プロゴルファーにとってゴルフクラブは単なる道具ではない。仕事道具であり、自分の手足となる重要な存在。当然のことながらプロゴルファーはその細部にまでこだわる。
弾道計測器など様々な技術が進化した今の時代でも、プロは自身の感覚というものを何よりも重視する。

クラブ職人とプロゴルファーの間には数字だけでは説明することができないものが存在し、その言葉なき世界にこそ、クラブ職人とプロゴルファーの信頼の源になるものがある。
意外にも助川氏は、松山プロに会ったことがない。彼の要望を長年の経験と勘からくみ取り、それを形にしている。

「日本人でメジャータイトルを獲るなら松山英樹選手しかいない。そんな確信がありました。彼のアイアンは大きめのフェースで特段難しいタイプではないですが、一削りレベルの違いに必ず気づき、細かな調整を重ねています。それを松山選手が気づいてくれるのが嬉しいですし、彼も同じ職人気質なんだと思いますね」と助川氏は話す。

助川氏の肩書きは研磨師。「一削り」と表現されているように、ミリ単位でクラブヘッドを研磨し、プロの要望に応える絶妙な研磨を施す。その技術力の高さは、言葉では表現し難いものがある。プロの要望の多くは感覚的なものが多く、どれだけ数字的に正確で、それがプロが求めていた数値だったとしても、最終的には打ったときのフィーリングがそのクラブの価値になる。
だからこそ、職人側も数値だけには頼らない。自らの感覚をクラブヘッドに注入し、プロが求めるものを形にすることこそがクラブ職人の仕事なのだ。

14本あるゴルフクラブの中でアイアンはゲームメイクする上で重要な役割を担っている。その理由は、縦距離をきっちり打ち分ける必要があるからだ。加えて、風などに対応して高い球、低い球を打ち分ける状況もあり、さらにはグリーンに落ちてからのボールの止まり方、いわゆるスピンコントロールも自在に操らなければならない。トッププロになればなるほど、求める精度は高く、世界トップランカーは1ヤード単位で距離を打ち分けるとも言われている。

プロゴルファーはよく「フェースの乗り感」や「ヘッドの抜け感」という言葉を使うが、1ヤードを打ち分けるために絶対に必要な要素になる。
「フェースの乗り感」とは、ボールがフェースに乗っている感触のことで、インパクトの一瞬で感じる部分。そこが乗り過ぎると感じても、乗らな過ぎると感じてもダメで、そんなプロの感覚にいかに近づけるかが職人の腕の見せ所になる。また「ヘッドの抜け感」もソール部分の削り方が左右する部分。繊細な職人の技術と豊富な経験が至極のクラブを生み出す。

松山プロは「僕の競技人生はたくさんの人達の仕事で成り立っています」と話している。
助川氏は世界No.1を目指すチーム松山を支える重要な裏方のひとりであり、松山プロの繊細なフィーリングに応えるアイアンを作り続ける名巧だ。

求人検索エンジンを展開するIndeed(インディード)によるコンテンツ「運命の仕事」の中で、助川氏は松山プロの活躍こそが最も嬉しいことであり、彼を支えるアイアンを作ることが仕事だと話している。
助川氏が手掛けるゴルフクラブは、単にボールを打つだけの道具ではなく、もはや芸術品と言うべき逸品であり、松山プロにとっては唯一無二の存在なのだ。


出島正登