ゴルフは元々、老若男女が楽しめるスポーツとして親しまれてきたが、昭和の時代はオジサンのスポーツという印象が強かった。止まっているボールを打ち、それ以外の時間は歩いている比較的のんびりした雰囲気のスポーツなので、若い世代は野球やサッカー(フットサル)、バスケットボールやバレーボールなど学生時代から親しんできたスピード感のある競技を大人になってからも続け、ハードな動きができなくなってからゴルフに移行するというのが定番だった。
ところが新型コロナウイルスの影響で団体スポーツはグラウンドやコートが借りられなくなり、密を避けるため団体スポーツ自体を敬遠するムードになった。でも、体は動かしたいと周りを見渡してみると、どうやらゴルフはコロナの影響を受けずに楽しめるようだと新たに始める人がジワジワと増え、2022年に入ってもその流れが続いている。
これはゴルフ業界にとっても好材料だ。オジサンのスポーツだったゴルフを支えていたのは昭和のサラリーマン時代に始めた団塊の世代(1947年生まれ~1949年生まれ)。この3学年の出生数はいずれも260万人を超えている。
だが、団塊の世代も全学年が70代に突入した。今のところ元気にゴルフを続けている人のほうが多いが、80代になると元気な人と元気がない人が二極化し、ゴルフから足が遠のく人も増える。
団塊の世代がゴルフをやめてしまったらゴルフ業界はどうなるのだろうと不安視されていた矢先に若い人たちが一気に流入してきてくれたので、ゴルフ業界は若者にゴルフを長く続けてもらうためにさまざまな施策を講じている。
しかしながら、若者がゴルフを長く続けるための最初の導線が今イチかみ合っていないと感じる。具体的には上達へのプロセスだ。
上達のための基本
このところゴルフ練習場で経験者が初心者を教える場面を見かける機会がものすごく増えた。その内容を聞くともなく聞いていると、教えている内容がめちゃくちゃなのである。
あるとき後ろの打席から「バックスイングで左ひじが曲がっているから、左ひじを曲げないようにクラブを上げてみて」というセリフが耳に入ってきたので気になって後ろを振り返ってみると、確かにバックスイングで左ひじが曲がっている。ただ、その原因は左ひじではなく、そもそも左手の握り方がおかしいので左ひじが曲がってしまうのである。
日本プロゴルフ協会が発行している基本ゴルフ教本によると、左手の握り方は「上から見ると、人差し指と中指の付け根の関節(ナックル)が2つ見えるはずです。この手の向きで握るとインパクトでも同じ位置に戻りやすくなります」とのこと。
一方で、後ろの打席の初心者の左手は人差し指の関節も中指の関節も見えておらず、てのひらでグリップをわしづかみにしているだけ。正しいスイングを覚える前に、正しいグリップを覚えないと、ボールがクラブフェースに当たっても真っすぐ飛ぶ確率は低い。
アドレスの姿勢がおかしい人もたくさんいる。典型的なのは前かがみになりすぎているパターンと棒立ちになりすぎているパターン。本人は気づかないので経験者が指摘してあげなければならないのだが、スイングを教えることばかりに気をとられているので修正することができない。
プロゴルファーによると、「ショットの成否の9割はグリップとアドレスで決まる」と言う。アマチュアゴルファーはその部分をおろそかにしているケースが非常に多いので、いつまで経っても上達しないと嘆いている。
では、初心者がなぜプロゴルファーに習わず、身近な経験者に習うかというと、予算と時間の問題だ。プロゴルファーに習うとお金も時間もかかるが、経験者に習うとタダで教えてくれて時間も合わせてくれる。ゴルフを長く続けるかどうかも分からないうちから、ゴルフスクールに入会して毎月数千円~数万円も払ってレッスンを受けるのは敷居が高い。
ただ、ゴルフ経験者というのは仮にシングルハンディプレーヤーだとしてもゴルフを教えるプロではない。筆者は「ゴルフを始めたいんですけど教えてくれませんか」と言われたときは「グリップとアドレスだけはプロに習ったほうがいいよ」とアドバイスする。
さらにゴルフがやっかいなスポーツだと感じるのは、おかしな握り方、おかしな構え方でもクラブフェースがボールに当たった瞬間に正面を向いていれば真っすぐ飛んでしまうのである。そうすると、それが正しいスイングだと思い込んでしまい、俗に言う“下手を固める”ことになる。
ゴルフスクールには無料体験レッスンプランが用意されていることが多いが、それは入会につなげるためのエサだ。そうではなくて、グリップとアドレスだけを3000円から5000円くらいの価格帯で教えるプランを新設すれば、独学で始めて下手を固めるゴルファーを少しでも減らせるのではないかと思う。