「観戦料を支払っても見たいと思ってもらえるような競技に」

 現在の競輪界は年々売上も伸びていて、成功していると言えるでしょう。ただ、それはインターネット投票を取り入れたことなどによるギャンブル面での成功と感じています。個人の思いとしては、もっとスポーツ要素で成功を収めたいと望んでいます。メジャー競技と言われる野球やサッカーと同様に、観戦料を支払っても見たいと思ってもらえるような競技にしたいですね。現状の競輪は、やはりギャンブル要素を楽しみに来ている人が多いと思います。公営競技である以上悪いことではないですが、競技自体がもっと幅広い層の人たちに楽しんでもらえるようになるのが理想です。
たとえば野球やサッカーの場合は、応援しているチームが負けても内容が良ければ、拍手喝采で称賛してもらえることがあると思います。もちろん競輪の場合でも、勝ち負けに関係なく応援してくれる人はいます。ですが、大半の観客は車券を購入していているので勝利という結果だけを求めた応援になりがちのような気がしています。それは公営競技として当たり前のことなのですが、競技自体の面白味が広く浸透すると応援にも変化が見られるかもしれません。
 だからといって、負けても応援してほしいと言っているわけではありません。選手としては、いかなるときも勝利を目指さなければなりません。それはどの競技においても、選手はそうあるべきです。加えて、競輪では観客の大半がお金を賭けています。そういった観客ひとりひとりの思いを背負って走らなければなりません。格好をつけた言い方になりますが、我々競輪選手はお客さんと一緒に走っているようなものなのです。こういった心境になり競技に意気込むことができるのは、公営競技ならではだと思うので大切にしなければならない部分だと感じています。それでも毎回1着になれるわけではないので、負けてもお客さんに納得してもらえるような内容のレースをすることを重要視して臨んでいますね。

競輪の競技環境

 競輪を他競技と比較して羨望することはあまりありませんが、競輪を始めてチーム競技の良さを改めて感じることができました。高校生まで野球をやっていましたが、自分自身がダメでもチームが勝てばいいという思いがありました。野球では自分自身の調子がイマイチだったとしても、チームのみんなが助けてくれることがあります。もちろん、その逆で自分がチームの誰かを助けて勝利するということもあります。競輪でも複数の選手とラインを組むチーム戦のような状況にもなりますが、結局は誰もが1着を狙っていて野球のようなチームワークとは異なります。ですので、野球のように仲間と助け合えるチームスポーツの良さを改めて感じるようになりました。
 上述のように競技面で他競技をうらやむようなことはそれほどありませんが、環境面では多少感じることがあります。他競技の選手から直接聞いたり、人を介したうわさレベルの話もあったりしますが、野球やサッカーなどのプロスポーツは競技に集中しやすい環境が整っているなあと思います。もちろんすべてのチームではなく限られた一部のチームの話で、一概には言い切れませんが、専属のドクターやトレーナーがいたり管理栄養士などがいたりと、体の管理をチームが主導で行ってくれます。競輪の場合は、すべての管理が個々に任されています。トレーナーが必要だと感じた場合は、自分で雇わなければなりません。師匠はいてもコーチがいるわけではありませんので、練習メニューに関しても同様で自分に合ったメニューを自分自身で考えなければなりません。さらに、練習場所も個人で確保しなければなりません。何から何まで自分で考えてすべて個人で準備しなければならず、競技のことのみに集中しづらいと感じることもあります。自分で好き勝手できるという意味では良いのかもしれませんが、やはりさまざまなことを考えなければならないので他を省いて一点集中で100パーセントをひとつのレースに懸けるというのは難しい環境です。だからといって負けていいわけではないので、レースには常に全力で挑んでいます。全力ではありますが他競技の環境を知ると、もっとレースに集中して力を注げるかもしれないと、うらやむときがありますね。

