「横浜進化」をスローガンに掲げて臨んだ今季は開幕から2連勝するなど、まずまずのスタートを切った。エース今永が米大リーグ・カブスに移籍し、昨季10勝のバウアーはメジャー復帰を目指して退団。先発の両輪が抜けた中でも、昨季最多勝の東が変わらず安定感を示し、ドラフト5位新人の石田裕、新外国人のジャクソンやケイが奮闘するなど穴を埋める新たな戦力も台頭した。昨季球団初の優勝を飾った交流戦では今季も同じく11勝7敗と勝ち越し、前半戦を3つの貯金で終えて、優勝争いの一角に踏みとどまってきた。

 しかし、その戦いぶりは、まさに「踏みとどまってきた」という表現が適当なものでもあった。救援陣は、これまで勝ち継投を担ってきた伊勢、ウェンデルケン、山崎、上茶谷らがけがや不調で離脱。その中で、坂本が34試合(昨季13試合)、徳山が29試合(同0試合)、中川虎が31試合(9試合)、新外国人のウィックが28試合、京山が21試合(同0試合)に登板し、つないできたが、7月に入って疲れが見え始めた。

 首位攻防戦として迎えた7月12日の巨人戦(東京ドーム)では、3番手・坂本と続く京山が打たれて逃げ切りに失敗。同21日のヤクルト戦(神宮)では延長十一回、7-5とリードしながら坂本がつかまり、逆転サヨナラ負けを喫した。昨季まで勝ち継投を担ってきた救援投手で、今季も万全なのは守護神の森原くらい。シーズンを通して投げ抜いた経験のない若手にとって、酷暑に見舞われた夏の戦いは厳しいものとなった。

 救援投手の防御率3.04はリーグワースト。最下位のヤクルト(2.91)を含めて、他のチームは全て3点未満で、首位広島に至っては1.92と圧巻の数字をマークする。先発陣のクオリティスタート(QS)率も55.05%と最下位のヤクルト(42.59%)に次ぐリーグ5位で、広島が69.52%とほぼ7割の数字をたたき出しているのとは対照的。それが、そのまま現在の順位になって表れている。逆転負けが既に昨季と同じ24試合を数えている点からも、苦しい台所事情は明らか。前半戦こそメンバーを一新して踏ん張ってきたが、経験の浅い救援陣にとって負荷が“限界”を迎え、いよいよ勢いが失われていったことがデータからも分かる。

 打線はリーグトップのチーム打率.253、リーグ2位の75本塁打と今季も破壊力を見せつけている一方で、チームとしての攻撃には、ややちぐはぐさが見える。DeNAの昨季犠打数は阪神と並ぶ2位の106(トップはヤクルトの115)だった。しかし、今季は54と大幅減でリーグ最少。総得点がリーグ4位だった反省からか、成功率が.746とリーグワーストだった犠打による攻めからの転換を図ったことが数字からはうかがえる。対照的に大きく増えたのが盗塁数。リーグ最少の33だった昨季から、今季は既に昨季を超える50を記録しリーグトップに立つ。オリックスと楽天でコーチを歴任した佐竹学氏を走塁担当のアナリストに招き、キャンプでも「次の塁を狙う」意識を徹底してきた成果がはっきりと見える。

 ただ、総得点が昨季のリーグ4位(520)から同2位(376)と相対的には浮上しているものの、1試合あたりの得点率自体は3.64から3.45に低下。昨季12だった無得点試合も既に11を数える。球界全体で昨季よりも投高打低の傾向が顕著なシーズンだけに、単純な比較はできないが、数字上は盗塁数増が得点力アップにはつながっていない。オースティンが顔に打球を受けて離脱した球宴後の6試合で計8得点しかできず全敗した点も象徴的だった。昨季不在だった筒香がシーズン途中で米大リーグから復帰し、けがで昨季22試合の出場で本塁打ゼロだったオースティンが本塁打王争いを演じる中でも、得点率が下がってしまっているのが現実だ。

