悔しさを糧に、怪我を成長の機会に

 今シーズンの挑戦について、岡選手は「ジャカルタで世界選手権が開催されていたが、それなりにプレッシャーを感じながらも大きな挑戦ができる大会だった」と振り返りました。結果としては「とても悔しい結果になった」ものの、この経験を「来年の糧になればと思っている」と前向きに捉え、来年結果を残すためにも「挑戦という言葉を忘れずに日々取り組んでいきたい」と決意を表明しました。

 一方、クライミング界の頂点を目指す楢﨑選手は、シーズン全体に手応えを感じているといいます 。世界選手権では優勝を目指したものの4位と、狙った順位は取れませんでした。しかし、「今クライミング界はすごく選手が伸びてきている」中で、「自分としてはまだまだ戦えると思うし、伸ばせるポイントもかなり見つかったので、良いシーズンになったと思う」と語っています。さらに、シーズン前半に指の怪我をしたことで、自分を見つめ直すような時間を作れたといい、そこからの気づきを活かして「来年以降も楽しみだと思っている」と進化への期待を述べました。

 楢﨑選手は、競技の源流でもある自然の岩に挑むため、フィンランド遠征にも出向いていました 。ボルダリングが自然の岩を登ることからきていることに触れ、「今世界で難しいと言われているのがフィンランドにあって、そこに挑戦した」と明かしています 。これはクライミングの本質を見つめ直す意味で原点回帰とも言える姿勢であり、楢﨑選手の競技観の深さを感じさせるエピソードです。

今年10月にノルケインのアンバサダーに就任した岡慎之助選手

視線の先にある、ロサンゼルス五輪と「時間」の管理

 話題は自然と、2028年のロサンゼルス五輪へと移りました。

 岡選手は、パリでの三冠(金メダル三つ)をさらに超えていく覚悟を語ります。「ロサンゼルス五輪が大きな舞台になるので、そこでパリ五輪で三冠したように、次は四冠できるようにしたい」と、五輪で四冠という金字塔に挑む姿勢は、すでに次の物語の始まりを告げています 。まずは今回の世界選手権の悔しさを、来年の世界選手権でリベンジしたいと考えています。

 楢﨑選手もまた、「僕もロサンゼルス五輪で優勝することが目標なので、そこに向かって1年1年大事に過ごしていって、大きく成長していかないといけないなと思っている」と、目標はただひとつであることを強調しました。クライミング界は若手の台頭が著しいですが、楢﨑選手はその中心で進化を続けるベテランとして強烈な存在感を放ち続けています。

 今回の対談は時計ブランドによるものということもあり、アスリートの「時間の使い方」についても話が及びました。岡選手は徹底したタイムマネジメントを明かし、「時間の管理は徹底していて、何時に練習場に来て、何時に練習してというのは分刻みで計画を立てている」と語ります。起きる時間、朝食の時間といった細かい時間も決めており、自身のメモに「何時に何をしてというのを常に書いている」と、時間を積み重ねる競技者のリアルな姿が伝わります。

 一方、楢﨑選手は、長期的なトレーニング計画と競技中の瞬時の判断の両面から時間を捉えています 。トレーニングでは「1年後この大会でこういった状態になりたいから、こんな風に過ごしていかないといけない」と逆算して考えている一方で、競技中は「一瞬一瞬の判断が大事になってくる」と語りました。

今後の挑戦を熱く語る楢﨑智亜選手

「伝統」と「挑戦」

 最後に、二人が語ったのはアスリートとしてのアイデンティティ、すなわち“自分らしさ”という武器についてでした。

 岡選手は、「伝統を生かしながら挑戦する」のが自分の強みだと感じているといいます。体操が持つ「美しい体操」という伝統を生かし、人を魅了しつつ、難しい技への挑戦を続けていく姿勢を大事にしていると語りました。

 楢﨑選手もまた、競技者として成績が第一であることは認めながらも、「それ以上にクライミングを通して自分がどうありたいか、どう登りたいか、どう伝えていきたいかというところを日々大事に生きている」と、競技を通じた自己表現の重要性を強調しました。

 体操とクライミングという異なる競技に取り組む両選手ですが、その言葉には共通して「挑戦」を軸に据える確固たる姿勢が見て取れました。パリ五輪、世界選手権と、それぞれの経験を踏まえ、次のシーズンに向けて着実に前進している彼ら。2028年ロサンゼルス五輪に向けた戦いはすでに始まっており、今後のパフォーマンスにも注目が集まります。


VictorySportsNews編集部

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