「負けても観客に納得してもらえるような選手でありたい」

 他競技と比較することで改めて競輪の魅力を感じることがあります。競輪は短い時間のなかで、さまざまな仕掛けや展開があります。そして、最後の最後まで本当に誰が勝つかわかりません。やっている選手ですらわからないので、最後まで勝負を投げることはありません。だから、短い時間にもかかわらず必ずと言っていいほどドラマがあります。このように短い時間でもドラマ性のある競技は少ないのではないでしょうか。展開が速すぎて、そこまで感じられないという人もいるかもしれません。ですが、わかりやすい部分で説明すると、選手自身もゴールしても着順がわからない場合があり、それだけで奇跡的な出来事だと思います。短い時間のなかで選手各々が全力を尽くしてもほとんど差ができない、ましてや同着なんてときもあります。他のレース競技では確率的にそれほどないことも、競輪ではよくあることなのです。本当に誰がどうやって勝つかわからない。それが競輪の魅力だと思います。
 だからこそ、選手はあきらめるような姿勢を見せてはいけないと思っています。野球やサッカーなど得点を奪い合うスポーツの場合は、試合が終わる前にスコア差でその試合をあきらめるようなことがあるのではないかなあと思います。競輪の場合はレースの中盤に大差をつけられていたとしても、最後にアクシデントがあり着順が変わる可能性も考えられます。また、先に述べたようにお客さんの財布を握ってレースをしているようなものなので、簡単に負けるわけにはいきません。競輪選手の誰もがそう感じながらレースをしていると思うので、最後までどうなるのかわからないのかもしれませんね。
 個人的には、最後まであきらめないレースをしてそういった姿を見てもらって、これだけ全力を尽くしても勝てなかったのだからこのレースは仕方ないかと、負けても観客に納得してもらえるような選手でありたいと思っています。

競輪は「メジャースポーツにも負けないくらい稼げる」競技

 それと、金銭面で言えば他競技より上回っているでしょう。もちろん、メジャースポーツと言われる競技のトップクラスは桁違いなので、一部の選手に限ってはそちらのほうが稼げます。ただ、全体的な平均値で言えばメジャースポーツにも負けないくらい稼げる競技なのは間違いありません。賞金が最も高いKEIRINグランプリであれば、およそ3分間ほどのレースで1着になれば賞金が1億円ほどになります。それこそレースだけの時間を労働時間と考えて時給換算したら、とんでもない金額になるのではないでしょうか。プロになったばかりの選手でもひとつの開催で優勝すれば、賞金が30万円くらいになります。それも同年齢の初任給と比較すると、驚愕の金額になるでしょう。
 もちろん、レースに向けて常日頃からトレーニングをしていて、大変だったり苦労したりはしています。ですが、それはどの競技でも同じと考えれば、稼げる金額を加味すると選手としてはかなり夢のある競技で、魅力のひとつだと思います。僕も競輪の世界に入るきっかけのひとつに賞金額があり、これだけの時間でこんなにも稼げるのはすごいと感じていました。
 ただし、やっぱり楽して稼げるほど甘い世界ではありません。勝てなければ稼げないようなシステムになっています。それは競輪に限らずどのスポーツにも言えることで、勝敗を競うスポーツの世界で健全では当たり前の構図なのではないでしょうか。とはいえ、なかには世界1位になっても稼げないようなマイナー競技もあるので、その点ではやはり競輪は恵まれています。また、賞金というわかりやすい形なので、頑張る原動力としてもわかりやすいんだろうなあと思いますね。

(プロフィール)
郡司浩平(ぐんじ・こうへい)
1990年9月4日生まれ(31歳)、神奈川県出身。父は元競輪選手の郡司盛男。日本競輪学校(現:日本競輪選手養成所)を経て、2011年1月に99期生として川崎競輪場でデビューを果たす。ここまで獲得したG1タイトルは2020年11月小倉競輪祭、2021年2月全日本選抜競輪。最上位のランクであるS級S班として今年3年目を迎えている。株式会社チャリ・ロトとは2021年3月にスポンサー契約を結ぶ。

(協力)チャリロト パーフェクタナビ編集部
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VictorySportsNews編集部