 もう一つ、チームの課題として挙げられるのが守備面。8月18日の巨人戦(横浜)のワンシーンに、それが表れていた。1-0で迎えた八回、1点を何としても守り切りたいところで二死一塁から坂本に三塁右を破られ、一走の吉川尚に悠々と生還を許してしまったのだ。三塁手・京田は三塁線を固め、左翼手・佐野が右寄りに守っていた点は定石通りで、首脳陣の指示に何ら問題はないように見えた。しかし、左翼からの返球が中途半端で中継プレーがうまく機能しなかった点が問題だった。精いっぱいのプレーだったかもしれない。中継プレーが完璧でもタイミングは際どかったかもしれない。ただ、少なくとも楽々と生還を許してはいけない場面ではあった。

 日本ハムの新庄監督は、走者がいない場面でも正確で緊張感のある送球を外野手に求め、守備力を大きく改善させた。こうした部分は常日頃から徹底しないと、いざというときの質は向上しないもの。さきの巨人戦は最終的に延長戦の末、勝利を収めたものの、リーグ最多の72失策に加え、「エラー」として記録されない部分も含めた守備面は、ベイスターズが優勝を目指す上でアップデートしなければならないポイントといえる。

 とはいえ、3位阪神とのゲーム差は3.5と、まだまだ3年連続のAクラス、ポストシーズン進出は十分に現実的な目標であるのは確か。ここからは激しいAクラス争いを勝ち抜く上で、ポジティブな要素を挙げていきたい。

 まずは救援陣。後半戦でウェンデルケン、山崎、伊勢が復帰。昨季まで「勝利の方程式」を担ったメンバーが戻り、先発が六、七回まで投げ切れば、計算ができる陣容が整いつつある。8月18日の巨人戦(横浜)では、その3人と調子を上げつつあるウィック、森原で最少失点と踏ん張り、勝利をつかんだ。続々と実力者が復帰し、ブルペンは確実に安定感を取り戻しつつある。

 野手もオースティンに続いて筒香が復帰。「存在自体が特別」と三浦監督が信頼するように、勝利へ妥協を許さないスターの姿勢はチームの推進力となる。守備面は、走者がいない場面でも雑にならず強く正確に投げるといった決まり事をつくるなど、首脳陣が「凡事徹底」を言語化して明確に伝えることで、ある程度の備えはできるはずだ。

 そして、三浦監督の采配にも、ここにきて“変化”が見える。まずは勝負師としての顔だ。8月20日の中日戦(横浜)では、不安定な先発・大貫を、あと1つアウトを取れば勝ち投手の権利を得られる四回二死から温情をかけることなく交代。右肩の炎症から復帰した中川颯が満塁のピンチを無失点で切り抜け、山崎、ウェンデルケン、森原が零封リレーを見せて逃げ切った。攻撃面では、ここ数年4番を任せ、こだわってきた牧の打順を8月13日以降、5番に固定。絶好調のオースティンを4番に据えるオーダーとし、打線の活性化を図った。

 犠打による手堅い攻撃も、ここにきて積極的に仕掛けている。8月20日の試合で今季初めて一回に送りバントを指示。防御率0点台の難敵・高橋宏斗から初回に2点を奪い主導権を握った。翌21日の中日戦(横浜)でも一回1死一塁から2番・蝦名に迷わずバントのサインを出し、松木平から初回に3点を奪った。こうした“変化”が明らかに結果につながっており、攻撃の歯車がかみ合い始めたのは明るい兆し。8月に入って絶好調の梶原がリードオフマンとして存在感を示せていることも、バント戦術を有効化する大きな要因になっている。

 2位巨人と7試合、3位阪神とは9試合を残しており、大きく負け越している両軍との直接対決(対巨人は6勝12敗、対阪神は6勝9敗1分け)が今後を占うものになるだろう。東、ジャクソンといった安定感のある先発投手をぶつけるなど、巧みな選手運用も求められてきそうだ。昨季から複数年契約を結び、就任4年目を迎えた三浦監督。3年連続のAクラス入りを懸けた瀬戸際の戦いで、何より求められるのが「結果」であることは言うまでもない。


VictorySportsNews編集部