日米通算197勝を挙げている田中投手がプロの扉を開いたのは2006年。同年のドラフト会議で4球団から1位指名を受け、交渉権を獲得した楽天へ入団した。創設されて間もない球団からの期待も高く、背番号18をつけた田中は1年目から新人離れの活躍で他球団のバッターを圧倒。初勝利はおろか、高卒新人では松坂大輔以来で、球団史上初の2桁勝利を挙げ、規定投球回にも到達した。楽天球団の高卒新人による規定投球回到達、これも球団では初となる記録だった。そのほか196奪三振と、圧巻の成績を残して高卒ルーキーで新人王に輝いた。2年目の2008年シーズンは9勝に終わり、2年連続2桁勝利とはならなかったが、2年連続150奪三振をマーク。北京オリンピックの日本代表に選出されるなど、成績を残した。以後、2桁勝利をマークし続けた田中投手は、プロ7年目の2013年には、前年からの連勝を28に伸ばし、開幕からシーズン24連勝を達成。いずれも日本プロ野球新記録となり、この2つの記録に加え、ポストシーズンでの2勝を加えた30連勝の3つの記録がギネス世界記録として認定された。これらの記録はもちろん、勝率10割もNPBではいまだ破られていない。最多勝、最優秀防御率、勝率第1位投手を獲得するなど、タイトルを総なめ。球団初のリーグ優勝、日本一の立役者として前人未到の記録を打ち立てた田中投手はMVP、沢村賞にも輝き、同年オフにメジャーへの挑戦を希望していることを表明した。

 2014年にヤンキースと大型契約し、渡米。移籍1年目から2桁勝利を挙げるなど、存在感を示し、2年目を迎えた2015年は開幕投手を託された。前年から痛みを訴えていた右肘の影響で登板機会は少なく、2年連続規定投球回には到達せず。シーズンオフに手術に踏み切ったが、メジャー3年目となった2017年は移籍後初めて規定投球回に到達し、チームトップの14勝をマークした。怪我に苦しむ時期もあったが、それでも白星を積み重ね、2019年にはMLB通算1,000投球回、日本人投手初となる6年連続2桁勝利を達成。ヤンキースの7年ぶり19回目のア・リーグ東地区優勝に大きく貢献し、ポストシーズンでもマウンドを託された。

 しかしメジャー7年目の2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響で開幕は延期。レギュラーシーズンの試合数が60試合制と大幅に減り、2009年からの連続2桁勝利は11年でストップした。7年契約が終了し、FAとなった田中投手は翌2021年に楽天に復帰。2年契約で推定年俸は9億円プラス出来高と、8年ぶりに古巣へ戻った右腕への期待は大きかった。しかし、シーズン開幕直後に怪我に見舞われるなど思うような結果は残せず。復帰1年目は規定投球回には達したものの、2桁勝利はおろか4勝9敗と負け越した。

 復帰2年目の2022年は開幕ローテーションに入り、シーズン序盤から白星を積み重ねたが、9勝どまりで2桁勝利にはあと1つ届かず。NPBでは個人ワーストの12敗(リーグでもこの年のワースト記録)を喫した。オフに海外FA権を取得したが、楽天と再契約。4億2500万円減と大幅に減俸したことは、当時大きく話題となった。昨季は開幕投手を務めたが、同年10月に右肘を手術。7勝11敗、防御率4.91の成績で、再び大幅に年俸は下がり、推定年俸2600万円で更改した。

 今季も開幕ローテーション入り、そして復帰後初の2桁勝利へ、キャンプからオープン戦まで1軍に帯同して実戦を重ねていたが、コンディション不良の影響もあり開幕1軍ならず。開幕後もファームでの調整が続き、出遅れてしまっていた。だが先月、富士大とのファーム練習試合で3月20日のイースタンリーグ・DeNA戦以来、約4か月半ぶりに実戦復帰。その後もイニング数と球数を徐々に増やしながら実戦登板を重ね、ファームではありながらも150キロ越えを計時するなど、健在をアピール。復帰後5度目の登板となった今月13日のイースタンリーグ・日本ハム戦では今江敏晃監督、青山浩二1軍投手コーチら首脳陣が見守る中、球数制限なしでマウンドに上がり、7回を3失点、無四球でまとめた。1軍昇格をかけたマウンドで存在感を見せた田中投手は23日に1軍に合流。28日のオリックス戦で今季初の1軍マウンドに上がることが決まった。
 
 1軍での登板は昨年10月2日のソフトバンク戦以来、約1年ぶりとなる田中投手。チームはCS進出をかけたシーズン終盤の大事な時期を迎える中で、内星龍投手が体調不良で不在。今季41試合に登板し、リリーフとしてチームを支えている宋家豪投手も離脱するなど、先発中継ぎ問わず、ピッチャーの駒が足りていないのが現状といったところだ。そんな中、白羽の矢が立った田中投手に求められるのはチームを勝利に導くピッチングだ。負けられない戦いが続く中、先発のマウンドを託されたということは、チーム状況を度外視しても、ファームで鍛錬を積む若手よりも首脳陣からの期待値が高いということには違いないはず。かつてシーズン24勝を挙げ、チームのリーグ優勝、日本一に大きく貢献した背番号18は今季いまだ白星はおろか登板機会もなかったが、復帰登板で勝負強さを示すことがチームにとってもプラスとなり、そして田中投手個人にとっても必要不可欠だ。レギュラーシーズンも残すところ9試合のため今季は多くても本日の復帰登板を含め、計2登板と見込まれる。日米通算200勝まであと3勝、記録達成は来季に持ち越されることとなりそうだが、まずは今季初登板、久々の本拠地での1軍登板を復活のマウンドとしてほしい。


VictorySportsNews編集部