先日、Jリーグが調べた「夏場にどれくらい選手のパフォーマンスが落ちているか」というデータを教えてもらいました。

 すると8月は、(2月の値を0とした時に)1試合あたりの平均の総走行距離が7パーセント、ハイインテンシティ走行距離が18パーセント、スプリント回数は22.9パーセント、プレスの回数は20.6パーセント落ちているという数字が出ています。

 6月から9月の時期は選手がどんなにがんばってもパフォーマンスに影響が出ています。世界と戦うため高いインテンシティが求められている現在、はたしてこれでいいのかという疑問が湧きます。そしてこの暑さに関する話は別の問題の中でも取り上げられています。

 実は、このデータは「シーズン移行の検討について」という資料に掲載されていました。現在、Jリーグでは春秋制をこのまま維持するのか、あるいは秋春制にするのかという議論が続いています。まだ検討段階で様々な問題点を洗い出している最中ですが、サッカーのレベル向上という視点から言えば、このデータは大きな位置を占めるでしょう。

 この「シーズン移行」問題は、アジアサッカー連盟(AFC)がアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の日程を変更したため大きく浮上しました。ACLが8月にスタートして5月に決勝を迎えるような日程になったため、Jクラブはグループリーグの間とベスト16以降は別のシーズンのチームが戦わなければならなくなったのです。

 秋春制にすればこの暑さとACLの問題は解決できます。他にも現状のいくつかの課題は解決できるでしょう。たとえば海外移籍は、今までのように主力選手がシーズン途中でチームを離れることはなくなります。しかも日本でシーズンを半分、移籍先で1シーズン戦うのですから、移籍した選手が1シーズン半続けてプレーするという心配はなくなります。

 人材獲得に関しても、ヨーロッパと同じタイミングでの動きになるのはメリットがあります。これまでのようにオフ明けの選手が、シーズン途中で体ができている選手ばかりのJチームに加入することは避けられます。監督にしても、Jクラブが翌シーズンから監督を代えようと考えたとき、ヨーロッパのシーズン途中で探さなければいけなかったのですが、そういう難しさがなくなります。

 加えてJリーグの盛り上がりにも好影響が出そうです。日本代表が試合をする「インターナショナルマッチデー」はヨーロッパのスケジュールを中心に組まれていて、9月〜11月に多く設定されていました。そのため、Jリーグは終盤のデッドヒートが行われているときに代表ウイークで中断していました。これも解消できるでしょう。

 さらに今後の国際大会を考えたとき、現在の春秋制だと日程調整がより難しくなることも考えられます。たとえば2025年からは32クラブ参加のクラブワールドカップが4年ごとに開催され、AFCからは4年間のACLチャンピオンが参加します。またアジアカップは4年に一度ですが、おおよそ1大会ごとに東アジアと西アジアで開催されていて、東アジアの場合は6月〜7月ぐらいに、西アジアの場合は1月に開催されることが想定されています。

 そしてもちろん、ワールドカップが4年ごと、6月から7月にかけて開催されます。この国際大会の日程をすべてJリーグのスケジュールに入れ込まなければなりません。特に世界大会の場合、秋春制のヨーロッパの都合が考慮されるのではないかと思います。

 何より、現在世界のサッカーシーンの中心であるヨーロッパと合わせることでスケジュールの感覚も世界基準に近づけるのではないでしょうか。そういうことを考えても「秋春制」は検討せざるを得ないでしょう。

 現在、Jリーグは、
(1)現状のままでシーズン移行しない案
(2)現在のシーズンオフ(12月上旬〜翌年2月下旬)の期間をそのままウインターブレイクにする案
(3)12月中旬〜翌年2月中旬をウインターブレイクにする案
の3案を、各クラブが4つの分科会「フットボール分科会」「降雪地域分科会」「事業・マーケティング分科会」「経営管理分科会」のどれかに分かれて調査しています。

 移行する場合として6シーズン分を1サイクルとした6年分(2026―27シーズンから2031―32シーズンまで)の具体的な日程を国際大会まで考慮して組んでみて、積雪地域のクラブはどの程度日程に影響が出るか、ミッドウイークの試合がどれくらい増えるか、などのデータが出そろいつつあるようです。

 サッカーの部分ではメリットがありそうでも、たとえば降雪地帯のクラブはウインターブレイクのときにどうなるのか、新卒の選手はいつから加入するのか、スポンサー企業の会計年度とシーズンが一致していないことはどうなるのか、などの検討も進んでいるということでした。

 すべての問題について丸く収まるかというと、きっとそんなことはないでしょう。いくつか妥協しなければいけないことは出てくると思います。そこでどうJリーグが舵を取るのか、難しい場面である事は間違いありません。

 ただ、僕は一つだけ強く願うことがあります。確かに「選手ファースト」は大切です。でもプロというのは見に来てくれるお客さんがあってこそのものです。ぜひ「見に行く人」の視線も大切に、この問題の結論を出してほしいと思います。

前園真聖

前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。