このイベントは、日本を代表するアパレルメーカーである株式会社ユニクロが、元プロ野球選手のイチローさんと共に、子供たちがスポーツを通じて、“好きを見つけるきっかけ”を届ける目的としたプロジェクトである「イチロー DREAM FIELD」の活動として行われ、プロジェクトの第一弾イベントとなった。

「僕が野球に出合ったのが3歳の時です。好きなことに打ち込んでいくと、野球がどんどんうまくなったり、手ごたえを感じたりする。楽しいことと実感でき、それがすごく気持ちよかった。野球はチームスポーツなので、いろいろな仲間に出会える。レベルが上がっていくと、壁にぶち当たるけど、挑戦できる。好きなことを見つけることによって、いろんな良いことが生まれる。野球だけではなくて、テニス、サッカーもトライして、好きなことを見つけてほしい。得意なことでもいい。何か自分にとって、好きなことを見つけるきっかけにしてほしい」(イチローさん)

 当日は、小学4年生~中学3年生の子供たち総勢161名が集まった。野球をコーチするイチローさんのほか、テニスの指導を担当する現役プロテニスプレーヤーの錦織圭選手、サッカーを指導する元プロサッカー選手の内田篤人さんが駆けつけて、今回子供たちは、3競技のスポーツを体験できた。

 午前の「CHALLENGEコース」では、子供たちが、野球、テニス、サッカーの各競技を40分ずつ順番に体験。野球のプログラムでは、イチローさんが、キャッチボールの基礎である投げ方や捕り方、ティーバッティングによる打ち方を教え、できなくてもいいからとにかく楽しんでほしいと子供たちに伝えた。

「本来野球は、複雑な動きで難しいはずなんですけど、初心者の子でも、みるみる上手くなって、楽しいとか、気持ちいいとか感じ取ってくれて、僕もうれしくなりました。自分が野球を始めた頃の気持ちを思い出しました」(イチローさん)

 テニスでは、錦織選手が、ラケットでボールに慣れる方法や、グランドストロークやボレーの基礎を子供たちに教え、とにかくテニスを楽しんでもらえるようにした。

「とても楽しかったですね。テニスって、最初は難しいんです。ボールとのコーディネーションに気を使わなくてはいけなかったり…。みんな一生懸命やってくれた」(錦織選手)

 サッカーでは、子供たち全員が声を出して互いに盛り上げ合い、終始一体感のある雰囲気に包まれた中で、内田さんが指導した。

「サッカーではミスは当然。ミスがある中でもどんどんトライしてくれてよかった。そこからいろいろ学んで、チームワーク、勝ちに対して、うまくなることに対してみんなが協力し合ってよかった」(内田さん)

 続いて行われた「DREAM SESSION」では、まず座談会が行われ、イチローさん、錦織選手、内田さんが、それぞれの競技にどう出合って、どう夢中になったかを子供たちに聞かせた。

「出合いは3歳の頃で記憶にないのでわかりません(笑)。野球にのめり込んだきっかけは、上手くなっていくことを実感した瞬間ですね。子供の頃は、やればやるほど上手くなっていくことがモチベーションになります。その先の壁にぶち当たった時に、好きじゃないと立ち向かえない。自分が好きなことに、今まで夢中になって取り組んできた自信があるからこそ立ち向かって行けると思います」(イチローさん)

「5歳からテニスを始めた。両親が好きでテニスをやっていた。親やお姉ちゃんと、最初は公園でやって、犬がボールを取りに行ってくれた。やっぱり楽しいが一番。勉強もやりつつ、いろんなスポーツをさせてもらった。サッカー、野球、水泳、お母さんがピアノの先生だったので、ピアノも。好きだったのがテニス、うまかったというのもあって、テニスを選びました。やっぱり好き、楽しいというのがやる気につながった」(錦織選手)

 また、やる気が出ない時やうまくいかない時の対処法を聞かせてくれた。

「普段のトレーニングで一連の決まった行動があって、やる気が出ないけど、それをやると、何となく体が起きてくる。やる気はないけど、体がやりたくなってくる方向にもっていく。プロの世界では」(イチローさん)

「やる気が出なくても、1位を目指すにはやるしかない。最悪、本当にだめだと思ったら、テニスを忘れる。基本的にはやるしかない。やるしか選択肢がないのでやる」(錦織選手)

