スピードスケート女子500m最強の座に上り詰めた

 ウインターシーズンで大きな注目を集めた選手がいる。スピードスケートの小平奈緒だ。

 平昌五輪のプレ大会として江陵で開催された世界距離別選手権では、500mで同大会では初の金メダルを獲得し、1000mでも銀メダル。500m、1000mをそれぞれ2回行い、タイムを得点に換算してその総合成績で決める世界スプリント選手権でも金メダルを手にした。しかもその得点は世界新記録であった。

 この2大会ばかりではない。得意とする500mでは、国内外で出場した15レースすべてで勝利したのである。むろん、ワールドカップでも種目別総合優勝を決めている。

 世界距離別選手権では37秒13の日本新記録を出しているが、これは世界歴代9位に相当する。それだけだと記録の価値が分かりにくいかもしれない。実は8位までの記録は、ソルトレイクシティとカルガリーでマークされたタイムだ。この2つの街のリンクは、標高1000mを超える位置にあり、記録が出る「高速リンク」として知られている。空気抵抗が小さいため、好記録が出やすいためだ。

 一方の江陵のリンクは標高40m強でしかない。高地で出された記録を除けば、世界最高と言ってよい。それもまた、小平の進化を物語っている。

 まぎれもなく500mで世界最強の選手となった小平は、2010年のバンクーバー、2014年のソチと2度のオリンピックに出場、そのほか数々の国際大会にも出場しているように、ベテランの域に到達した選手である。個人種目の成績を見ると、バンクーバーでは1000mと1500mで5位、ソチでは500mで5位と入賞している。ただ、常に第一線にいたものの、世界をリードする位置にいたわけではない。

 にもかかわらず、昨年30歳を迎えた今、世界をリードする位置につけるまでに進化したのは、驚きのほかない。

彼女を変えた、2年間のオランダ留学

©Getty Images

 変貌を遂げるきっかけとなったのは、ソチ五輪だった。日本女子のエース格として、周囲から期待が集まり、小平自身も2度目のオリンピックにメダル獲得を目標として臨んでかなわなかった。

 長年、懸命にトレーニングに励み、怠らなかったはずだった。それでも目標に手が届かなかったとき、オランダに渡ることを決意した。オランダはソチのスピードスケートで計23個のメダルを獲得したことが物語るように、世界最強と言ってよい国だ。彼らに学ぼうと考えたのである。

 留学は功を奏した。フォームなど技術の面でアドバイスを受けて、それを取り入れた。

 世話をしてくれる日本人がいるわけではなかったから、生活の中の、何をするにしても自分ひとりで行なわなければならない。当初は大きなストレスともなったが、精神的なたくましさとなってかえってきた。

 2年間の留学生活でさまざまな糧を得て帰国。それが開花したのが今シーズンだった。

「人より、ちょっとスローな競技人生を歩んでいると思います。30歳ですが、自分の感覚としては二十代半ばくらいです」

 30歳にして花開いたのは、何よりも、小平自身の途切れぬスピードの追求と、打ち込む姿勢にほかならない。同時に、環境の変化がの意味も、そこに浮き彫りになる。

 どれだけ努力をしても、もがいてもどうにもならないとき、場を変えることが自身を変化させる、道を切り開くきっかけになりえる。小平の今シーズンは、そう伝えている。

小平奈緒はなぜ“覚醒”したのか? ソチでの失意からスピードスケート世界最強最速に上り詰めた秘密

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松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、冬季は2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、 2010年バンクーバー、2014年ソチと現地で取材にあたる。