「負ける原因は脚力ではなく考え方」劇的な意識改革のきっかけ

プロの競輪選手になってから、大きく3回の転機がありました。レースごとに反省して日々考えてきましたが、劇的に意識を変えさせられた出来事はこれまでに3回あります。いずれも大きな意識改革で、それがなければ今の僕はいないでしょう。
その最初の出来事はA級時代の頃で、それをきっかけにしてプロ競輪選手としての自覚が芽生えたと言っても過言ではありません。プロになりたてだった頃は、ただレースに参加してお金を稼いでいるだけでした。振り返ると、あの頃は何も考えずに練習して、無策でレースに出場していたように思えます。
そうやってなんとなくプロの生活に慣れていったとき、同じ広島県出身の先輩だった大久保義郎さん(2012年に引退)に、「お前の脚力があれば、S級1班になれる」と、声をかけられたのです。その出来事をきっかけにして、レースで勝つことを強く意識するようになりました。レースで勝つためには何が足りないのか、そして何が必要なのかを考え始める転機になった出来事でした。
先輩にそう言われたとき、負ける原因は考え方に起因すると気づかされたのです。もちろん、この頃は脚力などフィジカル面でも不足していたのですが、今にして思うとその頃は何が敗因かすらわかっていなかったように思います。それからは、本を読むようになりました。極端に言えば、これまでは漫画しか手にしたことがないような人間だったのですが、考え方を変えようと思い、自己啓発の本などを買ったのです。そして、レース開催中の宿舎でそういった本を読むようになりました。それから3、4年の間に100冊以上は読んだと思います。イチローさんをはじめとするプロ野球選手などの自伝、オリンピックに出場した選手の名言集といったように、プロアスリートが参考にしやすい本もあれば、大企業の社長が著者の本なども読み、考え方を吸収していきました。変わり種では、孫子の兵法について書かれた本も読みましたね。
その影響を受けて、自分に必要なものは何か、足りないものは何かを考えていくようになりました。これまで負けていたレースを、勝てるようにしなければならなかったので、まず敗因が何かを分析しました。その分析を突き詰めて、必要なものや不足しているものを見出していったのです。その頃の僕は位置取りにもこだわらなくて、前受けから引いていけるかどうかといった選手でした。ですが、それからはレースの組み立てを考えるようになり、「後ろから行ったらどうなるだろう」などさまざまことを想定するように変化しました。そして、作戦を考えてそれに応じた練習をするようになったのです。
今にして思うと、プロとしては当たり前のことなのですが、当時の僕にとっては大きな変革でした。この変革をもって、精神的にようやくプロになったと言えるでしょう。

「他人のせいにしない」技術向上をもたらす自己分析法

僕は読書をきっかけに、自己分析することを覚えました。ただ、本を読んだからといって、身につけた知識を実践していくのは難しいと感じています。多くの人は、嫌なことがあったときの原因を、誰か他人のせいにしがちです。実際に僕もそうでしたし、今でも時々そういう考え方をしてしまうことがあります。当時は、「相手が思い通りに動いてくれなかったからだ」といったような敗因の見出し方をしていました。
ですが、そういった考え方を一切排除するようにしたのです。そして、「他人のせいにしない」と強く決意をしました。この境地に達するまでが、本当に困難でしたね。
「あれだけ練習してきたのに、なぜ勝てないのか」という思いだったのが、「自分が弱いから負けたんだ」と考えるようになり、「弱いということは何かが不足しているからだろう」と細かく分析するようになっていきました。その後は、負けたレースを振り返るとき、自分に何ができたかを考えるようにしています。「あのときにこうしていれば良かったな」とか、「ああしていればどうなっただろうか」と、あれこれとレースをシミュレーションするようになりました。僕の場合は、そういった脳内の疑似体験で自己分析を行っています。その積み重ねのおかげで、今ではレースをしっかりとイメージできるようになり、鮮明にシミュレーションできるようになりました。
人はそれを経験と言うのでしょうが、数をこなしただけで正確にシミュレーションできるものではありません。やはり、「他人のせいにしない」ことが大事で、他人のせいにすると分析は正確ではなくなります。自己分析というからには、やはり原因を自分に求めないといけないですよね。

松浦悠士(まつうら・ゆうじ)
1990年11月21日生まれ(30歳)、広島県出身。98期生として日本競輪学校(現:日本競輪選手養成所)を卒業し、2010年7月に熊本競輪場でデビュー。G1タイトルは2019年11月小倉競輪祭、2020年8月オールスター競輪、そして今年5月には日本選手権競輪を制して「ダービー王」の称号を手にしている。S級S班は今年2年目で、現在の獲得賞金ランキングでは首位を独走。株式会社チャリ・ロトとは 2017年7月よりスポンサー契約を結ぶ。

(協力)チャリロト パーフェクタナビ編集部
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VictorySportsNews編集部