久保と前田の台頭

第1戦の米国戦は、約1年ぶりに4-2-3-1のシステムで戦った。背水の陣で迎えた昨年9月のアジア最終予選オーストラリア戦から採用し、7大会連続のW杯切符をつかみ取った4-3-3システムは封印。森保監督はW杯本大会グループリーグの対戦相手を見て、ダブルボランチとトップ下を置くスタイルをベースに据えた。

米国戦ではほとんどの選手が好印象を残したが、その中で、本大会に向けてチーム内に変化をもたらしそうなパフォーマンスを見せた選手として挙げたいのは、久保建英と前田大然だ。

久保は代表ではほとんどやってこなかった左サイドハーフで先発。課題だった守備の強度が上がり、攻撃面では持ち前の技術とアイデアを発揮した。守備に追われる時間が減れば、より攻撃の良さを出せるであろうという印象だ。

また、「そもそも(自分が)試合に出たことに驚いた」と話したことからも分かるように、ポジションを失いつつあったところから序列を上げた。久保にとっては4-3-3から4-2-3-1へシステムが変わったことがプラスになった。所属クラブでの好調ぶりが評価されての先発入りだけに、本人も嬉しかっただろう。

久保の先発成功で、このところ左サイドで使われて低調だった南野拓実をトップ下に戻すことも可能になるという、副次的な効果も見えた。事実、南野は第2戦のエクアドル戦でトップ下の位置で先発した。

米国戦ではそのトップ下で鎌田大地が1得点を決めた。ビッグチャンスが他にもあったため、もう1点ほしいところだったが、所属クラブでCLを戦っている自信がプレーに余裕を持たせているのは間違いない。

久保が「本当はもう少し鎌田選手と僕がポジションを入れ替わりたかった」と言ったように、2列目はローテーションが可能。相手に的を絞らせない攻撃ができるという期待が膨らむ。


日本の戦い方に変化をもたらす可能性を見せた2人目の選手である前田は、前線からの猛烈極まりないチェーシングで2-0の勝利を支えた。横浜F・マリノス時代はJリーグのスプリント王となり、昨季の得点王にも輝いている。Jリーグで見せてきた無尽蔵のスプリントがもたらす効果を、代表でもしっかりと表現した。シュートゼロに終わったことは課題だが、決して高くなかった序列を上げたのではないか。

久保は「彼が追ってくれることで、僕がセンターバックのパスコースを限定して奪っていくことができた。W杯の本戦は相手にもプレッシャーや高ぶりがある。その中であれだけのプレッシャーが来ると相手も多分、蹴り一辺倒になってしまう」とコメント。久保の指摘通り、前田がコースを限定することで日本は高い位置でボールを奪い、2列目がショートカウンターの起点となり、チャンスを量産した。なお、世界ランク14位の米国は、前半終了時点でグレッグ・バーホルター監督就任後ワーストとなる54回のボールロストだったと報じられている。


これまで森保監督が1トップの中心に考えてきた大迫勇也は、屈強なDFをものともせずにボールを収め、前線でタメをつくってチャンスメークをするタイプだが、代表から遠ざかっている期間が長い。仮に大迫が26人のメンバー入りを果たしても、本大会では前田や、今回ケガで招集が見送られている浅野拓磨というチェーシング型の選手を先発で起用するというオプションが明確になった。

「ロストフの死闘」の反省を活かせるか

2戦目のエクアドル戦は、1戦目の米国戦とは別のテーマを持って臨んだ。

森保監督はエクアドル戦でも4-2-3-1を続けること、そして先発メンバーを全員替えることを事前に予告し、その言葉通り、先発を11人全員替えて臨んだ。これは目標として常に掲げてきた「ベスト8入り」からの逆算に他ならない。

試合前に取材に応じた吉田麻也も「W杯本大会を戦う上で必ずケガ人や累積警告ということが起こりうる中で、メンバーのローテーションが必要になる」と語っていた。


ロシアW杯では、グループリーグ突破に向けての戦い方にいくつかのオプションを持っていた第3戦のポーランド戦こそ1、2戦目の先発メンバーから6人を入れ替えて臨んだが、ラウンド16のベルギー戦では1、2戦目と同じ11人が先発。4試合すべてに先発したフィールド5選手の疲労は明らかだった。2点リードを追いつかれて迎えた後半アディショナルタイムの94分に勝ち越し弾を決められた理由として、心技体の疲労を無視するわけにはいかない。

ベルギー戦後のミックスゾーンで、4試合とも先発した柴崎岳が、“誰が出ても変わらない戦力を有する必要性”を説いた姿が今も思い出される。

加えて、今回は2002年日韓W杯から続いてきた23人体制(それ以前は22人)ではなく、1チーム26人、交代枠5となった。1試合の中での采配はもちろん、3試合、4試合を見据えて監督が行うオペレーションは確実に以前とは違ったものになる。

これについては、米国戦で右サイドバックとして先発し、ハーフタイムで退いた酒井宏樹が米国戦後後に早くも示唆していた。酒井は自身がベンチに下がった後半、センターバックで先発した冨安健洋が右サイドバックでプレーしたことについて聞かれ、「僕が出て中3日でトミが出て、となればそんな素晴らしいチョイスはないと思いますし、そういうことができたら決勝トーナメントに行って、フレッシュな選手が出られると思います」と語っていた。

