今年の神戸は印象的でした。楽天を母体として豊富な資金力を背景に補強を続けてきた成果が出たと思います。チームを構築していく中で、最初はベテラン勢ばかり目立っていたのが、若手が次々に成長してきたことがこういう結果に結実したと言えるでしょう。補強したといってすぐに優勝できるかというと、トップリーグではなかなか難しいことです。神戸も時間をかけて調整したからこそ、頂点に立てました。

 2017年以降は川崎フロンターレと横浜F・マリノスという神奈川勢が6年連続でタイトルを獲得していました。2014年のガンバ大阪以来の関西勢優勝で、サッカー界にも新しい風が吹いてくれるものだと思います。

 そして神戸の優勝は、アンドレス・イニエスタがシーズン半ばでチームを去った後に達成されたというのがサッカーの2つの面を表していると思います。

 イニエスタは2018年5月、長年過ごしたバルセロナを離れて神戸にやって来ました。約32億円と言われた高額年俸が大きな話題になりましたが、2010年南アフリカワールドカップの決勝で決勝点を挙げ、マンオブザマッチに選ばれたスターは、その名にふさわしい活躍を見せてくれました。

 惜しむらくは、キャリアの終盤に日本へやって来たことです。日本のサッカーそのものがスピーディーですし、近年は余計にゲームのスピードも上がっているので、監督としたらどう使うのか難しかったと思います。

 ですが、イニエスタはそれ以上のものをもたらしてくれました。日頃の練習から一緒にプレーすることで若い選手はお手本を目の前に世界基準を学べたでしょう。また、生活面なども見て参考にできたと思います。

 実は試合のプレー以上にそういう部分での影響がチームにとって大切なのです。イニエスタは間違いなく、最高の先生だったはずです。

 ただし、イニエスタから学んだにしてもその効果が出るまでには時間がかかります。覚えたからからすぐにできるというものでもないですし、チーム全体がどう底上げされるかということのほうが試合を戦っていく上では重要になります。

 イニエスタが来てから移籍していくまで5年ありました。その間に多くのことが神戸に浸透したことでしょう。みんなが消化できたからこそ優勝できたのだと思います。ですが、そのときにはもうイニエスタは出場機会を減らしていました。

 ですから、イニエスタがいたから優勝できたとも言えるでしょうし、いなくなったあとに優勝したのも理解できます。そんなサッカーの2つの面が詰まっていたと思います。

 そしてJ2ではFC町田ゼルビアが初優勝、初昇格を達成しました。町田もサイバーエージェントを後ろ盾にして積極的な補強を行いました。去年までとはまるで別のチームになりましたが、そこを黒田剛監督がうまくまとめたと思います。

 これまで高体連の経験しかなかった黒田監督が、就任してすぐに結果を出したことは、他のクラブにこれまでと違う発想方法を与える役割を果たしたことでしょう。

 これまでJリーグの監督は、まるで「持ち回り」でやっているかのように見えたのではないでしょうか。どこかのチームで解任されたり辞任したりした監督に、すぐ次のチームが声をかけ、同じ監督がどんどんクラブを変えながら指揮しているように世間の目には映っていたと思います。

 もちろん監督を選ぶに当たって、どのクラブも監督の実績や目ざすサッカーがチームに合うかどうかという調査は行われていたことでしょう。ですが町田のように、高校の先生にチャンスを与えてみるというクラブは少なかったはずです。

 町田の成功を見て、監督を選択するときの幅が広がったことだと思います。今後は、監督候補が若かったり、経験が少なかったりあるいはなかったにしても、その人の能力を見てチームを預けてみるというクラブが増えてくれればと思います。

 そして神戸と町田というように、サッカーにしっかり投資してくれたクラブが高成績をあげたというのは非常に健全だと思います。資金を投下すれば結果が出るという実績は、投資に対する意欲を上げてくれるはず。

 これでサッカー界にさらに資金が投入されるようになれば、Jリーグ全体のレベルも上がるでしょうし、面白さが増します。そして自国リーグのレベルが上がり続けることで、日本のワールドカップ優勝も見えてくるはずです。そんな夢を見せてくれたのが、今年のJ1とJ2の優勝チームでした。


前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。