試合はボクシングファンをうならせる「さすが井岡」という内容。ニエテスが勝負したい接近戦に付き合わず、だからといって逃げるわけではなく自ら先手先手で駆け引きをしかけた。相手のリズムを崩す左ジャブとコンビネーションでペースを掌握し、50戦ものキャリアのベテランに思うように戦わせなかった。

 ニエテスが倒されたりする場面はなかったとはいえ、3人の審判が118-110、120-108、117-111といずれも大差をつけた採点結果からも、井岡が経験豊かな40歳の元チャンピオンに現在の力の差を明白に見せつけたということである。

 両者には「4階級制覇王者」という共通点があった。ともに最軽量クラスのミニマム級から順に階級を上げながら世界タイトルをゲット。ライトフライ、フライときて4つ目のスーパーフライ級に先に到達したのはニエテスのほうだ。しかもその時の相手は井岡だった。

リマッチは初戦から多く学んだほうが勝つ

 2018年12月、マカオで行われたWBO世界スーパーフライ級王座決定戦。ここで一度両者は4階級制覇をかけて対戦し、やはりハイレベルな攻防を12ラウンド繰り広げた末、ニエテスが小差で競り勝っている。その後ニエテスは初防衛戦を行うことなくタイトルを返上し、再び実施された同級の王座決定戦でアストン・パリクテ(フィリピン)に勝った井岡が4階級制覇を達成したという経緯がある。

 今回井岡は初戦の借りを見事返したと同時に、この間に自身がいかに成長しているか、そして前戦からいかに学んだかを示した。

 マカオの初戦では、テンポのいい攻めで好スタートしたはいいがニエテスに対応され、見栄えのいいカウンターでポイントを取られた。再戦の井岡はニエテスに得意の合わせ打ちをさせないよう細心の注意を払い、前後左右への移動を絶妙にこなして距離をキープ、そしてジャブ、右オーバーハンドで叩いた。

 互いに守りのうまいタイプゆえに派手なシーンはなくとも、百戦錬磨のニエテスの表情に瞬間的に浮かぶ戸惑いは、ゲームをつくっているのが井岡であることをはっきりと伝えていた。10ラウンドには井岡の右でニエテスが左目上を切り裂かれて出血したが、同じラウンドに効かせた左ボディーブローもすばらしいパンチだった。ラストまで一瞬たりとも集中力を切らさず、ニエテスとの攻防を支配した一戦だった。

「マカオの試合以来、自分とニエテス選手の過ごしてきた時間が違うことを証明できた」

 勝者井岡は言ったものである。一方のニエテスは試合終盤の出血が「かなり影響した」と語ったものの、これは敗因にはあたるまい。リマッチ直前にニエテスが契約するプロモーション会社(プロべラム)が配信したインタビューによると、フィリピンのベテランは「井岡が初戦と変わっているとは思えない」と言っていた。“リマッチは初戦から多く学んだほうが勝つ”というリングの格言を甘くみていたのか。

指名挑戦者と闘い続ける井岡の矜持

 さておき井岡はこれで指名挑戦者を撃退し、再び念願の王座統一戦実現に向けて前に進める。ニエテス戦の勝利は世界戦20勝目となり日本人歴代トップ。世界戦出場数22も同様に1位である。

 どちらも大変な偉業であるが、スーパーフライ級王者になった井岡の防衛戦5試合中4試合が指名挑戦者を迎えてのものであることも特筆すべきだろう。タイトル統括団体がチャンピオンに対し、一定期間に義務付けるオフィシャル・チャレンジャーとの防衛戦(WBOの指名防衛戦期限は9ヵ月)――このルールは興行の論理に優先されて守られないケースも多い。

 井岡は昨年末の福永亮次(角海老宝石)とのV4戦以外は、ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ=V1)、田中恒成(畑中=V2)、フランシスコ・ロドリゲスJr(メキシコ=V3)そしてニエテスとすべて指名試合だった。

 ベルトの価値の下落が言われて久しいが、井岡は「世界チャンピオン」に対する確たる価値観を持っている。指名防衛戦を「チャンピオンの義務」と言い、当然のことと期限(ルール)を守ってきたのもその表れだろう。そんなチャンピオンだからこそ、次の指名期限が訪れるまでに統一戦が決まってほしいものである。


VictorySportsNews編集部