 そして、スポーツ選手のルーティーンについても話してくれた。

「いっぱいあるし、ゲン担ぎもする。(グラウンドへの)階段を上っていく時に、まず1打席目は左足から。ヒットが出たら次も左。凡退したら次は右から。試合が終わった時に、あれ今日やらなかったなという感触を残したくない。全部やったけど、結果が出なかった理由は自分の野球の中にあるという状態にしたい。グラブを毎日磨くのは、次の日にグラブを手入れしないで何か起こった時に、必ず手入れしなかったな~になる。気持ちを整理するためにすごく大事」(イチローさん)

「僕はゼロですね。ゼロですけど、ルーティーンはあった方がいい派です。僕はやっていないだけ。やろうとした時期はあったけど、面倒くさがり屋。3日続かなかったので、あぁ、やめようと」(錦織選手)

 座談会の後には、イチローさんが、テニスとサッカーに挑戦する異競技チャレンジが行われた。まず、イチローさんが、錦織選手のサーブをリターンすることに挑戦したほか、サッカーゴールのクロスバーに当てるチャレンジも行った。イチローさんは、初挑戦の連続だったが、真剣になりながらも楽しむ姿を披露して、会場は大きな盛り上がりを見せた。

「錦織さんも内田さんも(フォームが)きれい。これは、競技がうまい人の特長。大きくも見えるし、きれいに見える」(イチローさん)

 「CHALLENGEコース」の最後に、イチローさんは、「(好きなものは)見つかりましたか?」と、温和な表情で子供たちに優しく語りかけた。

「なかなかない機会ですので、この日の感覚、気持ちを覚えておいてほしい。ひょっとしたら、お父さんやお母さんの方が(記憶に)残るかもしれないので、今日のことをお子さんたちに伝えてあげてほしい」

 午後の「BOOSTコース」では、競技力の向上を目的とした経験者向けの本格的な指導が行われた。野球では、イチローさんが、投球における肩甲骨の使い方や体の開き具合、スウィングにおけるボールに対するバットの角度、走塁における股関節の使い方など、現役時代の経験を踏まえた細かいポイントが、子供たちに伝授された。

子供たちのバッティングに対して、身振り手振りで指導するイチローさん

「みんな上手だから、僕も力が入っちゃって、最後はまた肉離れしそうになっちゃいました(苦笑)。みんな勝負する雰囲気がすごく出ていて、ただ楽しいだけのレベルではなくて頼もしかった。当時の僕よりも、よっぽどうまい子がいましたね。だから、何とかこのまま続けてほしいなとすごく思いました」(イチローさん)

 また、「BOOSTコース」での指導を終えた錦織選手と内田さんも、次のように感想を述べた。

「上手い子がたくさんいて、これからプロになるという子もいるんだろうなと思って楽しい時間でした」(錦織選手)

「今は、どのスポーツもどんどん世界に出ていく時代です。その中でコミュニケーション。日本語で通じるのに、ちょっともじもじしちゃう。スポーツに関係なく、この年代でどんどん身に付けていってほしい。これから、日本のサッカー、スポーツを背負っていく世代だと思いますので、けがなく、楽しんでスポーツを続けていってほしいなと思います」(内田さん)

 イベントの最後には、イチローさんが、総括として子供たちにメッセージを送った。

「希望とか明るさなどのポジティブな空気にすごく包まれていて、すごく良い雰囲気でこのイベントが開催されたことをとても喜んでいます。みんなの可能性は無限大で、頑張れば頑張るほど上手くなれる。そのうえで、好きでい続けられれば、もっともっとレベルが上がっていく。ぜひこれをきっかけに、みんな、野球、サッカー、テニス、他の競技でも、何か好きなことを見つけて、ぜひ頑張っていってほしいなと思います」

 今回、「第1回 イチロー DREAM FIELD DAY」が開催されたことによって、多くの人が思い描くような夢のイベントが実現したわけだが、願わくは単発に終わらずに持続可能なイベントであっていってほしい。それには、イチローさんらアスリートたちの力だけでなく、プロジェクトを推進するユニクロのサポートも必要不可欠だ。

 そして、イベントに参加した子供たちの中から、将来、イチローさん、錦織圭選手、内田篤人さんを超えるような世界で活躍するプロアスリートが出現することも願いたい。


神仁司

著者プロフィール 神仁司

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)勤務の後、テニス専門誌の記者を経てフリーランスに。テニスの4大メジャーであるグランドスラムをはじめ数々のテニス国際大会を取材している。錦織圭やクルム伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材も行っている。国際テニスの殿堂の審査員でもある。著書に、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」がある。ITWA国際テニスライター協会のメンバー 。