リングだけでなく日常生活もエンタメ体質「誰かに喜んでもらえれば、それはムダなことじゃない」

―プロレスラーとして生きるオカダ選手ですが、奥さんや母親に度々サプライズを用意したり、私生活においてもエンタテインメント体質であると書かれていましたね。

 そうですね、人を楽しませるのが最近は好きになってきて、それがプロレスにも繋がっているのかなと思います。“東京ドームだったら、どういう演出をしたらお客さんは喜んでくれるのかな”ということを考えてやったりはします。日常生活でも他の選手を驚かせようと思ってヘビのおもちゃを買ったり、アメリカに行ったらアメリカ国旗のTシャツを買ったりしていました(笑)。“人を喜ばせたい”って思うと、ついそういうのを買っちゃうんですよね。誰かに喜んでもらうことができれば、それはムダなことじゃないと思いますし。

―プロレスと実生活での発想が地続きで繋がっているのですね。

「SNSは情報を出して、あとはもう見てくれる人が楽しんでくれればいい」

―SNSとの関わりについて、スマホに15分のリミッターをかけ時間制限を設けているという箇所も印象的でした。

 SNSってやっぱりネガティブなことも書いてあったりしますし、今は情報を自分で取捨選択できますから、ネガティブになるものを自分から求めに行くのも変な話だなって。だから自分が欲しくて楽しい、ハッピーになれるものばかりを取っていこうと思ったんです。SNSもずっと見ているのは時間の無駄ですし、もちろんハッピーになれることもあるんですけど、やっぱりハッピーなことよりネガティブなことの方が後に残るじゃないですか。嬉しいことがたくさんあっても、ネガティブなこと1つでドーンとなるのであれば必要ないし、付き合い方も考えていかなきゃいけないなって。その中で僕はSNSは情報を出して、あとはもう見てくれる人が楽しんでくれればいいかなっていう風に考えが変わってきました。

―ご自身の生活でも断捨離を行ったり、「シンプルライフ」といった言葉も出版記念トークセッションでは聞かれました。不必要なものは削る、そもそも手にしないようにされているのでしょうか。

 そうですね、やっぱり時間も……たとえばインスタグラムに写真を上げても、どんなことが書かれてるのかなとか、5分後にもまた見たりするじゃないですか。そうすると時間もすごく掛かってしまうなって。だから僕、最近はエレベーターを待つのも“時間がもったいないな”って思って嫌になってきたんです。時間をすごく大事にしたいなって。だからSNSをやるより本を読んだり、試合の研究をしたり、携帯って今は本当に何でもできるので、そういうことに使った方がいいかなと思いました。

日記を書き見直すことで「本当にいろんな人に支えられているのを感じる」

―日記をつけていることも明かされていて、試合の豪快さとは異なる繊細な印象を受けました。

 iPadに書いていて、つけ始めたのは今年(2021年※)です。ラジオで話すために、なにがあったかを書くことから始めたんですけど、そこからいろいろ思うようになりました。“この人に良くしてもらってありがとうございます”“どこどこにご飯に連れて行ってもらってありがとうございます”みたいなことを書いていたんですけど、そういうのを色分けして、パッと見られるようにして書いている感じです(※感謝は黄色、自分の課題は赤、反省と悲しい出来事は青、といったように色分けして書いている)。
※本インタビューは2021年12月に実施。

―書くだけでなく見直しもされるのですか?

 そうですね、月末になったら“こんなことがあったな”“そうだった、この人にすごくよくしてもらったな”とか、そういったことを見返すことで思い出します。全部見る訳ではないですけど、その時に色分けしてあると“あぁ、こんなことがあったな”って思い出せるし、そこからいろいろ繋がって思い出したりもするので、日記はやっぱり書いていてよかったなって思います。

―“自分の心を見つめる”、みたいなところがあるのでしょうか。

 ありますね。本当にいろんな人に支えられていると感じます。1人で1日何かしたってことは絶対ないんですよね。絶対に妻がいて、誰かに会ってこういうことがあって、っていう風に書いてあるので、そういう意味で書いていてよかったと思いますし、いまだにずっと書いています。

―オカダ選手にとって、自己を振り返り、自分と対話するよい機会になっているのですね。SNSやラジオでも話題となる釣りについてですが、オカダ選手にとって無心になったり没頭できる、そういったものである時間なのでしょうか。

 緊急事態宣言でなかなか行けなかったんですけど、やっぱり釣りは好きです。釣りとプロレスは全く違いますけど(笑)、やっている時はもう釣りのことしか考えません。景色の綺麗なところで釣りをして、すごく気分転換になりますし、ボートに乗って足で踏んで操船するんですけど、それで膝を痛めたり、ずっと立っていて腰を痛めたりもしますけど(笑)、それも気にならないぐらい釣りは好きですね。

―そうやってオカダ選手のように普段の自分から離れられるものを持つのも大切だと思います。

「恋愛みたいに思って、自分の好きなものを見つけてもらえば」

自身の経験を通し、「恋愛みたいに思って、自分の好きなものを見つけてもらえば」と語った

―本書を読まれる方々へメッセージをお願いします。

 “自分のやりたいことを見つけられない”っていう人の方が多いと思うんです。僕はそれがたまたま早く見つかっただけで、すごくラッキーでした。もしやりたいことが見つかっているならそれに向かっていくしかないですし、好きなことってもう、向かっていかずにいられないものだと思うんです。だからそうでないなら、逆にそれは好きなことじゃないと思います。そういう気持ちが大事だと思いますけど、だからといって焦って好きなことを見つける必要はないと思います。やっているうちに、そのことを好きになることもあると思うんです。女の子でも“全然興味なかったのに一緒にいるから好きになっちゃった”とか、そういうことがあると思います。だから好きになるものは絶対見つかると思うから焦らず、それに向けて人生を楽しんでもらえればと思います。

―本当に好きになれば、スイッチが入ってもう抑えられないと言いますか。

 だから恋愛みたいなものですよね。恋もそうじゃないですか。好きだったら何かしなきゃ、カッコよくならなきゃとか思いますし。それで仕事もそうですけど、例えばプロ野球選手になりたいと思ってもみんながみんななれる訳ではないし、好きだからといって結婚できる訳でもない。結婚してみたら違った、好きな仕事に就けたけどちょっと違ったっていうこともあると思います。だからそうやって恋愛みたいに思って、自分の好きなものを見つけてもらえばいいのかなと思います。

―いいと思ってもなってみたら違ったり、逆にやっていくうちによくなったり、自分で思ってもいない結果になることがありますね。

 ほんといろいろあって分からないですけど、でもそのための準備はしっかりしておかないといけないと思います。僕は15歳でプロレスに出会えて、練習もキツいし大変でしたけど、今でもやっぱり好きですし、幸せだと思います。

―読者のみなさんがオカダ選手にとってのプロレス的存在と出会えるといいですよね。そのためには焦らず根気強く、出会いが来るまで頑張ると。

 そうですね、だから恋愛です(笑)。


長谷川亮

1977年、東京都生まれ。雑誌編集部を経て2005年春からフリーに。主に格闘技を執筆し、編著に『バーリ・トゥード ノゲイラ最強への道―DVD最強テクニック伝授ノゲイラになる! 』(東京漫画社)、『わが青春のマジックミラー号 AVに革命を起こした男』(イースト・プレス)。ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017年)、『沖縄工芸パラダイス』(2019年)の監督も務める。