つまり、ターンオーバーの実行については早い段階で森保監督から選手へ説明があったということだ。メンバーの最終選考が懸かる最もデリケートなタイミングでありながら、10日間に及ぶ合宿で選手たちが「チームの勝利のために」と高い意識を見せ続けたのは、おそらくこれも理由だったのだろう。

手ごたえをつかんだ今、W杯本戦に向けて残された課題とは

エクアドル戦では、非常に強度の高い相手に対して、前半を耐えながらゼロに抑え、後半は修正を効かせて攻勢に出る場面もつくった。0-0ではあったが、非常に内容の濃い試合だった。

11人総入れ替えということで、エクアドルに対峙したのはいわばサブチーム。さすがに11人全員が替わるとファーストチョイスのチームと比べて力が落ちるのは否めず、本大会でこれと同じことをやるのは危険だが、セカンドチームでさえ、あれだけ強いエクアドルに負けなかったことは評価できる。

今回のエクアドルは、南米チームにからっきし弱かったつい数年前までの日本なら、ファーストチョイスのメンバーでも勝てなかった、あるいは負けていてもおかしくなかった。


後半途中から3バックを試せたことも、テストマッチということを考えるとプラスにとらえることができる。0-0で後ろの枚数を増やすことは、勝ち点1を狙ってのシミュレーション。同時に、伊東純也を右サイドではなく2トップの一角で試すこともできた。伊東の2トップ起用は隠し球としてしまっておくこともできただろうが、森保監督は試すことを選択した。


約10日間の合宿は、選手同士で互いの熱量を確かめ合い、高め合う時間でもあった。合宿中、長友佑都はこう話していた。

「以前はベテランの選手たちが主導して意見を言い合う環境を作ってきたという感じだったが、今は若手の選手もガンガン意見を言ってくる。もっとこうした方がいい、こういうミーティングをした方がいいというのが、若手から出てくる。(久保)建英もそう、(鎌田)大地もそう、(堂安)律、冨安、(三笘)薫もそう。ベテラン選手たちはそれをまとめて1つのチームにしていくというところだけをやればいい状況です」

酒井宏樹はこう語る。

「いい意味で自分に自信を持っている選手が多い。だから、ピッチに立つ場面がなかったとしても、もしピッチに立てば自分ができる自信があるから焦っていないという、そういうスタンスの選手がすごく増えた」


ロシアW杯のベルギー戦で、日本はピッチ内で相手の変化に即時対応することや、時間帯に応じた判断をできないという未熟さを露呈した。2-0でリードしていたところから一気に追いつかれたこと。2-2で迎えたアディショナルタイムに日本がCKを獲得した時のリスク管理。

ピッチ内で選手が臨機応変にプレーをする力が欠けていたという反省から森保ジャパンはスタートした。それから4年が経ち、若いメンバーが中核へ躍り出たこの6月、今度は若手から共通認識の足りなさを憂う声が上がった。

こうして迎えた9月シリーズの合宿では、さまざまな状況においてどんな共通認識を持つべきかというプラクティカルな取り組みが進み、選手たちが持っている数多くの引き出しが整理された状況になってきている。

長友は「相手がこうした時にこう出た方がいいとか、時間帯と勝っているか負けているかという状況によってどうするかも話していて、みんなで共有できている。もちろん、まだまだ進めなきゃいけないですが、間違いなく方向性は正しいと思っています」と言う。
酒井は「初戦がすごく大事なのはもちろんだけど、もしもつまずいたときの対処法も準備しておけないといけない。それはすごく現実的に考えている」と、黒星スタートへの備えにも言及している。

遠藤航も手応えを感じてこのように語る。

「この2試合は、チームとして監督やスタッフがどういう戦術をやりたいのかというところが明確だった。まずそれにトライする。それにプラスして、ピッチの中で選手たちが1人1人で判断を持ちながらやっている。こうなったらこう、というのを今回の遠征を通じてピッチで話したことは、W杯本大会に向けてすごく良い準備になったと思う」

上積みされた部分は多いが、もちろん課題もある。守備がハマった米国戦では高い位置で奪えてショートカウンターを繰り出せたが、ハマらないとき、後方からのビルドアップで相手を崩していく力はまだ不足している。

セットプレーからの得点力が低い(得点の匂いすらない)ことも弱点だ。今回はあえて手の内を見せなかったとも言えるが、吉田は「1個でも2個でもセットプレーからの成功体験を持って本大会に挑めたら」と語っていた。セットプレーの重要性が以前よりもさらに増している中、またしても取れなかったのはマイナス評価。本大会直前の数日間で急仕上げをするしかない。

とはいえ、今回の2連戦では多くの成果があった。メンバー選考、戦術固め、米国戦で相手がシステム変更した時に見せた臨機応変な対応力、共通認識の整理、中3日でのターンオーバー、5枚交代のシミュレーション…。

日本がW杯のグループリーグで優勝経験国2チームと対戦するのは7度目の出場で初めてだが、かつてない厳しいグループを突破して世界を驚かせる姿を見せられるか――。

矢内由美子

著者プロフィール 矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からロシア大会まで5大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。