記憶に刻まれる世界一のパブリック

 ペブルビーチ・リンクスは西海岸の主要都市サンフランシスコから南へ約2時間のモントレー半島に位置する。1919年2月の開場。太平洋に面した美しい景観で風の影響を受けやすく、英国のリンクスを想起させる。〝世界のゴルフコース100選〟などでは必ず毎年上位にランクされており、「世界一のパブリックコース」とも称される。

 これまで、男子のメジャー大会は何度も開かれ、歴史的名勝負の舞台として人々の記憶に刻まれている。全米オープン選手権では1972年にジャック・ニクラウス(米国)、1982年にはトム・ワトソン(米国)と名選手が相次いで優勝。第100回記念の2000年にはタイガー・ウッズ(米国)が2位に15打の大差をつける衝撃的な圧勝劇を演じた。風が吹く際の難しさも同居し、コースは確固たるステータスを築き上げた。

 今大会の参加申し込みは史上初めて2千件を超える2107件が集まった。晴れて出場を果たした選手たちも軒並み、特別感を表現。例えば、渋野日向子は「何年も待ち望んでいた大会。この地に立てることを誇りに思います」としみじみ語った。日本ツアーでもおなじみの申ジエ(韓国)は2位と大健闘した。米ツアー11勝を飾っている35歳。近年はあまり米国での試合に出ていなかったが、4年ぶりに今大会へ参戦した。次にペブルビーチで全米女子オープンが開かれるのは2035年。それだけに、こう心境を吐露した。「最終日の朝、ここでラウンドするのは最後かもしれないので、いいプレーをしなければと思いました。ここで起きたことを全て覚えておこうと決めていましたし、永遠に忘れることはありません」。国際的に活躍してきた強豪にとっても別格の会場だった。

いざこざ絶えない男子の間隙

 注目度の高さは数字に表れた。米三大ネットワークの一つ、NBCが決勝ラウンドを生中継した。NBCによると、同局のプライムタイム(夜の高視聴率帯)に女子ゴルフのメジャーがライブで放映されるのは初めてで、関心の高さに由来する熱の入れようだった。NBCによると、最終ラウンドの平均視聴者数は158万人で、瞬間最多では220万人が観戦した。週を通しては平均で89万5千人が視聴し、昨年比118%とアップ。これは他の四つを含めた女子メジャーと比べても、米東部の人気コース、ノースカロライナ州のパインハースト・リゾートで実施された2014年全米女子オープン以来となる高い視聴率を稼いだ。

 この大会は賞金額も大きい。優勝したアリセン・コーパス(米国)は200万㌦(約2億8000万円)を手にした。4位の畑岡でも48万㌦余り(約6700万円)をゲットした。同じく米国ゴルフ協会が主催する男子の全米オープン選手権の優勝賞金額が360万㌦でまだ差はあるが、10年前と比較すると男子が144万㌦で女子は58万5千㌦と半額以下だった。増加率の割合という点で差は縮まっているといえる。

 全米女子オープン2勝を含めてメジャー通算7勝を誇り、日本でも知名度のある名選手カリー・ウェブ(オーストラリア)は大会前、いみじくもこう予言していた。「そこまで熱烈ではないゴルフやスポーツのファンでも、ペブルビーチのことを耳にしたことがある人は多いと思います。だから女子のトップ選手がペブルビーチをどのように攻め、コースがそれをどうはね返すか、ファンの興味を大いに引くと思います」。海外の男子では昨今、米PGAツアーとサウジアラビア政府系ファンドが支援するLIVゴルフの勢力争いが波紋を広げていた。その間隙を縫うように、女子はペブルビーチでのメジャーを成功させ、隆盛の誘発剤として大きな意義を見いだした形だ。

特別な場所で因縁のドラマ

 記念すべき大会で、コーパスはある意味で伝説的な優勝者となった。最終日に畑岡と最終組で回り、見事に逆転優勝を果たしたハワイ出身の25歳。かつて「天才少女」と呼ばれ、180㌢を超える長身から300㍎を上回るドライバーショットで席巻したミシェル・ウィーと同郷だ。しかも通っていた高校は、バラク・オバマ元米大統領も学んだホノルルのプナホウ・スクールで、ウィーの後輩に当たるという縁がある。

 今回はまた、結婚して名前が変わったウィーウエストにとって現役最後のトーナメントだった。予選落ちに終わったが、第2ラウンドの最終ホールを終えるとギャラリーから盛大な拍手を浴びた。15歳でプロ転向したときには、スポーツ用品メーカーのナイキ、日本のソニーと契約を結んだことも発表され、両社を合わせた契約金は推定1000万㌦で、大きな話題を呼んだ。圧倒的な飛距離を武器に男子の試合に積極的に挑戦したり、ナイキのPRでは先頭に立ったり。従来の常識を覆すような競技人生を送り、新時代の旗手として女子の市場拡大に一役買った。

 ハワイ出身2人目のメジャー覇者となったコーパスは、地元のヒロインに昔から憧憬の念を抱いていたという。「ずっとミシェルのことを見てきましたし、私にとっては大変偉大なロールモデルです。とても刺激を受けてきました。同じ大会に勝てたことはまだ信じられません」。そう、くしくも以前に高視聴率をマークした2014年大会を制したのがウィーだった。因縁に満ちあふれたドラマがスペシャルな場所で起きるところは、今の女子の勢いに起因するのかもしれない。今年のメジャーの残りは7月下旬のエビアン選手権と8月前半のAIG全英女子オープン。日本勢の活躍とともに、ペブルビーチの流れをくむ女子ならではの熱戦が期待できる。


高村収

1973年生まれ、山口県出身。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事