文=浅田真樹

名のある大物の移籍が相次ぐ2017年度のJリーグ

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 1月1日の天皇杯決勝が終わり、日本の2016年シーズンも幕を閉じた。

 終わってみれば、鹿島アントラーズがJ1と天皇杯の二冠を制し、クラブワールドカップでも準優勝。昨年11月ごろなら、予想の難しかった結末である。

 さて、Jリーグもシーズンオフに入り、移籍決定の情報が数多く飛び込んでくるようになった。今オフは例年に比べ、主力級の移籍が活発に行われているように感じる。
たとえば、ガンバ大阪。MF大森晃太郎(24)(→ヴィッセル神戸)、MF阿部浩之(27)(→川崎フロンターレ)らがクラブを離れる一方で、DFファビオ(27)(←横浜F・マリノス)、MF泉澤仁(25)(←大宮アルディージャ)、MF井出遥也(22)(←ジェフ千葉)らが新たに加わる。

 G大阪の他でも、泉澤が離れる大宮からはMF家長昭博(30)の川崎移籍もすでに決定。逆に、その川崎からは、FW大久保嘉人(34)のFC東京移籍が決まった。また、ファビオが離れる横浜FMからは、MF中村俊輔(38)のジュビロ磐田移籍が発表された。こうして移籍情報の一部をピックアップしただけでも、主力級が活発に動いている様子は見てとれる。([引用]Jリーグ移籍情報2016-2017

 従来、日本のプロスポーツ(主にプロ野球ということになるが)では、「生え抜き」であることが重要視されてきた。ひとつのチームで現役生活をまっとうする。そんな考え方を美徳とする傾向は強い。プロ野球ではフリーエージェント制度(プロ入り後、一定の年数が経過すれば他球団と自由に交渉できる)が導入されて以降、昔に比べれば生え抜き重視の傾向は弱まったが、監督選びにあたっては今でも“外様”を嫌う球団は多い。

 もちろん、サッカーも例外ではない。Jリーグの場合、ユース以下のアカデミー(育成組織)出身の選手もいるため、むしろプロ野球以上に生え抜きに対する思い入れは強いのかもしれない。所属クラブがJ2に降格してもなお、日本代表クラスの選手でさえ移籍を選択することなく、翌シーズンも同じクラブ、すなわち2部リーグでプレーし続けるというのは、日本ならではの現象だろう(そもそも、日本代表選手を擁するクラブが2部に降格するなどということが頻繁に起こること自体、世界的に見て珍しいのだろうが)。

日本の移籍市場もワールドスタンダードへ

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 よくも悪くも、それが日本的な考え方であり、慣習でもある。

 とはいえ、野球との比較においてサッカーが決定的に違うのは、選手寿命が短いこと。そして、1試合に出場できる選手が最大でも14名に限られることに加え、1シーズンの試合数も少ない。つまりは、試合出場のチャンスが絶対的に限られているのだ。

 生え抜きであることにこだわりすぎれば、能力に見合わない低評価しか得られないまま、現役生活に終止符を打つことにもなりかねない。決して長くはない現役生活のなかで、いかに高い評価を勝ち取るか。それを考えることはプロとして当然の発想だろう。だとすれば、各クラブの主力級であろうと、移籍を選択する選手が増えてくることは自然な流れ。ある意味で、ワールドスタンダードに近づいたと言ってもいいのだろう。高い評価を勝ち取るためには、まずは試合に出られなければ話にならない。そして、試合に出て活躍できるようになったら、J2のクラブからJ1のクラブへ。さらには、残留争いをするクラブから優勝争いができるクラブへ、といった具合にステップアップしていくことになる。もちろん、移籍先を選ぶにあたっては、各クラブが志向するサッカーと自分のスタイルが適合するかどうかも見極めることも重要だ。

 新たにパフォームグループと結んだ巨額の放映権契約を背景に、今シーズン以降Jリーグではリーグ戦の賞金やクラブ毎の配分金が増額されることになった。わかりやすく言えば、順位に応じて受け取る金額の差が大きくなる仕組みだ。1年ですぐに大きな変化は見られなくても何年かするうち、次第にクラブ間の格差は広がっていくに違いない。

 持てるクラブは優れた選手を集めて戦力強化を進められる一方で、持たざるクラブは今まで以上にスタイルを明確に示さなければ選手にそっぽを向かれかねない。今後クラブの序列とキャラクターがはっきりしてくれば、選手が自らのキャリアデザインに沿った移籍を選択しやすくなり、主力級の移籍も当たり前のものになっていくのだろう。そう考えると、例年に比べて活発に見える、今オフの移籍動向も、そんな流れの予兆なのかもしれない。


浅田真樹

1967年生まれ。大学卒業後、一般企業勤務を経て、フリーライターとしての活動を開始。サッカーを中心にスポーツを幅広く取材する。ワールドカップ以外にも、最近10年間でU-20ワールドカップは4大会、U-17ワールドカップは3大会の取材実績がある。