W杯日本代表に八村は代表不参加となったが、渡邊はメンバー入り。2022・2023年シーズンのBリーグMVPに輝き、現在人気爆発中の河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)や、アメリカのNCAA(アメリカの大学のトップリーグ)のネブラスカ大で、驚異のスリーポイントシューターとして活躍する富永啓生といった若手から、キャプテンの富樫勇樹(千葉ジェッツ)、馬場雄大、比江島慎(宇都宮ブレックス)といった選手ら精鋭12人が選ばれた。そして、率いるのが、東京五輪で女子日本代表を銀メダルに導いたトム・ホーバス監督。東京五輪後に男子日本代表の監督に就任して、約2年をかけて準備を重ねてきた。

 会場の沖縄アリーナで1次ラウンドに挑む日本は、8月25日にドイツ、27日にフィンランド、29日にオーストラリアと戦う。3カ国ともFIBA(国際バスケットボール連盟)ランキングが11位、24位、3位と、日本(36位)より上位で、特にオーストラリアは多くの現役NBAプレーヤーが選出されており、東京五輪では銅メダルを獲得するなど、経験豊富なメンバーも多い。日本にとってはかなり厳しい1次ラウンドが待ち受けている。1次ラウンドの結果を踏まえ、2次ラウンドでは上位と下位に分かれ、決勝トーナメントと合わせて、最終的に1位から32位まで順位を決めていく。

日本の大黒柱、渡邊雄太

 日本代表はW杯前に、東京・有明アリーナで最後の親善試合3試合を行った。いずれの試合も1万人を超える観客が集まった。8月15日のアンゴラ戦こそ、75対65で勝利したが、17日フランス戦は前半こそ食らいついたが後半に差を引き離され70対88、19日にはスロベニアを相手に68対103と完敗だった。スロベニア代表にはNBAスーパースターのルカ・ドンチッチがいる。ドンチッチの圧倒的なスキルの前に、日本代表は好き放題にやられてしまった。W杯1次ラウンドでの強豪国との対戦を前に、課題が目立ってしまった。

 さらに、日本代表をまさかのアクシデントが襲った。アンゴラ戦で、日本代表の大黒柱・渡邊雄太が右足首を捻挫し、フランス戦とスロベニア戦を欠場した。渡邊は代表合宿への合流が大会開幕1カ月前ということもあり、今回の親善試合では選手間のコンビネーションを高めたかっただけに欠場は痛かったが、既に練習を再開しており、本大会には間に合う見込みというのは不幸中の幸いだった。

 渡邊は2018年に田臥勇太(宇都宮ブレックス)以来2人目のNBAプレーヤーとなり、そこから5シーズンに渡ってチームを移りながらも、努力を重ねながら自身のプレースタイルをNBAに順応させながら、超人たちが集まるNBAの世界で生き残っている。ブルックリン・ネッツに所属していた昨シーズンは、渡邊の3ポイントシュートの成功率が44.4%とキャリアハイをおさめる活躍ぶりだった。身長も208cmとW杯の代表選手の中ではサイズがあるので、リング下のリバウンド争いでも重要だ。NBAの経験に加えリーダーシップも持ち合わせ、チームをまとめている。

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 19日のスロベニア戦後にコート上で行われた壮行会で、渡邊は1万人超の観客を前に大きな決断を語っていた。

「本番前にはなんとか治して万全の状態で臨みたい。16歳の時から代表活動に参加していて、13年間にわたって代表としてプレーしてきました。代表としての結果はなかなか残せなかった。このチームでパリに行けなかった場合、僕は今回で代表活動は最後にしようと思っています。それぐらい本気で今回の大会に臨んでいます。代表のユニホームを着て皆さんの前でもっと長い間プレーしたいですし、そのために沖縄にぜひ皆さんの力を貸してください」

 日本がW杯で勝利を手に入れるためには、この28歳の大黒柱の活躍が欠かせない。

攻撃の司令塔“2人のユウキ"

 日本代表の攻撃の司令塔を担うポイントガードを務めるのが、”2人のユウキ”。代表キャプテンの富樫勇樹(30歳)と河村勇輝(22歳)だ。共に167cm、172cmとバスケ選手としては低いながらも、圧倒的なスピード、たぐいまれな技術、勝負所で決めるシュート力、相手の意表をつくパスで観客を魅了する。

 富樫はBリーグ最優秀選手や天皇杯MVPなど数々受賞してきている。富樫の凄さは、ゲームの流れを変えるプレー、必要な時にやるべきゲームコントロールを実行できるところ。その富樫の長所は15日のアンゴラ戦で特に光った。第2Q、渡邊が負傷した直後、点差も23対33と10点差に開いてしまい、アリーナ全体に不穏な空気が流れていた。そこへ富樫がスパッと悪い流れを絶ちきるかのようにスリーポイントを決めた。

