30周年を記念してクラブの歴史あるエンブレムを刷新

 ガンバ大阪の代表取締役を務める小野忠史氏は、今回のクラブ創設30周年におけるブランディングに際し、「これまでの30年の歴史を胸に刻みながら、新たなクラブの歴史を作るべく、その一歩を踏み出すことを決意した」とコメントしている。クラブコンセプトのゴール達成のためのテーマには「青い炎となり、熱狂を生み出し、中心となる。」を掲げている。そして、新エンブレムは炎、ハート、ゴールの3つの要素によってガンバの「G」を造形しており、中心からハートの形状を描くブルーのラインは、心の中で燃え続ける熱い情熱によって、ファン・サポーター、地域、日本のスポーツ文化の中心となる意志、まさしく“日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランド”を表している。

 そして、同クラブが開設したクラブコンセプトの特設サイトでは、「サッカーのフィールドに留まらず、新たな体験を創出する」ことが共通の価値観として記されており、エンブレムとあわせて刷新されたロゴについては、新エンブレムのエッセンスを取り入れたシンプルでありながらも意志の強さを表す現代的なデザインとなっている。クラブ関係者によると、今後はサッカーの枠に留まることなく、アパレルやファッションなど、人々の生活に寄り添えるアイテムも充実させ、さらにクラブとしてのブランドを高めていくことを目指している。

ネット上ではポジティブな反応とネガティブな反応が入り混じる形に

 今回ガンバ大阪が発表した新エンブレムには同クラブのサポーターはもちろん、他クラブのサポーターからも様々な声が挙がっている。「アパレルに合いそう」「かっこいい」といったポジティブな意見もある中で、「前のほうが良かった」「なぜこのタイミングで発表したのか」というネガティブな声も挙がっている。それには、少なからず現在のリーグ順位が下位に沈み、結果が出ていないことも影響しているだろう。しかし、クラブ関係者もそこは覚悟の上での判断だったはずである。

 Jリーグクラブに限らず、エンブレムやロゴの変更は一般企業や団体でも行われているが、これまで築いてきたものを変更することについては、多かれ少なかれよく思わない人は一定数出てくるのは当たり前のことである。そんな状況下でも、30周年という節目のタイミングにエンブレム刷新に踏み切ったことは、ブランディングやその他30周年記念プロジェクトを成功させるというクラブの強い意思表示であり、ファン・サポーターへのメッセージとなることは間違いないだろう。

海外のビッグクラブがブランディングに取り組んだ例も

 ガンバ大阪が取り組んでいるブランディングだが、これまでに国内外の多くのクラブも同様な取り組みを行ってきた。イタリアが世界に誇るビッグクラブであるユヴェントスは、2017年にこれまで長く使用してきた伝統あるエンブレムを変更した。これには世界中のサッカーファンから驚きの声が多く挙がった。

 同クラブのブランディング戦略を担当した日本法人の株式会社インターブランドジャパンが公開したプレスリリースでは、その理由の一部が明かされている。ユヴェントスは既存のファン・サポーターに加え、これまであまりサッカーに馴染みのなかった人々をも巻き込み、新たなマーケットやコミュニティを拡大し、クラブ、ブランド、ビジネスにおいて好循環を生み出すことが目的だという。インターブランド ミラノのエグゼクティブ・ディレクター、リディ・グリマルディ氏の言葉を借りると、まさにそれこそが「ユニバーサルな価値」と言えるだろう。そして、クラブのイニシャルである「J」を使用したシンプルなロゴにすることで、即座にクラブを想起させる狙いがあるという。そして、同クラブのオフィシャルショップではクラブのユニフォームだけでなく、ロゴ入りのパーカーやリュックサック、帽子、水筒、傘といった人々の生活により身近な商品が販売されている。

 一方、Jリーグクラブでは東京ヴェルディが、2019年にクラブ創設50周年を記念してブランディングを実施し、エンブレムとロゴを刷新している。ブランドアイデンティティを刷新し、スポーツ人口拡大に向けてサッカー以外のあらゆるスポーツチームを複数保有する『総合型スポーツクラブ』へと変革を遂げている。そして、同クラブのイニシャルである「V」をイメージさせる新たなロゴの入ったパーカーやスウェットなどのアパレル商品を公式オンラインストアで販売している。この他、2020シーズンのユニフォームに掲出されるスポンサー企業のロゴをブランドカラーであるゴールドに統一するなどが評価され、2020年度のグッドデザイン賞を受賞した。

 このように国内外でブランディングに取り組むクラブも徐々に増えてきている現状がある。

社会人向けのビジネスアカデミーを開講し、スポーツ界の人材育成にも取り組む

 ロゴやエンブレムの刷新といったブランディングに取り組むクラブは多いが、ガンバ大阪はサッカー業界への転職やスポーツビジネスに携わりたいと考えているビジネスパーソンを対象とした社会人向けのアカデミー、「ガンバ大阪サッカービジネスアカデミー」を2021年1月に開講している。同アカデミーはクラブが1993年にオリジナル10としてJリーグに参入して以来、30年間で培ったノウハウと日本を代表するサッカー専用スタジアム「パナソニックスタジアム吹田」を活用した、スポーツ界の将来を担うビジネス人材の育成を目的としている。

 このビジネスアカデミーはオンライン座学とサッカーの現場を実際に体験する「体験活動」の両方を活用し、サッカーの価値を高める人材の育成など5つの方針によって運営されているようだ。講師陣は元日本代表でクラブOBの播戸竜二氏やスポーツコンサルタントの杉原海太氏、元Jリーグ理事の米田恵美氏など豪華な顔ぶれとなっている。

 今回のブランディングでは特命広報大使に加地氏や前園氏を招き、サッカービジネスアカデミーも播戸氏といった豪華な講師陣を招いていることからも、オンザピッチだけでなく、オフザピッチにおいてもより一層クラブを発展させたいという強い覚悟がうかがえる。こういった決意のもと行われている今回のブランディング。チームが目指す魅力的な攻撃サッカーと同様、クラブ創設30周年という節目の年に次々と仕掛け続けるプロモーション戦略に期待を膨らませながら、変革期における今後の発展に注目していきたい。

修学旅行や遠足、いずれはプロレスや将棋のタイトル戦まで?! 無限の可能性を秘めた「パナソニックスタジアム吹田」

2015年9月30日に吹田市立サッカースタジアム(現 パナソニックスタジアム吹田、以下パナスタ)が竣工して6年。試合の臨場感を日本一感じることができるサッカー専用スタジアムとして、リーグ戦だけでなく代表戦でも活用されるようになり、ガンバ大阪がクラブ創設30周年を迎える中、その価値がより高まってきた。一方で、オンザピッチ以外の収益、いわゆるノンフットボールビジネスにフォーカスされることはあまりなかった。

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クラブの頭文字である「G」を造形したシンプルなエンブレム(ガンバ大阪HPより引用)

辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。