結局89分にバイエルンのムシアラが2−1の決勝点を決め、ドルトムントがマインツに引き分けたため、バイエルンの11連覇が決まったのだが、お祝いの後に選手たちにぶつけられたインタビューの内容は、「カーンとサリハミジッチが解任になったことをどう思いますか」だった。なんと試合後半の途中で『ビルト』紙がこのニュースをウェブ版で速報したのである。
この二人の解任は試合2日前の木曜日に決まっていたのであるが、試合に臨むチームで知っていたのは監督のトーマス・トゥッヘルのみ。ピッチで祝うチームの輪の中にSDのハッサン・サリハミジッチはいたが、CEOのオリバー・カーンの姿はなかった。チームに帯同しなかったのは風邪をひいたためだとされていたが、実は「クラブに帯同を禁じられたため」だったとカーン自身がツイッターでつぶやくと、どうしてクラブが帯同を禁じたかの理由が、翌日のサッカートーク番組で暴露される。木曜日に解任を伝えられたカーンが、自分の後任になるヤン=クリスチャン・ドレーゼンに手を出すこともあり得るとクラブが恐れたからだというのだ。それ以来、オリバー・カーンにまつわる不都合な事実が次々と明るみに出てきた。
カーンとサリハミジッチ解任の原因は、3冠のチャンスもまだ残っていた今年3月にユリアン・ナーゲルスマンを解雇し、トーマス・トゥッヘルを招聘して2冠を逃したことだけではない。のちにバイエルンの”ゴッドファーザー”的存在であるウリ・へーネスが南ドイツ新聞のインタビューで語った通り、その前から続く一連のミスマネージメントと、バイエルンで働くスタッフたちの不平不満、ファンたちの憤りなど、ピッチ以外の問題も多かったようである。
一連のミスマネージメントというのは、昨年12月にマニュエル・ノイアーがW杯で早期敗退し、ミュンヘンへ帰ってきてスキーに行って大怪我をしたところくらいから始まったと見られている。ノイアーに無断で、ナーゲルスマンの願いだけを聞いてノイアーのコーチ、トニ・タパロビッチを解任。ノイアーはクラブに伺いを立てずに南ドイツ新聞でのインタビューを受けて不満を爆発させた。3月にスキー休暇中のナーゲルスマンを解任した時にはキミッヒも、失望を隠そうともしなかった。ナーゲルスマンをライプツィヒから引き抜くために1年前に2500万ユーロという監督としては例外的な移籍金を払っていたことはあまり問題にされていなかったが、やはり判断ミスだったと見られてもおかしくない。そして2022年夏の移籍市場でリヴァプールから獲得したサディオ・マネも、後から見れば失敗であった。レヴァンドフスキが去った後に必要だったのは真の9番であり、マネのようなタイプではない。そしてマネはザネに平手打ちをして一時謹慎処分になったりもした。
さて、来季に向けてチームの刷新を図るだけでなく、トップの体制自体を立て直さなければならなくなったバイエルンはどこへ向かうのだろうか。まず前述の通り、カーンの後任としてヤン=クリスチャン・ドレーゼンが就任した。同氏は元銀行家で、2013年からバイエルンで財務責任者を務め、バイエルンの経営的な成功は、同氏のおかげであるというのがもっぱらの評判である。だからDFL(ドイツサッカーリーグ)の会長候補としても名前が上がっていた。そして穏やかでフレンドリーな性格で、バイエルン内部での人望も厚いと言われている。
会長はアディダス社出身のヘルベルト・ハイナーで、二人とも経済界出身で選手経験がないため、本来クラブに功績のある元選手をトップに置くことを理想とするバイエルンの考えとはそぐわないが、元監査委員会会長で引退していたカール=ハインツ・ルンメニゲを相談役として呼び戻した。ウリ・へーネスが特別な肩書きがなくても絶大な力を持っていることは誰の目にも明らかである。
ということでバイエルンは、少しカーン・サリハミジッチ体制の前に戻った感があるが、新しい要素としてはトーマス・トゥッヘルの存在がある。その知性と態度のため、ウリ・へーネスが当初の疑念を捨てて信頼を置くトゥッヘルは、ハイナー、ドレーゼン、へーネス、ルンメニゲと相談しながら、自分のチームに必要な選手を連れてくるだろう。へーネスは「イングランドでのような(監督とSDの両方をやる)マネジャーは、バイエルンに相容れない」と言っている。早々にSDが見つからなくても年末までにはどうにかするつもりのようである。候補に挙がっているのは、元バイエルン選手で現在ライプツィヒでSDを務めるマックス・エバール。優秀なスポーツディレクターがあまりいないことが嘆かれるドイツで、特にボルシアMG時代の仕事が高く評価されている。またはひょっとすると、今はまだ誰も思いつかない人物がやってくるのかもしれない。
7月末に東京国立競技場で川崎フロンターレとマンチェスター・シティと親善試合を行うバイエルンだが、その時までにある程度の補強が終わった、新しいバイエルンがお披露目になる。
リーグ11連覇達成でも解任 カーンCEO体制のバイエルンの綻びと後任への期待
バイエルンの選手たちがこれほど心から嬉しそうに優勝を祝っている様子は、久しぶりだったように思う。11年ぶりにドルトムントが王者になると誰もが思っていた最終節、マインツがドルトムントから2点先取し、一方のバイエルンも81分にケルンに同点に追いつかれ、混戦となるのを、他のスタジアムの観客たちもハラハラどきどきしながら見守っていた。
リーグ11連覇を達成したバイエルン (C)SVEN SIMON/DPA/共同