 また、第4Qでは一時日本が8点差ものリードを広げていたが、アンゴラのペースになると1点差まで詰められた。タイムアウト後に、河村に代わって富樫が登場すると、その直後、時間を使いながらチームを落ち着かせ、そしてスリーポイントシュートモーション時に相手ファウルを誘った。富樫はフリースロー3本を獲得し、3本とも成功させた。ここから日本は息を吹き返し、勝利を手にすることができた。本人は「(2つのシーンについて)特に意識はしてなかった」と話したが、さすが富樫と感じさせるプレーだった。代表のキャプテンを担う富樫は、19日の試合後会見で、迫るW杯開幕に向けて静かに闘志を燃やした。

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「チームとして準備して、徐々に出来ている中で25日に臨みたい。今いるこのメンバーでベストを尽くして、アジア1位をチームとして目標を掲げている中で、パリ五輪への切符を掴むために戦っていきたい」

Bリーグ個人3冠、河村

 一方、河村は今日本で一番注目されているバスケ選手といってもいいだろう。福岡第一高校時代からその名を全国に轟かせ、全国大会で何度も優勝。高校3年の冬にはBリーグの特別指定選手として三遠ネオフェニックスに所属し、Bリーグの選手を前にしても圧倒的なスキルを見せ、当時話題となった。進学した東海大学でもインカレ優勝など活躍していたが、大学2年を終えて東海大学を中退し、Bリーグの横浜ビー・コルセアーズとプロ契約をした。

 その背景にあったのが、日本代表への渇望だった。今回のW杯、来年のパリ五輪に日本代表として出場することを目標とし、Bリーグ入り。初めてのシーズンフル参戦となった2022・23年シーズンは、公式戦で1試合30点以上を何度も記録し、キャリアハイの得点数を更新していった(最終的に、天皇杯準決勝の琉球ゴールデンキングス戦で1試合45点)。河村の年と言われるほどの大活躍を見せ、横浜ビー・コルセアーズのプレーオフ進出に大きく貢献し、河村はBリーグで最優秀選手、新人賞、ベスト5の個人3冠を受賞した。

 河村の恐ろしいところは、プレーそのものもそうだが、異常なまでの成長の速さと、一度やられた相手に次は修正して倍返ししてやり返す賢さ。リーグ戦では各チームが河村対策を引いていたが、1度は機能しても、その次には河村がそれを逆手に取ったプレーでチームを勝利に導いていた。また、日本代表には2022年2月に初選出されると、同年8月のイラン戦では圧巻のパフォーマンスを披露した。ホーバス監督からシュートを打てるシーンで打たなかったことを試合中に指摘されると、それまでアシストにこだわりがあった自身のプレースタイルを変え、シュートを積極的に打つようになり、得点マシーンへと変ぼうした。スリーポイントの精度も上昇し、ホーバス監督の求めるスタイルにもすぐに適応していった。

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 飛ぶ鳥を落とす勢いの河村だが、東京の3戦ではやや壁にぶつかった。これまでに無い、相手の高さ、守備の激しさに対峙し、スリーポイントの精度は落ち、素早いドライブで進入してペイントエリアまでたどり着いても、最後のシュートがことごとくブロックされた。

 ただ、19日のスロベニア戦後には冷静に現状を見据えていた。

「(スロベニアに大敗し)やはり危機感を持たないといけない。日本にとって相性の悪いチームで、30点差というところで自信をなくさないようにとは言われてますけど、そこはしっかり受け止めながらも勝てなかったという現実はしっかりと持って、その同等レベルのドイツ、オーストラリアとフィンランドと戦うわけで、良い試合でしたと終えられる大会ではないので、勝つためにあと6日間何をするか1日1日つめながらやっていきたい。とにかくスピードを(活かしたプレーを)40分間やり続けて、相手を後半に疲れさせるというのが僕たちのプランなので、そこはフィジカルの体力面もそうですし、クイックネスや遂行力が必要だと思う。(スリーの精度があがらないのは?)悔しいですね。そこに関しては実力不足かなと思うので、DFの部分で体を張って、そこの体力面で最後のシュートの部分で足が残っていないというのが一つの要因だと思う。それも一つの経験。これから世界でやっていくためには、ハードなDFだった中でもシュートも確実に決めていくというのが必要なスキル」

 W杯前の大敗も、河村の糧になったのは間違いない。スロベニア戦では、2日前のフランス戦より、ドライブからのシュートモーションやパスに工夫をして試しているシーンが見られていた。W杯で戦う強豪国にどう対応すれば良いのか、河村は既に適応し始めている。

和製ステフィン・カリー、富永啓生

 さらに、日本代表の勝利に間違いなく欠かせないのが、富永のスリーポイントだ。富永は、通常のスリーポイントシュートエリアより、さらに離れた距離から放つ”ディープスリー”を決めるポテンシャルを持ち合わせ、スリーの成功率も高い。そのプレースタイルから、バスケファンはNBAの名選手ステフィン・カリーになぞらえる。アンゴラ戦でスリーポイントを6本決めたが、特に圧巻だったのが第4Q。コートのコーナーのエンドライン際でパスを受け、相手選手からプレッシャーをかけられた。体勢を崩していたが、そのままスリーポイントを放つと、綺麗にリングを収めてみせた。あまりのプレーに観衆からはこの日一番の大歓声が爆発した。

