全日本新人王戦は今回で70回目を迎える由緒ある大会。新人時代にこのトーナメントに出場し、のちに世界チャンピオンに出世した例も数多い。新人王トーナメントが「チャンピオンへの登竜門」と呼ばれるゆえんである。

浪速のロッキージュニアが参戦

 往時ほどでないとはいえ、4回戦ボーイたちが熱戦を繰り広げる新人王戦はトーナメントが進むにつれて盛り上がっていく。そうでなくとも、試合のたびにメディアに取り囲まれるミドル級の赤井英五郎(帝拳)のような人気者もいる。

 赤井は、いまはタレントとして活躍する赤井英和さんの長男。父がかつて「浪速のロッキー」として一世を風靡したプロボクサーだったことをご存じの方もいるだろう。

 「自分の可能性を確かめるため」に赤井がボクシングを始めたのは、20歳を過ぎてから。アマチュアで14戦こなし、全日本社会人王者になったこともある。しかし2021年9月のプロデビュー戦は黒星スタートだった。東日本新人王戦の予選を兼ねた試合で、相手の先制攻撃にやられて初回TKO負けを喫した。

 翌年(2022年)も新人王トーナメントにエントリーした赤井は、初戦でマッチョパパ一基(協栄新宿)を打ち合いの末、右アッパー一発で倒す。記念すべきプロ1勝目を手にした。しかし次戦では元キックボクサーの左右田泰臣(EBISU K’s BOX)に4回判定負けで決勝進出を逃した。

 この時28歳、4回戦ボクサーとして決して若くはなく、ボクシングに見切りをつけてもおかしくはなかったが、赤井はまだあきらめなかった。1年近く待ってみたび新人王トーナメントに挑んだ。

 今年の7月、鈴木輝(宇都宮金田)と対戦した赤井は初回1分21秒TKO勝ち。トーナメントを勝ち上がり、続く9月15日の準決勝は伊吹遼平(三迫)を3回TKO。三度目の挑戦にして初めて東日本トーナメントの決勝戦に駒を進めた。

 毎試合メディアに注目される4回戦は異例だが、赤井の場合は父が有名人という話題性はあるにせよ、その試合ぶりがプロとして受けていることも見逃せない。学生時代にアメフトに熱中していただけあって見事な体つきをしており、何より攻撃的なボクシングをする。まだディフェンスに不安はあるものの“ファイト”で観衆をわかすことができるところは父そっくりである。

あの“格さん”の孫も参戦

 先の準決勝は見ものだった。相手の伊吹(1勝1KO)がこちらも祖父が『水戸黄門』の格さんでおなじみの俳優、伊吹吾郎。そして赤井同様にパワフルなボクシングをする。盛り上がらないはずもない。

 ムキムキの体をした二人は互いに初回から激しくパンチを繰り出し、早々に場内にファンの喚声が上がった。伊吹がフィジカル面を活かして押し込んでいき、下がる赤井に右を当ててダウンを奪う。赤井にとってはボクシング生活初のノックダウンだった。

 先制された赤井はこれにめげず、すぐさま反撃に転じる。アッパーやフック、ボディーブローも交えてパンチを放ち続け、形勢を逆転した。伊吹も抵抗したが徐々に失速し、迎えた3ラウンド、赤井の攻勢シーンでセコンドが棄権を申し出た。

 ダウン挽回の勝利にはリングサイドで観戦した父の英和さんも「気持ちの強さが出たと思う」と満足気。赤井はこれで3勝3KO2敗とし、プロ戦績も勝ち越しに持ち込んだ。

 ところで、赤井はプロボクサーと同様に映画監督の顔も持っている。アメリカに留学中に映像制作について学んでおり、すでに初監督作も昨年公開された。父を題材にしたドキュメンタリー映画でその名も『AKAI』。「浪速のロッキー」こと赤井英和のドラマチックな現役時代の膨大な映像の中から、英五郎が切り取って編集しスクリーンに蘇らせたものだ。

 赤井英五郎が今後どのようなボクサー人生を歩むのか興味深い。もっとも口のほうは、現役時代の父が歯に衣着せぬ発言をよくしたのに比べ、「自分のペースで強くなっていると思うし、次の試合も強くなったところを見せられるよう頑張りたい」といたって謙虚だが……。


VictorySportsNews編集部