(前編)ラグビー体形とモデル体形

モデルデビュー?

 2012年に養成所を卒業し、私は某モデル事務所へ所属した。ブランドのファッションショーで颯爽と歩いている人や、ファッション系の雑誌モデルは一見ひょろひょろに見えるが、実は「私、脱ぐとすごいんです」系の細マッチョな人が多い。

 私も細マッチョだったので、モデルとしてやっていけるだろうと漠然と考えていたのだが、現実は甘くなかった。もらえたのは、パーツモデルの案件ばかり。通信関連のCMでスマートフォンを持つ手をクローズアップされたり、紳士靴のカタログでスーツに似合う靴をはいて、カフェかどこかで足を組んでくつろいでいる足元にフォーカスを当てたり……細マッチョとは無縁の仕事が続いた。

 スポーツに全力投球していた時は、筋肉をフル活動させるために毎日欠かさず体幹トレーニングを行っていたが、生活の変化、またモデルの仕事で筋肉を思いっきり使うことがなくなったため、ほぼやらなくなった。

魅せる筋肉のために

 ただ、モデルは見た目勝負。「使う筋肉」から「魅せる筋肉」が必要と考え、身体作りを根本から変えていった。ポイントは「大きくして引き締める」だ。たとえばメリハリのある身体を作るために欠かせない大胸筋は、全体というより、例えば、上部を狙って鍛えるなど、パーツを明確にしてから、ダンベルを持って、鍛えたい部分に意識を集中する。毎日欠かさずではなく、回数をわけて、鍛えたいと思ったら鍛えるというやり方をお勧めしたい。ダンベルは1、2、3kgと用意して、そのときの気分や身体の状態にあわせてチョイス。自分は特にどう見せたいかに主軸を置き、ストイックにやるということはしなかった。

 あとは、くびれを作る、腹筋を鍛えるなど一般の人にも認知が高くなったプランクも取り入れていた。プランクとはうつ伏せになった状態で前肘、腕、つま先を地面につけ、身体を地面と水平にした状態でキープしたり、左右に動いたりといったトレーニング。これは間違ったやり方かもしれないが、テレビを見ながらの〈ながらトレーニング〉をしていた。あくまで自分の気分で、気軽にやるをモットーとすることで続けられたのではないかと思う。

 子供のころから太りづらい体質だったものの、学生時代よりも運動量が減ったこともあり、肉、特に鶏肉メインでご飯は食べない、間食もしないと決めていた。

バーテンダー、ふたたび

 モデルの仕事は充実し、楽しい日々だったが、将来的にモデル1本で食べていけるかどうかは定かではなかった。人生を逆算したときに、30歳くらいまでにはこうありたいという漠然とした理想像もあったので、興味の矢印を戻すことにした。アルバイトで続けていたバーテンダーを極めようと決意して、モデルはスパッと廃業。
 
 バーテンダーはご存じのように夜の仕事。日中はほぼ寝る、昼夜逆転の生活だ。トレーニングはおろか運動も、ほぼ皆無。とはいえ、太ってしまっては本末転倒。私はモテたかったのだ。

 なるべく階段を使ったり、歩くようにしたり、趣味程度に週末、フットサルに参加したりといったことをしてなんとか体形をキープした。
 
 身体の半分だけを鍛えれば済むのが、バーテンダーのいいところ。カウンターの中にいるため、下半身はしっかりと隠れている。使う筋肉から見せる筋肉、そして隠す筋肉といえば聞こえはいいだろうか。バーテンダーは黒っぽい服を着ることが多いため、シュッとして見えるというのも幸いした。

 テニスでラケットを振りまくっていたおかげで腕はかなり逞しく、シェイカーを振ると、筋が浮き上がり、自分的にはかっこいいと思っていた。わざわざ腕まくりをして、目の前にいるお客様に披露する、なんてこともしていた。今となっては恥ずかしい。

カロリーが気になるなら、薬草系リキュール

 お酒を飲みすぎると、お腹周りがよく育つ。ビールは言うに及ばず、やはりカロリーが気になるところではないだろうか。私は、薬草系のお酒をよく飲んでいた。特に気に入っていたのが、フランスの〈シャルトリューズ〉だ。
 
 伝承によると1605年から伝わる歴史あるリキュールで、リキュールの女王とも呼ばれている。ブランデーをベースとし、シナモンやナツメグなど130種類以上ものハーブを加え、樽で熟成するところまでは公開されているが、詳細な製造法は公にされていない。

 薬草独特の香りはあるものの飲み口は爽やか。炭酸で割ると清涼感がありおススメだ。ジンジャエールやトニックウォーターになると糖分が入っているので、カロリーが気になる人は炭酸がいい。

 現在、バーテンダーは趣味程度に落ち着き、昼間務めのサラリーマン生活をしている。モデル時代、183センチで約64キロだった体重は、現在75キロ。体重も年齢も数字が増えてきた。同じように、賢さや優しさも身について増えているのであれば嬉しいのだけれど……

(前編)ラグビー体形とモデル体形

蓬莱泰宏

【語り手】兵庫県神戸市出身。1990年生まれ。父がラグビー選手だったことから、小学生からラグビーのクラブチームに所属。中学高校ではテニス部に所属し、大学時代は実業団でテニスをするが、モデルになるため、大学を中退し、上京。その後、モデルの養成所を卒業し、某モデル事務所に所属する。モデルの体形をいかしながら広告モデル、パーツモデルを経験し、バーテンダーの道へ。現在は一児の父でもあり、一般企業に勤務。