「ショットクロックもないという状況で、またコーナーのコーナーで打つしか無いっていうのはありました。もちろん決まれば良いというのはありましたが、入って良かった。ああいうシュートが入ってくると調子が上がっていくというのはある」

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 富永と河村の若手コンビを、ホーバス監督は2人揃って出場させることが多い。アンダーカテゴリーの代表から共にプレーしているだけあって、コンビネーションは抜群で、河村のパスから富永がスリーを決めるといったシーンが何度も見られた。

「アンダーカテゴリー時代から一緒にやっているし、阿吽の呼吸というか、向こうも自分が欲しいタイミングがわかってくれているし、自分もどういうところで彼がパスしたいというのもわかっていますし、そこはやりやすい。彼からのパスから特に決めたいなと思いますし、プラス良いタイミングでここでシュートを打ちたいというところで来るので。特にU-18(18歳以下代表)のアジア大会でやりやすかった」(8月16日の公開練習後)

 若手2人の活きの良さが日本代表に活力を与えているのは間違いない。

「2人とも若くて経験がそれほどないんですけど、逆に何も失うものがないというか、若さと速さでやっていけるところが強み」

 W杯でも河村と富永のコンビからの得点が多く見られるはず。

会場中を笑顔にするビッグマン、川真田紘也

 日本代表はW杯前の東京での調整を前に、リバウンドの要として期待されていた渡邉飛勇(琉球ゴールデンキングス)が怪我でW杯出場が断たれてしまった。そのリバウンドの役割を東京での3戦で担ったのが川真田紘也(滋賀レイクス)だ。204cm、そして110kgという巨漢は、アンゴラ、フランス、スロベニアといった日本より高く強い相手選手たちに対し臆せず、リング下での勝負に挑み、相手のシュートを何度もブロックするなど、リバウンドでボールを取り続けた。良いプレーをした直後にミスをしたりと、まだまだプレーは粗い部分も見られるが、ホーバス監督は「この数週間で大きく成長した」と評価するほど。

「リバウンド、ボックスアウト、ディフェンスという、現時点ではこれを追及することが、今回の代表入りの近道だと思っていたので、今やっている泥臭いプレー、ハッスルプレーが代表に入る手段だった」

 そして、川真田の魅力は徳島出身、奈良の天理大学卒業と関西で培われたノリで、日本代表を盛り上げているところ。

 アンゴラ戦では相手を押さえ込んだら、両腕で力こぶを見せるマッスルポースをして観衆を喜ばせ、フランス戦ではNBAプレーヤーらを相手にひるまず、激しい守備やブロックで見せた。相手に激しい守備をして、ファウルを取られた際には「なんでやねん」というジェスチャーをして観客を笑いに誘っていた。川真田のプレーひとつひとつが見る者を楽しませていた。

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 川真田はフランスのような強豪相手にプレーできたことを自信に繋げていた。

「自分たちよりも技術も身体的にも向こうが上だったんですけど、気持ちの部分で負けたら終わりなので、そこは切らさずやれたのが良かった」

 マッスルポーズは「個人的に乗ってきたので、それに加えて盛り上げるといった話もあったので。また、一つのプレーじゃないところでの部分、ああいう盛り上げるのも大事だと思っていて、皆が盛り上がってくれるのであれば全然やります。(リーグ戦からやっていた?)あれからです(笑)。アドリブというか急で、盛り上げるためにノリでやりました(笑)」と川真田節も炸裂した。

 コートから遠い客席に座っても、川真田をコート上で見つけるのは簡単だ。川真田の髪の色がわかりやすいからだ。

 人気漫画「東京卍リベンジャーズ」のキャラクターになぞらえ”マイキー”と呼ばれる川真田は、滋賀レイクスではチームカラーの青色に染めたり、金髪にしたりと色を変えている。「(髪を染めたりすることで)目立つだけ目立った分だけ応援してもらえる。見られて知ってもらえて良かった」。ただ、何度も染めたりしたことで「髪が傷んでいて、こんな感じに髪クルクルですよ。パーマじゃないですよ。本大会向けに髪の色を変えたいな〜」と話していたが、沖縄入りした時には見事に赤色に染め直していた。プレースタイルからバスケ漫画の名作「スラムダンク」の主人公・桜木花道に例えられていたが、まさにその桜木カラーだった。

 本大会でも、コート上で一際存在感を放つ赤髪の川真田が見せるハッスルプレーで、大観衆に歓喜と笑いを与えてくれるだろう。

 2年前の東京オリンピックでは3戦全敗だった。今回のW杯でもドイツ、フィンランド、オーストラリア、いずれも現状の日本からすると格上で、3連敗も十分あり得る。厳しい戦いになるのは間違いないが、沖縄でのホームアドバンテージを生かし、なんとか1つでも多く勝利を届けてくれることに期待したい。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。