そうなると、このところ世界での活躍が目立つゴルフでも金メダル獲得を期待したい。出場選手は男子が松山英樹と星野陸也、女子が畑岡奈紗と稲見萌寧だ。いずれの選手も活躍してほしいが、金メダルの期待が大きいのは「マスターズ」でメジャー初制覇を達成した男子の松山と、「全米女子オープン」で優勝争いを演じた女子の畑岡だろう。

日本人選手にはなじみが深いコース

ゴルフ競技は男子が7月29日(木)~8月1日(日)、女子が8月4日(水)~8月7日(土)に開催される。男女とも60人の選手が出場し、4日間72ホールストローク競技でメダルを争う。通常のゴルフトーナメントとは違い、予選落ちはない。

競技会場は霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県)。このコースは1971年から「日本ジュニアゴルフ選手権競技」の舞台となっており、ジュニア時代からゴルフをしている日本人選手にとってなじみが深いコースだ。

松山は高校3年時の2009年に「日本ジュニアゴルフ選手権競技」男子15歳~17歳の部で優勝している。また、2010年に「アジア・アマチュアゴルフ選手権競技」が開催された際も優勝し、翌2011年の「マスターズ」にアマチュアとして出場する権利を獲得した。そこでローアマチュアに輝き、10年後の2021年「マスターズ」で勝利を手にしたのは記憶に新しい。畑岡も高校1年時の2014年に「日本ジュニアゴルフ選手権競技」女子15歳~17歳の部で2位に入ったことがある。

ただし、東京オリンピックに合わせて大規模なコース改修が行われたため、現行のコースを試合でプレーした選手はいない。改修後のヤーデージは、男子が7447ヤード、女子が6648ヤードで、パー71となっている。

出場メンバー

ゴルフ競技は前回のリオデジャネイロオリンピックで1904年以来112年ぶりに実施された。プロゴルファーのほぼ全員がオリンピックを目指して競技を始めたわけではないので、戸惑う選手も多かった。ジカ熱の流行という健康上の不安もあって出場を見合わせる選手が続出。松山も出場権を持っていたが辞退した。

一方で、オリンピックという新たな目標ができたことで意欲を燃やした選手もいた。その選手たちがメダルを獲得した。

男子は金メダルがジャスティン・ローズ(英国)、銀メダルがヘンリク・ステンソン(スウェーデン)、銅メダルがマット・クーチャー(アメリカ)。ローズは2013年「全米オープン」覇者で、メジャー優勝経験者5人のうちの1人だった。

女子は金メダルが朴仁妃(韓国)、銀メダルがリディア・コ(ニュージーランド)、銅メダルがフォン・シャンシャン(中国)。朴もメジャー7勝を挙げており、金メダル候補の大本命だった。

今回の東京オリンピックに前回のメダリストたちは出場するのか。これが両極端で、男子は3人とも出場せず、女子は3人とも出場する。男子の3人は出場したくてもできなかったのである。

では、男子の出場メンバーは前回に比べて層が厚くなっているのか。答えはイエスだ。前回はメジャー優勝経験者が60人中5人だったが、今回は7人に増えた。

本当は8人の予定だったが、2021年「全米オープン」覇者のジョン・ラーム(スペイン)が新型コロナウイルスのPCR検査で陽性反応が出て欠場。代替選手としてホルヘ・カンピージョが出場することになった。ラームは6月のPGAツアー(米国男子ツアー)の試合でも大会期間中に陽性反応が出て棄権した。短期間で2度の災難に見舞われた。

また、2020年「全米オープン」覇者のブライソン・デシャンボー(アメリカ)も新型コロナウイルスに感染して欠場。代替選手としてパトリック・リードが出場する。

金メダル候補

大会直前に2人のメジャー覇者が欠場という波乱の様相となっているが、大会自体で波乱が起こるとは限らない。直近の「全英オープン」でメジャー2勝目を挙げたコリン・モリカワ(アメリカ)や、実績最上位のメジャー4勝を誇るロリー・マキロイ(アイルランド)といった強豪選手たちはしっかりと照準を合わせている。

松山もメジャー優勝経験者7人のうちの1人で、金メダルの有力候補であることは間違いない。自国開催のオリンピックで新たな勲章を狙う。7月上旬に新型コロナウイルスに感染し、「全英オープン」欠場を余儀なくされたのは誤算だったが、必ず見せ場を作ってくれるはずだ。

女子ゴルフは前回のメダリストが今回もメダル争いに加わる可能性は十分にあるが、金メダリストの朴仁妃は33歳、銅メダリストのフォン・シャンシャンも31歳と、女子ゴルフの世界ではベテランの域に達している。一方、銀メダリストのリディア・コは24歳で、4月の「ロッテ選手権」でも優勝しているだけに、金メダルを視野に入れているだろう。

だが、実は女子ゴルフのほうが2016年と比べて若手選手が多く台頭しており、メダル争いは混沌としている。6月の「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」でメジャー初制覇を果たし、世界ランキング1位に浮上したネリー・コルダ(アメリカ)や、世界ランキング2位でメジャー2勝のコ・ジンヨン(韓国)が初出場でのメダル獲得を狙っている。

日本のエースである畑岡も7月の「マラソンクラシック」でLPGAツアー(米国女子ツアー)4勝目を挙げ、調子は上向いている。「全米女子オープン」の敗戦をバネに、オリンピックで雪辱を果たしてほしい。

なお、「全米女子オープン」のプレーオフで畑岡を破った笹生優花はフィリピン代表で出場。笹生も金メダル候補の1人であるので、日本勢のメダルに注目だ。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。