文=和田悟志

国内に敵なしの最強ランナー遠藤日向

 高校生最強ランナーは、なぜ箱根駅伝を目指さずに実業団入りするのか?
──その答えは至極明瞭だ。
「2020年の東京オリンピックは、(大学に進学していれば)大学4年で迎えることになりますが、オリンピックと箱根と2つを両立するのは自分には厳しい。駅伝に興味がないわけではありませんが、駅伝とオリンピックだったら、絶対にオリンピックに行きたい……」
 それが、高校生最強ランナー遠藤日向(学法石川高・福島)が進むべき道を決めた理由だった。

 陸上・長距離界において、この3月に高校を卒業する世代は人材が豊富だ。高校トップ選手の証とされる5000m13分台は、歴代でも70人(留学生を除く)しかマークしていないが、そのうち9人をこの世代が占める。それほどの実力者が集う世代にあって、突出した強さを発揮していたのが遠藤だった。

 遠藤は、郡山四中時代にも全日本中学校陸上競技選手権の3000mで優勝するなど、中学時代から世代を代表する選手だった。ちなみに中学時代の指導者・鈴木貞喜先生は、元マラソン日本記録保持者の藤田敦史の中学時代の指導者でもある。

 その強さは、学法石川高に入学してさらに磨きがかかる。

 国体では、1年時に少年B(中3〜高1)3000mで優勝すると、高2、高3は、少年A(高2〜高3)5000mを連覇と、年上や留学生が相手でも負けなし。インターハイでも、5000mでは2年連続日本人1位、3年時は1500mでタイトルも手にした。今年1月の全国都道府県対抗男子駅伝は、年末にインフルエンザにかかったことや故障明けだったこともあって、1区13位と振るわなかったが、本人の記憶をたどると、記録会を除く競技会で同世代相手に負けたのは高1時の同大会以来だったという。まさに国内無敵を誇ったのがこの遠藤という選手だ。

 記録面でも、高2時に3000mの日本高校新記録を打ち立てると、高3ではさらに更新し、日本人高校生初となる7分台(7分59秒18)をマークした。5000mは高校記録更新こそならなかったものの、13分台は史上最多の7回を誇った。国際舞台も2015年に世界ユース、16年にU20世界選手権と2度の世界大会に出場。世界ユースでは3000mで5位入賞を果たしている。

「22歳でオリンピックを経験しておくことは大事」(遠藤)

©共同通信

 勝負強さがあり、記録面でも申し分がない、これほどの選手。当然、多くの大学や実業団の指導者が、喉から手が出るほど欲しがった。
 そして、遠藤が選んだ進路先は実業団の住友電工だった。同チームを指揮するのは、かつて大学駅伝界のスターだった渡辺康幸監督だ。渡辺監督は、早大1年時の1992年に世界ジュニア選手権(現:U20世界選手権)の10000mで銅メダルを獲得した実績がある。遠藤は同大会で5000mで13位と惨敗しているだけに、渡辺監督の実績がどれほどすごいことか、身をもって実感している。

 また、指導者としても渡辺監督は、早大駅伝監督時代に、出雲、全日本、箱根の大学駅伝3冠を成し遂げたほか、竹澤健介、大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)と2人のオリンピアンを育て上げている。その渡辺監督に「うちに来れば絶対に強くなる」と勧誘を受けて、遠藤の心が揺れ動かないわけがなかった。

 遠藤が世界を強く意識するようになったのは、2度の世界大会を経験したことが大きい。

 自信をもって臨んだ世界ユースは、予選から他国の選手に圧倒された。決勝は思い切って積極的にレースを進めたが、それでもメダル獲得はならなかった。そして、U20世界選手権ではペースの上げ下げに着いていけず、中間点を前に後退。国内では無敵でも世界が相手では歯は立たなかった。

 だが、この惨敗にかえって遠藤は意欲を強めた。
「日本は狭いんだなってわかりましたし、世界で絶対に勝ちたいという気持ちを再確認できました」
と視野を広く持った。

 同世代のライバルたちが箱根駅伝をステップにする中、遠藤は一直線で東京オリンピックを目指す。とはいえ、2020年を見据えて実業団に進む道を選んだ遠藤だが、本当に“勝負”と踏んでいるのは、その4年後の2024年のオリンピックだ。
「初めてのオリンピックでメダルを取ることは難しいと思うので、2024年は26歳と(競技者として)いい年齢なので、そこで本当に狙っていきたい。そのためにも、22歳でオリンピックを経験しておくことは大事だと思っています」

 そのためにも、社会人1年目は5000mを主戦場にしながら、1500mにも積極的に取り組んでスピードを強化していくという。大学に進学するとなれば箱根の20㎞に対応しなければならないが、それがない分、思い切り自分の武器に磨きをかけることができるのだ。

 国際舞台で日本勢の活躍がなかなか見られずにいるものの、大迫や村山兄弟(謙太、紘太=ともに旭化成)、設楽兄弟(啓太=コニカミノルタ、悠太=HONDA)ら楽しみな若手選手が増えてきているのも事実。その顔ぶれに、この遠藤をも加わってきてほしい。

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1980年生まれ。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。