多くのファン・サポーターの前でプレーし、ファンサービスに応え、選手によっては高い年俸を受け取っているプロサッカー選手。そんなプロサッカー選手の税金事情はどのようになっているのだろうか。細部を紐解いてみると、そこには様々な税金対策がされていた。複数の事例をもとにプロサッカー選手の税金事情に触れていく。

日本でプレーするプロサッカー選手は個人事業主

 まず、前提として日本でプレーするプロサッカー選手は個人事業主の扱いとなる。つまり、クラブの従業員という扱いではなく、業務委託契約でそのクラブの業務の一部を請け負う契約になる。そのため、会社員のように社会保険に加入することはできず、国民健康保険に自ら加入する必要がある。そして、1年間分の確定申告を自ら行う必要がある。なお、Jリーガーの給与は年俸(基本給)を12分割した額が毎月振り込まれる仕組みとなっており、ベンチ入りして試合に出場することで発生する出場給や、試合に勝利することで受け取れる勝利給が存在する。

累進課税により、年俸が上がるにつれて支払う税金が増える

 プロサッカー選手は個人事業主であり、基本給の他に出場給や勝利給があるが、支払う税金はどのような仕組みになっているのだろうか。まず、Jリーガーの場合、納める税金は所得税、住民税(約10%)、国民健康保険税(約12%、上限あり)となっており、これに毎月の所得から引かれる源泉徴収税がある。源泉徴収税については、給料が月に100万以下の場合、約10%、それ以上の場合は約20%となる。税金には所得計算期間(毎年1月1日~12月31日)があり、所得税や源泉徴収税はこの期間中に適用されることになる。この所得計算期間の税金の申告を3月15日までに行うことになる。しかし、住民税や国民健康保険税は、これらの税金のうち後払いとなっており、翌年の所得計算期間に支払う必要がある。また、所得税は日本の累進課税制度により、年俸が高くなればなるほど、納める税金の額が増える仕組みとなっている。

 J1選手の平均年俸は3200万円前後と言われているが、累進課税制度では年収1800万円以上、4000万円以下の場合に適用される所得税率は40%となっている。そして、年収が4000万円を超えると所得税率が45%となり、最大の課税率が適用される。ここから所得税控除やトレーナーなどに支払う経費を差し引いて、納税額を計算することになるという。控除や経費で減額はされるものの、最終的には所得税額や住民税、国民健康保険税などで年俸の半分近くは税金として国や自治体に納めることとなる。

海外でプレーする日本人選手の税金事情とは?所得税無しの国も

 では、海外でプレーする日本人選手の税金はどのような仕組みになっているのだろうか。水戸ホーリーホックでJリーグデビューし、サンフレッチェ広島を経由して現在UAEの強豪アルアインでプレーする塩谷司が、元チームメイトの李忠成のYouTubeチャンネルでUAEの税金事情について語っていた。塩谷によると、UAEは所得税非課税のため、年俸から選手会費として1、2%ほどが引かれる程度であるという。つまり、日本に比べて納める税金は遙かに少なく、稼いだ年俸の多くを手にすることができる。

 また、日本代表の板倉滉(FCフローニンゲン)や中山雄太(PECズヴォレ)がプレーするオランダのエールディヴィジでは、外国人労働者は一定期間について、収入の30%を免税する「30%ルーリング」という制度が存在するようだ。このルールの適用には、過去2年間において、オランダの国境から150km以内で16ヶ月以上就労していないことや、特別な専門技術を有していることが条件になるという。そのため、ドイツのブンデスリーガなどから移籍する際などには適用外となるケースもあるとのこと。そして、「30%ルーリング」が適用できるのは5年間までという決まりもある。

 なお、日本のプロサッカー選手は個人事業主として業務委託の契約を結んでいるが、欧州ではプロサッカー選手も労働者として扱われることが一般的のようだ。なお、海外のプロサッカークラブでは、本来は選手が支払う税金もクラブが負担することが多いといわれている。

手取りを確保するために行われる様々な税金対策

 国によって多少の違いはあるものの、収入が多くなればなるほどそれに応じて支払う税金も増えていくプロサッカー選手達。多くの選手達が少しでも多く手取りを確保するため、様々な方法で税金対策を行っている。

 Jリーグではブラジル人選手を中心に多くの外国人選手がプレーしているが、とある関係者によると、Jリーグの外国人選手は税金対策のため、1年契約の場合でも12ヶ月ではなく、11ヶ月間の契約を結んでいるケースが大半のようだ。11ヶ月の契約の場合、1年以上継続して日本に住居している扱いにならないため、日本に税金を納める必要が無くなり、選手はそれぞれの住居国に税金を納めることになるという。もし仮に12ヶ月以上の契約を結んだ場合は、継続して1年以上日本に住居している扱いになるため、日本に納税する義務が発生し、年俸の半分近くを税金として支払う必要もある。そうなると、選手にとっては日本のチームと契約を結び、そのクラブでプレーする際のデメリットとなるため、それを避けるためにこうした対策が行われているという。また、年俸が高く、収入の多い選手達は確定申告などの税金関連の手続きを自分で行うのは困難なため、クラブや選手個人と契約を結ぶ税理士に税金の管理を任せていることが多く、税金面で多くのサポートを受けている。

 また、選手本人やその親族がマネジメント会社や個人事務所を立ち上げ、節税するケースも見られる。選手本人や親族がマネジメント会社を設立することで、個人の所得税率ではなく、法人税率を適用することができ、経費として計上できる範囲も広がるため、節税することにつながる。個人の所得税は、累進課税により最大45%だが、法人の所得に関わる税率は最大でも約30%程度となる。そのため、年俸が高くなればなるほど、法人を設立したほうが節税できる可能性が高くなる。仕組みとしては、クラブから年俸を受け取る際に選手個人の口座ではなく、マネジメント会社や個人事務所の口座に入金してもらうことで、法人としての売上として計上するというものである。しかし、個人口座にしか入金を認めないケースもあるため、その場合は一度個人口座に入金された年俸の中からスケジュール管理などの名目で委託料として設立した法人に支払うことで、経費として計上することができる。この場合、設立した会社と選手間で業務委託契約を結ぶ必要性が出てくる。しかし、節税目的のためだけに会社を設立し、事業の実態がないと判断された場合、税務調査に引っかかる可能性が高くなるという問題が発生する。一概には言えないが、それを避けるためテレビやCMといったメディアへの出演や個人スポンサーの契約、セミナーやサッカー教室開催時の講師といった仕事を法人経由で受けることで、業務の実態があるとみなされ、税務調査の対象から外れることができる。また、税金面以外にもマネジメント会社を設立し、自身が社長に就任することで、会社から退職金を受け取ることができるため、引退後に備えることができるというメリットも発生する。

 平均引退年齢が20代半ばでいつ戦力外通告をされるかわからず、引退後の保証もないプロサッカー選手にとっては、現役のうちから多くのお金を稼ぎ、少しでもお金が残っている状態で引退することも一つのモデルケースとなるだろう。


辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。