文=長谷川雅治(アジアサッカー研究所) 写真=Samurai × TPL

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Jリーグ主催の大会をタイで開催

「今までアジア戦略ができていなかったことにチャレンジしたのです」

 2017シーズンのJリーグ開幕に向けて各クラブが始動する中、1月24日(火)、26日(木)にタイのバンコクにあるラジャマンガラ・ナショナル・スタジアムにおいて、「日・タイ修好130周年 2017Jリーグアジアチャレンジinタイ インターリーグカップ」が行われた。大会設立に尽力したJリーグ国際部の大矢丈之氏は、その経緯を語った。

 Jリーグは2012年からアジア戦略に取り組んでいるが、この2017シーズンもイン/アウト両面での大胆な政策を打ち出した。ひとつは「提携リーグの選手は、外国籍選手登録枠に含まない(日本人選手と同じ扱い)」とする提携リーグ選手への門戸拡大であった。もうひとつがこのJリーグアジアチャレンジの開催だ。
「育成年代の交流や、クラブ同士の接点は生まれてきましたが、Jリーグのトップレベルのプレーを生で観戦してもらう機会がありませんでした。そのためには、我々のトップチームがアジアに定期的に出向くための何かが必要でした」(大矢氏)

 ヨーロッパではリーグやクラブがアジアツアーを実施しているし、シーズン前にリーグ戦の王者とカップ戦の王者が戦うスーパーカップが、アジアの都市を選んで行われたケースもある。Jリーグとしてそうした領域に踏み出したわけだ。インターリーグカップのアイディアは、昨春タイリーグが新体制となったときにタイリーグの副CEOベンジャミン・タン氏と共有され、それ以降およそ半年をかけ共に育ててきた。

 最近のタイは、A代表選手チャナティップ・ソングラシンの北海道コンサドーレ札幌入り、U-19代表シティチョーク・ファソの鹿児島ユナイテッド入りが話題となった親交の深い国。Jリーグアジアチャレンジは、近年特に積極化しているJリーグとタイリーグの新たなコラボレーションといえる。

 アジアチャンピオンズリーグ(ACL)やクラブの国際親善試合とこの大会が異なる点は、Jリーグの主催だということ。Jリーグの役員とスタッフがタイに出向き、試合に関わるすべてをタイリーグと協力しながらJリーグの試合として完成させる。いわば「Jリーグパッケージを丸ごとタイで」というものだった。

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Jリーグの現在地を認識する悔しい結果にも収穫はあり

 大会にはJリーグからは鹿島アントラーズ、横浜F・マリノス、タイリーグからは、バンコク・ユナイテッド、スパンブリーFCの4クラブが参加。同国クラブ同士は対戦をしないリーグ対抗戦の形式で競われ、マリノスが2勝、アントラーズとバンコク・ユナイテッドが1勝ずつを挙げ、合計勝ち点9対3でJリーグの優勝となった。大会はタイ全土にテレビ中継された。

26日にJリーグ アジアチャレンジinタイ インターリーグカップの第2戦がラジャマンガラスタジアム行われ、横浜FMがスパンブリーFCに4-0で快勝。4試合で3勝を収めたJリーグが大会を制覇している。
4得点を奪った横浜FMが快勝 Jリーグが大会制覇!【サマリー:アジアチャレンジ】

 ACLプレーオフを控えたバンコク・ユナイテッドはハイパフォーマンスを見せ、スパンブリーFCも腕試しとばかりに失点してもテンションを落とさずに戦った。特に横浜FMとバンコク・ユナイテッドとの試合は、シーズン前の時期としては見応えのあるものとなった。しかし、大会全体の観客数が伸び悩み、この試合の3,542人が大会最多観客数となった。
「日本に移籍したタイ選手の報道がタイでも熱を持って伝えられている中で、期待を持って取り組みましたがJリーグの現在地を認識しました。結果を現実として捉え、目指すところが明確になったのは収穫です。ただ、正直にいうと大変悔しいです。」と、大矢氏は振り返る。

 集客に関しては、Jリーグのブランド力の問題だけではないだろう。両リーグのスケジュールの合致するわずかな期間の中で日程と会場を選定し、スポンサーを集めて集客をするのは、はっきりいって大変だ。出場チームが決定したのは11 月だったが、その時期のタイは絶大な信頼を集めたプミポン前国王の逝去に伴い、国民は1カ月以上も喪に服していて広告は自粛された。つまりは条件の問題だった。

 むしろ、東南アジアでの主催試合という初の試みを、文化も労働環境も異なる2つの組織が共同で作り上げたことをポジティブに評価したほうがいい。ピッチ上やピッチ外では、アジア戦略を体現する多くの価値を生み出した。

 タイの2チームは「クオリティの高いJリーグのチームに挑戦できる貴重な機会」と大会を歓迎し、タイリーグ側で尽力したベンジャミン・タン氏は、「Jリーグはアジアにとって最良のモデル。この大会はタイリーグのクラブに対して、日本の優れた運営能力、いわばJリーグ方式を細部に至るまで見せることができるショーケースです。クラブワールドカップのファイナリストであるアントラーズと戦えたことはタイのクラブにとって自信となったでしょうし、開催したことですでにいくつかの目標は達成したのです」とそのメリットを語った。

 そう、現時点では、Jリーグアジアチャレンジはタイ側のメリットのほうが大きい。だが、日本側もこの機会を貪欲に利用していくことで、相互に学びと利益を得ることができる。
「アジアで最強となったJリーグの哲学を知ることで、タイのみならず東南アジア全体の競争力が高まります。札幌へ移籍するチャナティップは、きっと彼自身のチャレンジに勝ってくれるはずですが、そうなれば多くの選手が後に続きますよ」(ベンジャミン氏)

 クラブとしてタイでの活動を深める横浜FMは、大会前のキャンプをJリーグクラブとしては初めてホアヒンの施設で過ごし、大会期間中は日本大使館公邸主催パーティー、タイリーグクラブとAFCが行うマーケティングワークショップへの出席、タイ向けの物販展開、大会終了後にはクラブ名冠の少年サッカー大会を実施した。
「横浜F・マリノスもまた新しいチャレンジをしてくれました。アジアチャレンジはJクラブにとって、シーズン前の過ごし方の新たな選択肢になると思います。Jリーグの認知も上がり、こういった経験を元にACLに勝つ、というサイクルを創っていきたい。我々としても、今回は日本であらゆる修羅場を経験している一線級のスタッフが来てくれて、異文化の中でも普段のオペレーションレベルを出し切ることができました。来年以降やるときには、ここに新たな人材を加えることも組織力強化の意味で必要かもしれない」(大矢氏)

 来季のフォーマットまだ決まっていないものの、Jリーグアジアチャレンジは2020年まで行われる予定だ。次はアジアのどこで、誰がチャレンジをするのだろうか。

長谷川雅治(アジアサッカー研究所)

著者プロフィール 長谷川雅治(アジアサッカー研究所)

JOC公式フォトエージェンシー、スポーツマーケティング専門プロダクションにて勤務。大手広告代理店とともに、モータースポーツとサッカーを中心とした様々な課題解決に取り組んだ。2007年からFリーグ(日本フットサルリーグ)の立ち上げに広報として参画し、広報戦略の立案・実施ほかプロモーショナルな視点から競技、クラブマネジメントの向上に従事。2014年よりフリーランスとなり東南アジアに活動拠点を移す。日本サッカー協会スポーツマネージャーライセンス保有。