難関のパー3でガッツポーズ

 プレーがひときわクローズアップされたのが、昨年2021年12月5日に開催されたツアー最終戦、日本シリーズJTカップの最終日だった。上位争いを演じて迎えたパー3の18番。マスターズの出場権を手中に収める鮮やかなバーディーを奪ったのだ。この最終ホールは東京よみうりCCの名物。グリーンが手前に向かって極端な下り傾斜になっており、ピンの上につけてしまうと、強く打ち過ぎて再び手前の花道にこぼれ落ちる恐れもあるほどの難度の高さだ。

 金谷はティーショットで傾斜を利用し、ピンまで1メートルに乗せた。緊張する場面でしっかりとバーディーパットを沈めガッツポーズ。これによって3位となり、試合後に発表された世界ランキングは54位から49位に浮上した。マスターズの出場資格は年内最後の世界ランキングで50位以内であれば得られる。金谷は圏内をキープし、12月26日付で50位となり、見事に出場権をゲットした。

 最終戦の最終日最終ホールでの劇的バーディー。本人は世界ランキングが上がったことに、次のように感想を口にした。「大会前、3位までに(入れば)というのはちらっと。最後の1打がすごく効いているのかなと思います。最後まで諦めないプレーを続けられました」。明確にマスターズを意識しての1打だった。

非凡さ

 実はその前週では短いパットに苦しんでいた。カシオ・ワールドオープン最終日。トップと3打差でスタートすると、1メートル前後のバーディーチャンスをいくつか外し、4位に終わった。ラウンド後は「しゃべれないんで…。すみません」と涙ぐんだ。その悔しさをぶつけた翌週に、勝負どころでパットをねじ込んだ辺りに非凡さが表れていた。

 もともとアマチュア時代から名をとどろかせていた。広島県出身で広島国際学院高2年だった2015年に、史上最年少の17歳で日本アマチュア選手権を制覇。大学は強豪の東北福祉大。2021年にマスターズを制し、日本男子選手として初のメジャー制覇を果たした松山英樹の後輩に当たる。2019年に国内プロツアーの三井住友VISA太平洋マスターズで史上4人目のアマチュア優勝。翌年にはアマ世界一に贈られる「マコーマックメダル」を日本人で初めて手にし、同年10月にプロ転向した。

 172センチ、75キロの体格でバランスよくレベルアップしている。統合された2020~21年シーズンで2勝し、平均パット数は1・7361でツアー2位。いきなり約1億2千万円を稼いで賞金ランキングも2位に食い込むなど、ルーキーの枠を超越した活躍ぶりだった。

球聖が説く極意

 パットの大切さは昔から伝承されてきた。マスターズ・トーナメントの創設者の1人で、”球聖”とたたえられるボビー・ジョーンズ(米国)も生前にグリーン上の極意について考察していたが、長年言われ続けている一般的な勘どころとはひと味異なる。

 「ネバーアップ、ネバーイン」という言葉がある。ボールがカップに届かなければ絶対に入ることはないことを意味し、弱気にショートすることを戒め、勇気を持ってしっかりと打つことを促している。しかしジョーンズの考えは違った。自叙伝「ダウン・ザ・フェアウエー」で、試行錯誤の末に達した結論をこう記している。

「カップにやっと届くぐらいのボールを打つことだ」

 ジョーンズは、そのくらいの加減で放つことで、カップの縁に触れさえすればボールはたいてい穴に落ちると説明した。強めのパットだと、入り口は前方の一つしかないが、ジャストタッチだとカップの前後左右を使えてホールインする確率が上がるとの考え方だ。その上で「有名な”ネバーアップ、ネバーイン”という古来の金言が、あまりにもしばしば、ホールに向かってボールを強く打ちすぎることのエクスキューズに使われているように思えてならない」とも指摘した。

 生涯アマチュアを貫いたジョーンズは上記の思考で開眼。1930年に当時の四大大会である全英アマチュア選手権、全英オープン、全米オープン、全米アマチュア選手権を全て制し、並み居るプロをも抑えて「年間グランドスラム」を史上初めて達成。その年、28歳で競技からの引退を表明した。人格面でも秀でて「限りなく理想に近い米国人」と呼ばれた伝説的名選手は異次元の感覚でプレーしていた。

ゼロラインとガラスのグリーン

 金谷の強さはアマチュア時代に選ばれた日本ゴルフ協会(JGA)のナショナルチームでも磨かれた。さまざまな海外遠征で国際舞台を踏み、世界を意識してのプレーが身に着いた。ナショナルチームではパットに関連し、いかに簡単なラインにつけるかを追求する戦略を導入している。例えば、1メートルの難しいラインに乗せるより、3メートルの真っすぐのラインを残すことが求められる。この真っすぐのラインは「ゼロライン」と呼ばれ、ここにつけることから逆算してショットを組み立てていくという。

 女子で躍進した古江彩佳や西村優菜らを含め、ナショナルチーム出身者はことさら、ツアーでよくグリーンの情報などをメモ書きしている姿が見受けられる。データをしっかりと把握することはアマチュア時代からの習慣だろう。そのことを考慮すると、金谷が奪った日本シリーズでの最後のバーディーは、ショットの狙いどころを含め、これまで積み重ねた努力が凝縮されていた。

 2022年のマスターズは4月7日開幕で、松山に大会2連覇が懸かることでも注目が集まる。金谷はアマチュアの資格で初出場した2019年大会は58位だった、次はプロでもまれているだけに楽しみが膨らむ。舞台となる米ジョージア州のオーガスタ・ナショナルGCは、ガラスに形容される高速グリーンが代名詞。ジョーンズの息づかいが残るコースでいかに難グリーンに立ち向って世界の強豪と戦うのか。東京よみうりでの1メートルがもたらしたものはマネーだけではない。手に入れた未来は無限に広がっている。 


高村収

1973年生まれ、山口県出身。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事