あっさりと迎えた“終戦”
今季掲げたスローガンは「横浜頂戦」。就任3年目を迎えた三浦監督のもと、DeNAは1998年以来のリーグ優勝、日本一を強く意識してシーズンに臨み、例年になく優勝候補に挙げる評論家も多かった。開幕直前には2020年にメジャーリーグでサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)に輝いたトレバー・バウアー投手の獲得を電撃的に発表するなど戦力も充実。機は熟したかに思われた。事実6月には球団初の交流戦優勝を果たし、同月末には阪神に横浜スタジアムで同一カード3連戦3連勝。最大6.5ゲームあった差を逆転して首位に浮上するなど、序盤は確かな結果で、その高まる期待に応えていた。
しかし、ここから状況は暗転した。8勝13敗1分けに終わった7月を経て、その後も序盤の勢いを取り戻せなかった。生え抜き監督としては初の2年連続Aクラス入りを果たしたものの、優勝した阪神とは12ゲーム差。シーズン当初の目標、期待は高かっただけに、“終戦”を迎えた三浦監督の口からは悔しさ、反省の言葉ばかりが並ぶ結果となってしまった。
何がDeNAの悲願達成を阻んだのか。とにかく目立ったのが、負けられない試合での勝負弱さだ。冒頭のCSでは1勝も挙げられず。勝てば2位で横浜スタジアムでのCS開催を決められた10月4日の巨人戦(東京ドーム)では12連勝中だった東克樹投手を先発に立てながら、0-1で敗戦。7月の不調を乗り越え、巻き返しを期した8月4日からの阪神との3連戦では3連敗。8月26日からの首位・ヤクルトとの3連戦で3連敗を喫して7ゲーム差に広げられ、優勝の可能性がほぼ消滅した前年と同様に、”ここぞで勝てないDeNA“という印象は結局今季も拭えなかった。
その原因はさまざまだろう。監督の采配や選手の起用法、作戦面への批判もSNSなどでは散見される。ただ、主観が入る要素をいくら議論したところで答えが出ないのも事実。ここでは客観的なデータからDeNAの”勝負弱さ“の要因を分析する。
数字に表れる打撃面の課題
何より、大きな理由の一つに挙げられるのが「1点を取りにいけない攻撃」だろう。先述した、勝てば2位を決められた10月4日の試合では、8回1失点と完璧に近い投球を見せた東を打撃陣が見殺しにし、巨人・山崎に2安打完封を許した。ただ、この試合でも決してチャンスが皆無だったわけではない。九回には先頭で代打・楠本泰史外野手が安打を放ち、続く代打・柴田竜拓内野手は相手のエラーで出塁。無死一、二塁と最後の最後に大きな好機を迎えた。ところが、続く林琢真内野手がバントを失敗して走者を進められず、関根大気外野手、藤田一也内野手も倒れてゲームセット。まさに、ここぞで得点できない今季の象徴ともいえる光景が、レギュラーシーズンの最後の最後にも表れた。絶不調に陥った7月も打率.208と攻撃陣が低迷し、22試合で54得点しか挙げられなかったことが”足かせ“となった。
DeNAの今季犠打数は阪神と並ぶ2位の106(トップはヤクルトの115)と多い。ただ、犠打の企図数は142とリーグトップで、成功率.746はワースト。つまり、最も犠打を多用する作戦を取っていながら、その成功率は最下位ということ。選手の技術、意識が伴わなければ、いくら堅実な攻撃を三浦監督が掲げようと意味がない。成功率.889でトップの広島を筆頭に、他チームがいずれも8割を超える中、唯一の7割台かつ中盤では、拙攻が目立つ印象になるのも無理はない。チーム打率がリーグ2位タイの.247、本塁打が同3位の105、さらに首位打者(宮崎敏郎内野手)と打点王&最多安打(牧秀悟内野手)と打撃の計3部門でタイトルを獲得した選手を擁しながら総得点はリーグ4位の520に甘んじる要因として、このかみ合わない攻撃があるのは、間違いないところだろう。
