しさを感じました。会場の緊張感が得られず、ついリラックスしすぎてしまい集中できない場面もありました。最近はようやく慣れて、家にいてもグランプリのような大きな大会に出場する自分を想像し、高めています。そういうことを自分でやらなくてはいけないのが大変です。
平岩:お客さんがいないというのは影響ありますか。
ふぇぐ:「RAGE Shadowverse Pro League」は元々観客が入っていない配信のみだったので、そこはあまり変わらないですね。ただ、生配信から収録に変わったので、ミスした試合が終わったあと、このミスった試合が数日後に流れるのかぁと落ち込みます。生だとその時に反省し、次となりますが、収録だとミスした時から配信したまでの時間、そのことを考えてしまうんです。
平岩:収録は観るんですか。
ふぇぐ:観ないです!
全員:(笑)。
川上:これまでオフラインでやっていた多くのことができなくなって、オンラインに切り替わっていきました。「RAGE Shadowverse」も5月からオンラインになりました。1月はギネスに挑戦するイベントも行い、かなり盛り上がった直後に、緊急事態宣言となり、せっかく高まった熱が下がってしまうのではという懸念はありました。
しかし、大友さんがおっしゃっていたように、オンラインになったことで、より多くの人が参加してもらえるようになったのは良かったですね。5月に開催した大会は過去最高の参加者数となりましたし、オンラインでの環境が作れて、コロナ禍でも良い形で大会が行えたのは大きな成果でした。
ただ、これまでオフラインの大きな大会が3か月に一度あって、それが参加者にとって、定期的な交流の場になっていたのですが、その場が用意できなくなったのは残念ですね。大会終了後に近くの飲食店に入ると、大会に参加した選手や試合を観に来た観戦者が交流する姿をみることができ、大会がきっかけで参加者、ファンの繋がりができたことが嬉しかったのですが、オンラインになったことで当然、そういったことがなくなってしまい、勿体ないなと感じています。
――大会がオンラインに変わったことで、影響はでましたか。
平岩:『Shadowverse』の大会の場合、選手はボックスの中に入って、カメラでの様子しかわからないので、オンラインでもあまり変わらない部分もありました。それでも選手のことが見えないと視聴者はついてきにくくなってしまうと思います。なので、選手のリサーチはオフラインの時以上にやりました。各選手へアンケートもお願いし、少しでも選手への理解度を高めてもらえるようにしました。「いつもは強気の発言を繰り返していますが、ここでは慎重なプレイです」のような選手のパーソナリティを掘り起こすことで、視聴者もより身近に感じ、応援したくなります。最近はCyberZからそういったものを事前に用意してくれることもあり、より深い情報を伝えることができています。
――無観客試合、選手もリモートの中、実況解説やMCのみスタジオで中継することも多いと思います。自宅や会社から実況するのとどちらが良いですか。
平岩:無観客、選手のリモートだけでなく、我々もリモートで実況することがありました。家で試合をみて、それに声を当てるとどうしてもラグが起きてしまいます。一瞬を見逃さないように細心の注意を払っていました。そういう意味ではできるだけスタジオで実況したいと思っています。ただ、途中から試合も生配信ではなく収録に切り替わったので、ラグについては問題なくなりました。あと、収録になったことで、トラブルが起きても場つなぎ的なことをしなくて良いので、配信を観ている人はスムーズに試合が展開して観やすくなっていると思います。
――今、収録の話が出ましたが、eスポーツは基本的にライブのストリーミングで配信されていたと思います。『Shadowverse』以外にも収録に切り替えた大会やリーグもありましたが、それについてはいかがでしょうか。先ほど言ったトラブルの待ち時間をカットできたり、実況解説の字幕がリアルタイムで表示されたり、次回予告で見どころを先に伝えることができたりと利点もあると思います。もちろん、ライブの臨場感が薄れたり、試合結果を先に知ってしまったり、デメリットもあると思いますが。また、これまでオフライン大会の配信と、配信のみの映像作り、演出面などの変化はありましたでしょうか。
