エース対決のスパイスは1区のタイム差

2区は前回に続いて、駒大・田澤廉(4年)と青学大・近藤幸太郎(4年)が濃厚だ。ふたりは学生駅伝で4回連続してマッチアップしている。いずれも田澤が勝利しており、今年の全日本7区は14秒差だった。

1区の戦力は拮抗しているが、わずかな差で流れが変わる可能性を秘めている。駒大とすれば1区で青学大より先にタスキを受けて、田澤が近藤に触れさせることなく、突き放したい。青学大も2区はライバル校より少しでも先にスタートしたい。そして近藤が上がってくる田澤の背後にピタリとついてレースを進めるのが理想の展開だ。

青学大が1区で10秒前後のリードを奪うことができれば、20年大会で東洋大・相澤晃(現・旭化成)と東京国際大・伊藤達彦(現・Honda)が見せたような〝ガチンコ対決〟が実現するだろう。田澤は前回、区間歴代4位の1時間6分13秒で走破しており、気象条件に恵まれれば相澤が持つ1時間5分57秒の日本人最高記録、それから東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(4年)が保持する1時間5分49秒の区間記録に届くかもしれない。

勝負のポイントは3区か

山上りの5区には両校とも前回好走した経験者が残っていることもあり、勝負のポイントは3区になるのではと予想している。前回は青学大の1年生・太田蒼生が区間歴代3位の快走で、トップに立った。一方の駒大は首位から5位に転落している。この1区間だけで3分01秒という大差がついた。

青学大は前回に続いて太田を起用するのか、それとも岸本大紀、横田俊吾ら4年生に託すのか。駒大はここに3種目で高校記録を塗り替えた佐藤圭汰(1年)の起用が考えられる。佐藤は今季5000mで13分22秒91のU20日本記録を樹立。出雲は2区で区間賞(区間新)、全日本は2区で区間2位(区間新)と快走して青学大の選手に完勝している。スピードで勝る佐藤がキャリア初となる20㎞超えのレースにどこまで対応できるのか。

佐藤が3区を快調に駆け抜けることができれば、駒大の3冠が現実味を帯びてくる。一方、ここで青学大が首位を奪うことになれば、連覇へのカウントダウンが始まるような気がしている。

復路に関してはさほど戦力差がないと見ていいだろう。青学大は9区と10区の区間記録保持者(中村唯翔、中倉啓敦)がいるとはいえ、追いかける立場になると、前回のような快走を再現するのは難しい。3区で明らかな差がつかない場合でも、8区終了時には勝負の行方が見えてくるはずだ。

〝飛び道具〟のある中大と順大

2強を追いかけるチームも非常に楽しみだ。まずは出雲で3位に食い込んだ中大。総合力が高く、エース吉居大和(3年)の爆走も期待できる。吉居は前回1区を独走して、驚愕の区間記録を打ち立てた。藤原正和駅伝監督は〝ジョーカー〟を1~3区のどこかに配置することを示唆しているが、ライバル校の動向に目を光らせながら最終決定していく考えだ。

2区は10000m中大記録保持者で上りも強い中野翔太(3年)が候補。山は前回5区6位の阿部陽樹(2年)、同6区5位の若林陽大(4年)が控えており、山で2強に近づける可能性もある。第100回大会(24年)での優勝を目指している中大は、今回どこまで優勝争いに加わることができるのか。

前回準優勝の順大は頼りになる経験者が残っている。前回は3区伊豫田達弥(4年)が3位、4区石井一希(3年)が2位、5区四釜峻佑(4年)が5位。全日本6区では主将・西澤侑真(4年)が区間新の快走を見せている。選手層はやや薄いが、適材適所のオーダーで勝負できる。ポイントは東京五輪3000m障害で7位入賞を果たした三浦龍司(3年)の区間だろう。前回は2区を務めて、区間11位。役割を果たしたものの、持ち味を発揮できたとはいえなかった。

オレゴン世界選手権、ダイヤモンドリーグなど夏に〝世界〟と戦った影響もあり、駅伝シーズンへの移行が遅れていた。しかし、順大は箱根駅伝へのピーキングがうまいチーム。三浦も正月決戦にしっかりと合わせてくるだろう。2強を崩すために、長門俊介駅伝監督はエースを何区に配置するのか。三浦の走りがレースを大きく動かすかもしれない。

日本人エース&留学生パワーで加速

それから日本人エースと強力なケニア人留学生を擁する創価大と東京国際大は往路Vを狙える戦力を誇る。創価大は初出場した全日本大学駅伝で5位。2区葛西潤(4年)が駒大・佐藤、順大・三浦らを抑えて区間賞(区間新)をゲットした。箱根駅伝の4区と10区で区間賞を獲得している嶋津雄大(4年)も健在で、フィリップ・ムルワ(4年)は前回2区を区間2位と好走している。榎木和貴監督は総合優勝を達成するために、3本柱のひとりを復路に配置することも考えているが、どんな戦略で臨むのか。

東京国際大は前回3区区間賞の丹所健(4年)が今回は2区を担う予定。2区と3区で区間記録を持つヴィンセントは故障で出雲と全日本を欠場したが、最後の箱根に向けて調子を上げているという。今回は3区もしくは4区の起用が有力だ。前回1区7位の山谷昌也(4年)が復調できれば、往路では上位争いに絡んでくるだろう。

総合力では全日本で過去最高の2位に入った國學院大が面白い。中西大翔(4年)、伊地知賢造(3年)、平林清澄(2年)、山本歩夢(2年)の4本柱に加えて、青木瑠郁(1年)が全日本5区で区間賞。前々回6区を4位と好走した島﨑慎愛(4年)も控えている。山上りの5区で攻撃を仕掛けることができれば、過去最高順位(3位)の更新が期待できそうだ。

前回4位の東洋大はエース松山和希(3年)が登録から外れたが、メンバーは粒揃い。5000mの元高校記録保持者である石田洸介(2年)が〝新エース〟の走りを披露できれば、トップスリーを争うことができるだろう。

そして10位以内に与えられるシード権をめぐる争いも大混戦だ。なお箱根駅伝の区間エントリーは12月29日。今回は当日変更で補欠を6人まで投入できる(1日に変更できるのは4人まで)。まずは区間エントリーに注視して、当日変更を予想しながら、正月決戦を楽しみに待ちたい。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。