激戦の最中にSNSにあふれた声

 早朝に劇的な展開の熱戦だった。

 日本時間8日の未明。卓球台を挟んで向き合う日本とスウェーデンの選手たちが見る者に息をつかせぬ攻防を繰り広げていた。日本はダブルスとシングルスで2連勝し、決勝進出まであと1勝に迫っていた。

 そこからスウェーデンがシングルスで2連勝と逆襲。最終決戦となった第5試合で張本智和が2―0と先行から、シェルベリが2-3と大逆転し、歓喜の円陣を組む勝者と、ぼうぜんと立ち尽くす敗者のコントラストが鮮烈な印象の終幕を迎えた。

 試合時間は3時間半超の激闘。一喜一憂を画面越しに見続けたファンは寝られない夜を過ごしたが、選手のプレー以外にその視線をくぎ付けにしたのは、画面にたびたび映る、あるロゴだった。

 スウェーデン代表の国旗を連想させる青系のユニホームの右胸には、赤字に白地の見慣れた四角いマーク。テレビカメラにズームされなくても、日本の街中でよく見かけるブランド名と分かる6文字が記されていた。

「UNIQLO」

 SNSでは試合の序盤から「ユニクロなの?」「ちょっとうれしい」「販売しないの?」などの声が巻き起こった。中には、スウェーデン発祥のアパレルブランドに引っかけ「なぜH&Mの国が」という疑問まで。そこで、パリ大会が閉幕後にあらためてユニクロに質問を投げかけてみた。

トルルス選手はシングルスと団体で2つの銀メダルを獲得した(Photo by Swedish Olympic Committee)

ストックホルム1号店が始まり

 まずは、なぜユニクロはスウェーデン代表のユニホームを提供しているのか。

「スウェーデンとのパートナーシップは、2018年8月、ユニクロがスウェーデンの首都・ストックホルムに1号店をオープンした際に、SOC(スウェーデン・オリンピック委員会)からお声がけいただいたのがきっかけで実現しました」

 さかのぼること6年も前だった。契約は翌2019年1月に結ばれ、夏季・冬季のオリンピックのための公式ウエアを制作してきたという。同国は、2021年の東京大会では9個のメダル(金3、銀6)を獲得。2022年北京大会では金メダル8個、合計のメダル数18個(銀5、銅5)は、ともに冬のオリンピックでの歴代最多数となった。

 2024年パリ大会では11個のメダル(金4、銀4、銅3)と東京大会よりも好成績を残した。日本でも放映された開会式に始まり、競泳(キャップ)、スケートボード、ゴルフなどの競技ウエアや、世界記録を更新して金メダルを獲得した陸上男子棒高跳びのアルモンド・デュプランティス選手をはじめとしたメダリストたちのセレモニーシーンでも、着用していたウエアの胸元のユニクロロゴが見え、SNSをざわつかせていた。

 閉幕に向けて暑さが増していったフランスでも、最適なパフォーマンスが出せるように、夏の温湿度を再現したユニクロ有明本部の「服の基礎研究所/ラボ(人工気象室)」にてモニターテストを実施し、発汗しやすい位置にメッシュ素材や通気孔を効果的に配置するなど、快適性をさらに高める改良にも取り組んだ。

 機能面では、吸汗速乾機能の「ドライ EX」や心地よい肌触りの「エアリズム」、自在に伸縮する「ウルトラストレッチ」、着るだけで紫外線をカットする「UV カット」など、同社の主力商品の最新技術が用いられているという。

 2023年には、当初は2024年12月末までとしていた契約期間を2026年12月末まで2年間延長することが発表されており、同年のミラノ・コルティナダンペッツォ大会でも、提供が決まっている。

北欧初のユニクロ クングストラッドゴーダン店

日本チームへの提供は…

 では、その研究結果を日本代表へと提供する考えはないだろうか。重ねて質問をしてみた。

 「あえて海外チームを選んでいるわけではなく、日本を含め他代表チームも、そのようなご縁があれば、前向きに検討したいと考えています。今回、パラリンピックではシンガポールチームにもウエア提供を行いますが、シンガポールでは2009年にユニクロ1号店をオープンしてから15年が経ち、シンガポールでのさらなる社会貢献活動を推進していく中でパートナーシップ契約が実現しました。」。ユニクロが東南アジアの代表チームにウェアを提供するのは初めてのことだ。

 「ウエア提供にとどまらず、次世代のための育成活動を拡大していきたい」という。SOCと合同で「ユニクロドリームプロジェクト」を2020年7月から開始し、スウェーデンのトップアスリートとともに、子どもたちに、スポーツを知り、体験する場を提供している。23年3月までに、約4万2200人の子供たちと約600の学校が参加してきた。

 ワールドワイドな展開を行っていく中で、現地で関係性が作られた先にオリンピック、パラリンピックの舞台がある。その意味では決して、日本選手団の可能性がないわけではない。

「ご縁があれば」

 日本を代表するアパレルメーカーとして、将来的な意欲がうかがえる回答だった。

2024年5月、シンガポールパラリンピック評議会とパートナーシップ契約を締結

サラサラとベタベタ

 ウエアが話題となったのは、日本の視聴者だけではなかったことも興味深かった。

 卓球男子シングルス2 回戦で 金メダル候補の中国の王楚欽をスウェーデンのトルルス・モーレゴードが破った事が大きな話題になったが、卓球大国である中国では、スポーツチャンネルcctvで中国対スウェーデンの試合が放映され、スウェーデンが着るウエアの速乾性を感じるサラサラ感と、中国のベタベタ感の見え方が、中国のSNSで注目の的に。「このユニクロのウエアを買いたい」という書き込みが多くあった。

 日本でも同様の声がある中、スウェーデンのアスリートと開発し、選手提供ウェアと変わらぬ高い機能性をもつコレクションが、8月に日本国内で再入荷し、オンラインストアと国内9店舗で展開している。同社ではオリンピック出場アスリートの後押しを受け、ウエアの実力を是非試してほしいという。卓球競技で話題になった吸汗速乾の「ドライEX」機能が備わったシャツなどを着てみることで、アスリート気分を味わうこともできそうだ。

ユニクロ×スウェーデンアスリートコレクション。選手のトレーニングや、ゴルフ・テニスなどの競技のために開発されたラインナップが揃う

日本代表を感じた瞬間

 最後に。筆者はパリ期間中、選手村での取材機会にある出会いを経験した。

 この日は報道陣に唯一、村内を自由行動で移動がして良い日で、各国の選手、スタッフが行き交うパリ郊外の施設内を巡っていた。その時、前方から歩いてきたのが、スウェーデンのウエアを着た一団だった。

 どの競技かは分からなかったが、擦れ違い様にその中の一人と目が合った。私が胸のマークを指さして「ユニクロなんですね」と伝えると、目を見開いて「日本の方ですか」と会話が始まった。日本発祥のブランドである事をこちらが伝えると、大きくうなずき、「とても気に入っている」と言って、左手で右胸のロゴをポンポンとたたいてみせた。

 そのしぐさ1つで、同国での受け止められ方が分かるようだった。その証にか、最後にスウェーデン選手団用のピンバッジのプレゼントまでしてくれた。

 〝日本代表〟は選手だけではない。そんな事を感じさせてくれる瞬間だった。


阿部健吾

1981年、東京生まれ。08年に日刊スポーツ新聞社入社。五輪は14年ソチ、16年リオデジャネイロ、21年東京、22年北京を現地で取材。現在はフィギュアスケート、柔道、体操などを担当。ツイッター:@KengoAbe_nikkan