オリックスとヤクルト、両チームの明暗はなぜ分かれたのか? ヤクルトOBでセ・パ両リーグ、メジャーリーグで投手としてプレーした経験を持ち、現在は解説者やコメンテーターとして多くの媒体で活躍する五十嵐亮太氏に聞いた。

「ヤクルトに関していうと、やっぱり村上(宗隆)の不調っていうのが思いきり響きましたね。あとは塩見(泰隆)がいなかったことですね」

 昨年のヤクルトは、村上が日本選手では歴代最多の56本塁打を放ち、NPB史上最年少で三冠王になるなど、四番バッターとして神がかった働きで打線をけん引した。今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも準決勝で逆転サヨナラ打、決勝戦では同点本塁打を放つなど、14年ぶりの優勝に貢献したその「村神様」も、シーズンに入って苦しんだ。

「要因としては、やっぱりWBCの影響っていうのが少なからずありますよね。大谷(翔平、ロサンゼルス・エンゼルス)だったり、いろんな選手と会って話をして、自分が今後どういう選手になっていくかっていうところを考えて、何か変化を加えたかったと思うんです。その中で段階を踏んでというよりは、ちょっと大きく変えようとしすぎたのかなって僕は思っていて。方向性は悪くないと思うんですけど、その過程で今まで積み重ねてきたものを若干崩してしまって、それを戻すのに時間を費やしてしまったっていうところですね」

 さらに一昨年はベストナイン、昨年はゴールデングラブ賞に輝くなど、主にリードオフマンとして連覇の立役者の1人になった塩見が、今春のキャンプ中に下半身のコンディション不良で離脱。5月初旬に復帰後も、2度にわたって登録を抹消された。この塩見のみならず、今年は過去2年に比べてコンディション不良などによる選手の戦線離脱が目立っている。

「中村(悠平)、山田(哲人)、オスナ、サンタナも抹消があったり、結局は(レギュラーが)全員揃ってるっていうことがほとんどなかったんですよね。長岡(秀樹)ももうちょっと成長してくるかと思ったら伸び悩んだり、しっかり戦力が整った状態で戦えたかっていうと、それができなかった。じゃあ揃わないときにどうにかできる層の厚さがあるかっていったら、そうではなかったということですよね」

 オリックスも、メジャーリーグに移籍した主砲の吉田正尚(現ボストン・レッドソックス)の穴を埋めるべくFAで獲得した森友哉が、ケガのために2度にわたって離脱。一昨年の本塁打王であり、今季も開幕戦で四番に座った杉本裕太郎も、8月には2度の二軍調整を余儀なくされるなど、必ずしも常にベストのメンバーで戦ったわけではない。

 それでも中嶋監督は選手の状態を見極めながら「日替わりオーダー」を組むなど、柔軟に起用。昨年までは通算167試合の出場で打率.228ながら、今季はいきなり首位打者争いを演じている頓宮裕真の台頭もあって、チーム打率はリーグトップを記録している。

「そこがオリックスはすごいなと思いますね。中嶋監督が選手や打順の入れ替えをあれだけやってそれが比較的うまくいったのは、まずは選手の能力を把握してるっていうところだと思うんですよ。選手って、自分の役割を理解するかしないかで成績が大きく変わってくるんですけど、そういった意味で言うと選手も監督の野球をしっかり理解していたのかなっていうふうに思いますね。あとは頓宮が出てきたのも大きかったです」

 もっともオリックスの最大の強みは、何といっても投手陣。昨年まで2年連続沢村賞、今年もハーラーダービーのトップを独走する大エースの山本由伸と、3年連続2ケタ勝利の宮城大弥を中心とした先発陣に、39歳にして29セーブ、防御率1.13の平野佳寿ら防御率1点台がずらりと並ぶ救援陣。さらに昨年まで一軍登板ゼロの山下舜平大が9勝3敗、防御率1.61、昨夏に支配下登録された東晃平も7月の終わりから先発に回って6勝0敗、防御率2.06と、こちらでも新戦力の台頭が目覚ましかった。

「山本と宮城の存在が本当に大きいです。彼らがいれば大きな連敗はないですから。そこに今年は山下舜平大とか東が出てきた。だからオリックスにはそこまで突出したバッターはいないかもしれないですけど、突出したピッチャーが何人もいるんですよ。ヤクルトにはそういうピッチャーがいない。そこの違いは大きいですよね」

 今季のヤクルトのチーム防御率は、両リーグでもワースト。開幕投手を務めた小川泰弘が自身にとってもチームにとっても3年ぶりの2ケタ勝利を挙げたものの、先発、救援ともに誤算が相次いだ。

「今年は高橋奎二が相当やってくれるんじゃないかとか、奥川(恭伸)が(右ヒジのコンディション不良から)戻ってこられるんじゃないかって思ってたら、そうはならなかった。(昨年まで抑えだった)マクガフの穴は田口(麗斗)で埋まったけど、その田口の穴が埋まらないとか、去年は頑張っていた中継ぎ陣がちょっと疲れてきたっていうことを考えると、ヤクルトは投手陣の整備が今後も大きな課題になってきますよね」

 その課題を克服するために必要なのは「改革」。現場だけでなく、組織として「変わっていかなければいけない」と五十嵐氏は指摘する。

「オリックスの場合は、光の中にまた光が見えてきたっていうところですけど、ヤクルトは負けてる中にも何か光が見えるかっていったら、今のところ見えてないです。若い投手がなかなか育ってこないし、そういう意味では編成、スカウティングもそうだし、二軍の育成、環境面も含めて、いろいろと見直さなければいけないのかなっていうふうに思いますね。チームとして変えていかないといけない部分が見えてきたのかなと思います」

 今季までの5年間で6位→6位→1位(日本一)→1位→6位と、順位を激しく上下動させているヤクルト。球団初のリーグ3連覇の夢破れ、あらためて黄金時代の構築を目指すべく「変わる」ことはできるのだろうか。
(文中の今季成績、順位等は10月4日17:00時点)


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。