攻撃面では、走力不足も目立つ。盗塁数が最少の33であるだけでなく、成功率が.559とリーグ最低なのだ。トップのヤクルトが.756、2位の阪神が.731を記録するのに対して、かなり低い数字。こちらは企図数も59と最少で、最多128の広島、続く108の阪神とは大きな差がある。足に怖さがなければ、相手投手は打者に集中できる。10月14日のCS初戦、広島は1-2の八回に先頭打者が四球で出塁すると、代走・羽月隆太郎内野手が犠打で二進。続く菊池涼介内野手への初球でスタートを切り、三盗を決めるとスクイズで生還し、同点とした。DeNAにとっては、まさに”足の力“を見せつけられる展開。この試合でサヨナラ負けを喫したことで、日本一の夢は大きく遠ざかった。
セイバーメトリクスの観点では、本塁打と犠打を除いた打球が安打になる割合を表すBABIPに注目したい。DeNAの.279は.307でトップの阪神に大きく差を付けられたリーグワースト。DeNAを除けば阪神、広島、巨人、ヤクルト、中日と最終順位と同じ並びになっているだけに特異性が際立つ。一般的にインプレー打球の30%は安打になるといわれるだけに、低い数字であるのも確かだ。
打者のBABIPが表す要素として主に挙げられるのが「打球の強さ」「足の速さ」だ。強い打球を打てて、足の速いソフトバンク・柳田悠岐外野手が毎年高い数値を記録しているところにも、それは表れている。DeNAの課題の一つが走力にあるのは先述した通りだが、本塁打に頼った攻撃になっていることが、この指標からも見て取れる。進塁打や一つ先の塁を目指す走塁など、石井琢朗チーフ打撃コーチのもとで進めてきた意識改革も、まだまだ道半ばと言わざるを得ない。
痛かった”勝利の方程式“の崩壊
投手では、やはり「勝利の方程式」の崩壊が最大の誤算だった。昨季37セーブを挙げ、6年の大型契約を結んで残留した山崎康晃投手は20セーブを挙げたものの7敗を喫して防御率4点台。7月に抑えから中継ぎに配置転換され、終盤戦で2軍調整となったまま、1軍に再昇格することなくシーズンを終えた。昨季両リーグ最多の71試合に登板し、防御率1.72をマークした伊勢大夢投手も6敗、防御率3.22と苦しんだ。昨季3敗の山崎、同2敗の伊勢で計13敗。森原康平、ウェンデルケン両投手の奮闘で、逆転負けこそ昨季の15試合から9試合に減ってはいるものの、昨季八、九回を担ったリリーフエースを投入した競り合いで13もの試合を落としたのは、あまりに痛い事実。東、バウアー、今永昇太投手ら盤石の先発陣も、やはり信頼して試合を預けられる救援陣がいなければ活きてこない。
DeNAは10月23日、来季のコーチ人事を発表し、ゲームアナリストを務めた靏岡賢二郎氏をオフェンスコーチ、同じく大原慎司氏をチーフ投手コーチとし、データ分析に定評のある小杉陽太2軍投手コーチを1軍に配置転換。データ戦略を重視する姿勢を明確に打ち出した。さらに、相川亮二チーフ作戦兼バッテリーコーチをディフェンスチーフ兼バッテリーコーチとし、石井琢朗チーフ打撃コーチを走塁コーチ兼務とする改革も実施した。三浦監督は「チームとしてオフェンスとディフェンスをはっきりと分けて対策をやっていく。走塁も攻撃の枠に入れて今年以上に意識して強化する」と、その意図を説明。DeNAもチームとして、そんな課題は百も承知とばかりに克服に取り組む姿勢を見せている。
来季への戦いは始まっている
牧、宮崎、佐野に加え、来季はオースティンの復帰も期待され、ドラフトではアマ球界ナンバーワン野手の評価を受ける度会(ENEOS)の交渉権を競合の末に獲得。投手陣は今永やバウアーの去就が流動的ながら、大貫晋一、平良拳太郎、浜口遥大の3投手ら今季実力を発揮しきれなかった投手が控えている。ただ、そうした個の力を生かすも殺すも、チームとしての戦略次第。そして、しっかり犠打を決めること、走塁への意識を高めることなど、基本をしっかり徹底できなければ、データ分析も、立派な理論も、机上の空論に過ぎないことは、今季の結果が証明している。逆にいえば、道筋ははっきりしているということ。明確に数字となって表れている弱点を克服できれば、今度こそDeNAは、あの2文字に大きく近づけるはずだ。