部活文化が根付いているのは日本とごく一部の国のみ

 日本でアマチュアのサッカーというと、多くの人が年末年始の風物詩でもある全国高校サッカー選手権を思い浮かべるのではないだろうか?

 高校の部活動、いわゆる高体連からは中田英寿、中村俊輔、本田圭佑、長友佑都などの多くの日本代表選手が生まれ、欧州で活躍している選手も多い。しかし、日本のようにいわゆる部活動でサッカーをする国は韓国やアメリカをはじめ、ウガンダなどのアフリカ地域の一部の国となっている。日本では国内でプロサッカー選手になるためには、Jクラブの下部組織からトップチームに昇格するか、高校や大学で活躍をしてJクラブからオファーを受けて入団する流れとなる。

 しかし、欧州や南米では、基本的にはどのカテゴリーにおいてもプロクラブの下部組織か街クラブに所属してプレーすることとなる。ごく一部ではトライアウトなども行われているが、プロ選手になるためには、下部組織からトップチームに昇格するか、他のクラブで結果を残すしか選択肢はないという。そのため、高校年代でいえば日本以上にプロクラブのユースに入団できるかどうかが、将来プロサッカー選手になるために重要となってくる。

Jリーグのユースと海外クラブのユースの違いは…

 日本のJリーグクラブのユースも海外のプロクラブのユースも、基本的には下のカテゴリーのクラブからの昇格やスカウティング、セレクションで入団者が決まる。選手を獲得する方法については大きな違いはないだろう。

 ただ、決定的に違うのは、シーズン中の選手の入れ替えの有無だ。海外サッカー留学やトライアウト事業を行う会社の関係者によると、欧州や南米のプロクラブの下部組織は、半年から1年ごとに選手の入れ替えが行われるという。そのため、いわゆる戦力外通告が育成年代でも普通に行われるという。戦力外となった選手の代わりに新たな選手を獲得して選手の入れ替えを行っているとのこと。もちろん、戦力外となった選手を見捨てるわけではない。多くの場合は提携先の街クラブに移籍させ、その後も動向を追うようだ。移籍先での活躍次第では、戦力外を通達された元のクラブに戻ることも可能だという。

 実際にスペイン1部の名門クラブの下部組織に約5年間在籍したとある選手に話を聞くと、1シーズンでおよそ半数の選手が入れ替わったようだ。なお、ユースカテゴリーになると、クラブや契約内容によっては給料が発生するケースもあるようだ。Jリーグのユースチームの場合、一度入団すると戦力外になることはなく、原則学校を卒業するタイミングまでは在籍することができる。また、Jリーグのユースチームの場合はトップチームとプロ契約を結ぶか、ユースに在籍したまま試合に出場できる2種登録選手にならない限り、給料が発生することはない。これも海外クラブの下部組織とは異なる点となる。

ユースと高校サッカーが混在する日本には様々なメリット、デメリットが

 高体連とJリーグのユースチーム、街クラブが混在する日本の高校年代。そこにはどんなメリットやデメリットがあるのだろうか。

 まずはメリットだが、これは受け皿が多い分、選手達の選択肢が多いことが挙げられる。欧州ではプロクラブのユースに入れない選手は街クラブでプレーするか、サッカーを辞めるかという究極の二択を迫られるのが基本だ。しかし、日本はJリーグのユースに入れなくても、高校サッカーという選択肢がある。そして、三菱養和などを中心に最近は強豪の街クラブも増えてきている。三菱養和のような名門クラブは狭き門だが、Jリーグのユースほど入団するのは難しくない街クラブも多くなっている。そのため、選手達はJリーグのユースチームに行けなかった場合でも、高校サッカーや街クラブでサッカーを続けることができる。

 本田圭佑や鎌田大地もガンバ大阪のジュニアユースからユースに昇格できなかったが、高校サッカーを経てJリーガーになり、その後W杯にも出場を果たした。街クラブでいうと、元浦和レッズ所属の永井雄一郎が三菱養和ユースから浦和レッズに高卒で入団を果たしたり、カタールW杯に出場した相馬勇紀も同クラブのユースから早稲田大学を経て名古屋グランパスに入団した。

 そして、日本は大学サッカーのレベルも高く、スカウティングも広がっている為、高卒でプロになれなかった選手が大学サッカーを経てプロになるケースも増えてきている。日本代表の長友佑都や谷口彰悟もJリーグの下部組織での所属経験はないものの、大学サッカー部を経由してプロ入りを果たしている。三笘薫のようにJユースから大学を経由してプロ入りする選手も増えており、日本は高校年代の選択肢が多いことに加えて、高卒でプロになれなかった選手やプロで通用する実力をつけたい選手にとっては、大学サッカーという舞台が用意されている。

 一方で、クラブユースと部活動の混在によるデメリットも存在する。

 ひとつはユースに入るか部活に行くかで、試合数に差が出やすいという点が挙げられる。高校サッカーはインターハイ、選手権、新人戦などの大会があるが、これらは全てトーナメント戦となっている。リーグ戦はプレミアリーグやプリンスリーグ、その下のカテゴリーにあたる都道府県リーグとあるが、それでも年間での公式戦の試合数は20試合あるかどうかという現状だ。一方のJユースは、プレミア、プリンス以外にもJユースリーグなど、リーグ戦が年間を通して行われている。全国大会にあたる日本クラブユース選手権大会では、4チームによるグループステージとノックアウトステージとなっているため、最低でも3試合行うことができる。そのため、高体連と圧倒的に試合数の差が出ている。

