伝統のスポンサー企業にとって代わる仮想通貨関連企業

 仮想通貨・暗号資産関連企業が、スポーツの世界で存在感を増している。世界1位の取引額を誇るBINANCE(バイナンス)はセリエA・ラツィオと3年総額約40億円のスポンサー契約を結び、同インテル・ミラノの胸スポンサーロゴは26年間続いたイタリア・タイヤ大手「PIRELLI(ピレリ)」から仮想通貨プラットフォーム「ソシオズ・ドットコム」社による「$INTER FAN TOKEN by Socios.com」へと変わった。また、シスコシステムズの法務部門で経験を積んだショーン・オブライエン氏が主導するDAOが米プロフットボールNFLのデンバー・ブロンコスの買収に動くなど、オーナーシップに絡む動きも出てきている。それらは本連載の第1、2回で触れた通りだ。

 その背景には、コロナ禍と法規制の強化がある。新型コロナウイルスの感染拡大は世界経済に大きな打撃を与え、欧州のサッカークラブだけでも100億ユーロ(1兆4000万円)近い収入を失ったとする報告もある。さらに、青少年保護の観点からイタリア、スペインなどではギャンブル関連企業に対するスポーツチームへのスポンサー規制が強化されており、特に「Gambling Act 2005」というギャンブルに関する法律見直しの取り組みを進めている英政府はギャンブル関連の広告にアスリートを起用することすら禁止することを決めた。

 20-21年シーズンで見ると、イングランドプレミアリーグ全20クラブ中9クラブのユニホームスポンサーをギャンブル関連企業が務めており、その契約金は年間100億円超ともいわれる。これら収入の大幅減を補うことが求められる中、仮想通貨の急激な値上がりによって巨万の利益を得る暗号資産関連企業がタイムリーな存在として注目されるのは、ある意味必然といえる。

歴史は繰り返す?! スポーツにおけるスポンサー企業の変遷~F1の例

 こうしたスポンサー企業の栄枯盛衰は、これまでも繰り返されてきた。例えば「走る広告塔」といわれるモータースポーツの最高峰、F1。当初は自動車メーカーが国の代表としてナショナルカラーに車を染めてきたが、1968年に英国のロータスがタバコブランド「ゴールドリーフ」のカラーリング(赤・白・金)を施して参戦。これが大きな話題となり、タバコメーカーがこぞって名乗りを上げることとなった。アイルトン・セナが乗った「マルボロ」のマクラーレン、片山右京が駆った「キャビン」のティレルなどに熱狂した人も多いだろう。

 ただ、世界保健機関(WHO)が2000年から協議してきたタバコの広告規制に関する枠組条約(FCTC)を03年5月の総会で採択するという流れが生まれると、状況は一変した。01年9月11日に「2006年のF1グランプリを最後に全てのタバコメーカーはF1から撤退する」との発表がなされ、スポンサー企業はベネトンなどのファッション業界、ジョニー・ウォーカーなどのアルコール関連、レッドブルなどの飲料業界へと移り変わっていった。

 そのF1にも、近年は仮想通貨関連企業の波が押し寄せている。レッドブルは仮想通貨取引所を運営する「Buybit」と3年総額1億5000万ドル(約200億円)の巨額なスポンサー契約を締結。アルピーヌの車体に「BINANCE」のロゴが掲出されるなど、大半のチームが仮想通貨関連企業との関わりを持っているといっても過言ではない。アルピーヌのローレン・ロッシCEO(最高経営責任者)は「仮想通貨はビジネスに新たな可能性を示すもの」と、その進出を歓迎する意向をメディアに示している。