川上:「RAGE Shadowverse Pro League」は今シーズンの開幕タイミングから選手の皆さんがオンラインで試合に参加する事前収録形式に切り替えました。事前収録にしたことにより、良い点と悪い点の両方が浮き彫りになった感じです。
良い点としては、配信の展開がスピーディになったことです。どうしても試合と試合の間に選手や運営による準備時間が必要となるので、選手がオフラインで試合に参加する生放送形式での放送だとその時間は待って貰うしかありません。収録の場合はそこをカットすることができるので、試合が終了したら、すぐに次の試合が始まるようになりました。悪い点は試合の熱量がどうしても下がってしまうことに加えて、最新のデッキの情報をリアルタイムで伝えられないことですね。ゲーム環境は日々更新されていくので、アップデートがかかった直後だと、1日配信が遅れたことで、その時使っていたデッキはすでに古くなってしまうようなこともあります。プロが最新のデッキの構成、使い方をみせられるのがプロリーグの魅力のひとつでもあります。収録によって数日遅れて配信するのは、その魅力が半減することになります。
大友:オンラインになったことで、オンラインでの見せ方を考えるようになりました。オフラインだと立派な会場を使ったり、ステージの演出を豪華にすることなどができました。オンラインだと、CGやARなどを使うことでオフラインとは違う演出方法が必要となりました。これはRAGEだけでなく、他のeスポーツイベントでも、オンラインでより派手な演出をするようになっていると思います。オンライン配信で観ている人にどれだけ楽しんで貰えるかと言う形に変わってきました。そのひとつとしてバーチャルSNSの「cluster」で、バーチャル会場を使ったV-RAGEなども試してみたわけです。
――オンライン化に関して、プロとしてプレイする立場のふぇぐ選手はいかがですか?
ふぇぐ:年2回あった大きなイベントがなくなったことで、プロeスポーツ選手として自分は何ができるのかを考えました。そのひとつの答えとして出たのがYouTubeですね。プロリーグと両立させるのは結構大変なんで、動画配信ができない時期もあったりするのですが、なんとかやっています。視聴者が一番観たいものって、新しいカードが出た時だと思うんですけど、そのタイミングってプロ選手は一番忙しいんですよ。まだ、そこは慣れてないですね。プロ選手としての実力を高めるところと、ふぇぐという選手の価値や魅力を上げていくことは両方とも重要だと思っています。そのバランスを取るのが難しいですね。
――ふぇぐ選手は練習時間の長さが飛び抜けていると聞いていましたが、外に出る時間がなくなった分、より練習時間が長くなったんでしょうか。
ふぇぐ:外に出なくなった分、いろんなことを考えるようになりました。自分を見つめ直す良い機会でもあったし、悪かった点もありました。練習時間自体はそれほど変わってないですね。もともと外に出るタイプの人間ではなかったんですけど、コロナ禍になって拍車がかかりました。ほとんど家から出なくなったので、10kgほど太りました。これはかなりやばいですね(笑)。結構、お酒を飲むのが好きで外に飲みに行っていたのもなくなりました。外飲みがなくなったので、家で飲む量が増えました。これが太った原因ですかね。
――YouTubeと言えば、オデッセイのメンバーも配信をされ、かなり話題になっていたと思いますが、あれもコロナ禍によって始めようとしたことなんでしょうか。
平岩:緊急事態宣言が発令した直後は仕事が一気に減り、時間ができたので、やってみようかと言う話になりました。最初は『あつまれ!どうぶつの森』のプレイ実況動画から始めたんですが、ゲーム情報をニュース番組風に伝える「異世界ニュース」をはじめ、10万人近く登録者が増えました。柴田(アナウンサー)も短い動画に実況を付ける動画を始めていました。犬が家から脱出しようとして出られなかっただけの動画に実況をつけたものは350万回以上再生されました。
eスポーツキャスターを始めた1年目は実況のクオリティを上げることを中心に考えていました。2年目になってインフルエンサー的、ストリーマー的な能力もつけるべきではないかと考えて配信を始めました。おかげさまで配信動画を観てくれる人もいま増え続けています。途中から本業が忙しくなったので、最近は配信動画を投稿できていないんです。編集を人に任せてしまえば大分楽になるのですが、やはり自分で編集しないと面白いものができないと言うのもわかりました。
(後編へ続く)