 さらに、高体連は強豪校ともなれば部員が150人や200人を超えることも多く、トップチーム以外の選手は試合への出場機会が限られている。その為チーム内の競争は激しく、AチームやBチームの入れ替えも頻繁に行われるため、この点では欧州や南米のプロクラブのユースに近いかもしれない。その他には、環境面を見ても高体連とJユースでは差が出る部分もあるだろう。Jユースの場合、トップチームの隣のグラウンドで練習することも多く、監督やコーチの数も多く、トレーナーやフィジカルコーチ、クラブによってはメンタルトレーナーがいるケースもある。そして、トップチームのキャンプや練習等に参加することも、ユースチームでの活躍やタイミング次第では可能となっている。

 そして、選手の人数も1学年18人から20人前後のため、高体連に比べると試合に出場しやすいという点も大きな差となっている。なお、Jリーグの下部組織ではなく、街クラブのチームは環境面では高体連とさほど大差はないが、選手数は1学年あたり20人前後のところが一般的で、やはり高体連よりも試合への出場機会は多いだろう。もちろん、クラブユースリーグなどのリーグ戦も行われている。

 では、海外のプロクラブの環境面はどうだろうか。欧州のサッカー強豪国の環境面は日本の高校生年代よりも充実しているケースが多い。そして、リーグ戦の文化が根付いているため試合数も多く、プロクラブのユースも街クラブも選手を無駄に多く獲得しないという。スペインで指導経験のある日本人コーチに話を聞くと、スペインでは小学生から高校生のカテゴリーでもプロリーグのように1部、2部、3部といったカテゴリー分けがされており、昇降格もあるという。日本では高体連に進むかJユースや街クラブに進むかで環境や試合への出場機会に差が出るが、そもそも部活動でサッカーをしない欧州や南米では多くの選手が年間通してリーグ戦に出場し、公式戦の経験を積むことができる。やはり海外と日本の育成には大きな違いがある。

高体連はユースより勝負強いのか?

 日本代表が初めてワールドカップに出場した1998年大会では、日本に帰化した呂比須ワグナーを除いて全員が高体連出身のメンバーが名を連ねた。そして、2002年の日韓、2006年ドイツ、2010年南アフリカ大会までは高体連出身選手が大半で、ユース出身選手は5人以下だった。

 しかし、その状況が大きく変わったのが2014年のブラジル大会で、23人中10人がユース出身となり、高体連のほうが多いものの、その差はほとんどなくなった。そして、2018年のロシア大会では23人中11人がユース出身となった。そして、カタール大会では高体連出身選手は26人中13人となり(相馬勇紀は三菱養和出身のため街クラブも含まれるが)、初めて高体連とクラブユース出身者が半数ずつとなった。

 そんな日本代表だが、PK戦に関しては高体連とユースではっきりと明暗が分かれている。以下は、日本代表における2010年の南アフリカ大会(決勝トーナメント1回戦でパラグアイと対戦)と、カタール大会(決勝トーナメント1回戦でクロアチアと対戦)のPK戦のデータだ。

≪2010年南アフリカ大会≫
遠藤保仁 〇(鹿児島実業) 
長谷部誠 〇(藤枝東) 
駒野友一 ×(サンフレッチェ広島ユース) 
本田圭佑 〇(星稜)

≪2022年カタール大会≫
南野拓実 ×(セレッソ大阪ユース)
三笘薫  ×(川崎フロンターレU-18)
浅野拓磨 〇(四日市中央工業)
吉田麻也 ×(名古屋グランパスユース)

 8人のキッカーの中で成功した4人は全員が高体連出身選手となった。これにはトーナメントの多い高校サッカーとリーグ戦の多いJユースというのが影響している可能性は少なからずあるのかもしれない。また、W杯で得点を記録した選手にも違いがある。Jユース出身選手が増えた2014年のブラジル、ロシア、カタールの3大会で得点を記録した選手は10人。このうち、高体連出身の選手が6人、クラブチーム出身選手が4人となっている。

 また、1998年のフランス大会から2022年のカタール大会までの7大会において、日本代表の選手で2得点以上を記録した選手は本田圭佑、稲本潤一、岡崎慎司、乾貴士、堂安律の5人となっているが、このうち高体連出身は3人、クラブチーム出身が2人となっている。これまでの歴代W杯に出場した選手数が高体連出身選手のほうが多いため、あくまで参考記録だが、メディアへの注目度が高く、観客の多い中でプレーする高体連出身選手のほうが大舞台で結果を出せるメンタリティを持っているのかもしれない。

 では海外の選手はどうだろう。海外の選手はプロクラブのユース出身が多いが、頻繁な選手の入れ替えも行われ、プロになってからは結果が出なければサポーターやメディアから日本以上に批判を受ける。南米やアフリカの貧しい地域の選手の中には、サッカーでプロにならないと生きていけないという選手もいる。もし、日本と海外のユース選手のメンタルに差があるとするならば、これらが影響している可能性は十分にある。高体連とクラブユースの混在にはメリットもデメリットもあるが、いずれにせよ今後も日本独自の特徴を生かした育成を行っていくことが必要となるだろう。


【2023/2/1訂正】記事初出時、駒野友一選手の出身ユースチームの情報において誤りがございました。お詫びして訂正いたします。


辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。