恩恵の裏にあるリスク イニエスタに注意喚起も

 このように、スポーツの世界で存在感を高める仮想通貨・暗号資産業界だが、大きな恩恵の裏には必ずリスクが存在する。不正アクセスによる通貨流出やマネーロンダリングなどの犯罪行為は依然として仮想通貨・暗号資産業界のネガティブな要素として懸念されており、英国では、先述のギャンブル関連に続いて仮想通貨関連の広告取り締まりも強化され始めている。F1のグローバルパートナーの一つとして年間3000万ドル(約40億円)の契約を結ぶ「Crypto.com」に対しては、クレジットカードでの仮想通貨購入を勧めるかのような表現をした広告に配信禁止措置が出るなど、当局が目を光らせている。

 スペインでも仮想通貨の広告について、リスクを説明する文言の掲載を今年2月から義務化。出演料・謝礼を受け取って広告に出演する著名人・インフルエンサーも規制対象に含まれることとなった。スペイン証券取引委員会は昨年11月、J1神戸のサッカー元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタがツイッターに投稿した「私はバイナンスで仮想通貨を始める方法を学んでいる」との文言や写真に返信ツイートで注意喚起。英紙フィナンシャル・タイムズによると、仕組みを理解していない人々への影響を鑑み、証取委がファンらに直接リスクを訴えるため、こうした形を取ったのだという。

求められるのはサポートを受ける側の責任

 日本でも、多くの著名人やアスリートが仮想通貨関連企業との関わりを持ち始めている。今年5月、サッカー元日本代表MF本田圭佑はブランドアンバサダーとして暗号資産取引所「Bitget」とパートナーシップ契約を締結した。「Bitget」は米国、カナダ、オーストラリアでライセンスを保有しており、世界的に信頼度の高い海外の取引所ではあるが、日本の金融庁が5月31日付で公表している暗号資産交換業者登録の一覧には入っておらず、こうした業者の日本でのPR展開を問題視する声があるのは事実だ。イニエスタのツイートでも名前が挙がった「BINANCE」は無許可の状態で日本居住者にサービスを提供したとして、日本の金融庁から18年3月と21年6月の2度、警告を受けている。

参考:暗号資産交換業者登録一覧(令和4年5月31日付・金融庁交付)

 一方で、米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平投手や女子テニスの大坂なおみらがアンバサダー契約を結ぶ大手取引所「FTX」は一度日本からの登録・利用を停止し、金融庁登録の暗号資産取引所を含む「Liquid Group」を買収。「FTX Japan」を設立して金融庁の登録を受けた形で日本に参入するなど、慎重に事業を展開している業者もある。

 また、プロ野球・日本ハムの新庄剛志監督が広告塔を務め、テレビCMにも出演して話題となった「ビットポイント」は金融庁の登録業者一覧に名を連ね、今年5月には東証プライムに上場するSBIホールディングスが51%の株式を取得して連結子会社化するなど、確かなバックボーンを持つ取引所といえる。ただ、19年7月には約35億円相当の仮想通貨の不正流出が判明した経緯がある。過去には当時業界最大手とされた「コインチェック」でもハッキングによると見られる約580億円相当の仮想通貨不正流出が起こっている。各業者は日々、セキュリティ強化の施策を講じているものの、システムの安全性などの審査を受けている金融庁の登録業者といえどもゼロリスクでないのも事実ということ。もちろん、株やFX以上に高い変動率を記録することが珍しくない点も、投資である以上、各自注意が必要だ。

 規制に関してグレーゾーンが残り、ギャンブルのような商品も混在する現状では、こうしたリスクを利用者がしっかりと把握することが、まず自己防衛として求められる。そして、適切な法整備を進めるとともに、支援を受けるスポーツ団体・アスリート側がリスクを理解・周知し、スポンサー企業・業者の選定を慎重に進める必要があることは言うまでもない。仮想通貨・暗号資産関連企業から金銭的にサポートを受け、その認知度向上の一翼を担う以上、消費者保護の責任を負うのは当然のこと。そうした意識を持って初めて、仮想通貨関連企業によるスポーツへのサポート体制は持続可能なものとなり、コロナ禍脱却の“救世主”たり得るものとなっていくのではないだろうか。


【スポーツと仮想通貨#3】・<了>

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Bitget公式サイトより

VictorySportsNews編集部